女子アスリートなら知っておきたい生理の症状に関する主な4つの...の画像はこちら >>

「スポーツと生理」の課題について情報発信する伊藤華英さん

伊藤華英の For Your Smile ~ 女性アスリートの未来のために vol.9

【生理で我慢をする時代は終わった】

 世界水泳や女子サッカーのワールドカップをはじめ、今年の夏もさまざまなスポーツ大会が開催されています。競泳では池江璃花子選手や大橋悠依選手ら女性アスリートに注目が集まりましたし、なでしこジャパンの活躍も話題になっています。

 そんな女性アスリートであれば避けて通れないのが、月経(生理)への対処です。

私は女子学生アスリートを中心に、「スポーツと生理」にまつわる課題について情報発信をする一般社団法人スポーツを止めるな「1252プロジェクト」のリーダーとして、さまざまなコンテンツを通して情報発信していますが、まだ月経困難症や月経随伴症状(※)などの月経痛で辛い時に、我慢することが当たり前だと考えている人が多いと感じています。そのような人たちには、月経を我慢する時代はもう終わったと考えてほしいです。
※月経前や月経中に起こる下腹部痛などの症状やイライラなどの精神症状

 月経痛を解決する、対処するためには、専門家や婦人科の先生、指導者、トレーナーの方へ相談することがとても重要です。しかし1252プロジェクトによる運動部所属女子学生へのアンケートで、月経の悩みについて相談できる相手の第1位は母親で54%、2位がチームメイトで31%、3位が学校の友人で23%、4位が兄弟・姉妹で6%という結果が出ています。いずれも専門的な知識を持っている人ではありませんので、これでは解決することは難しいと感じます。

【覚えてほしい4つの対処法】

 この現状を踏まえて言えるのは、母親(父親)もアスリート自身も、まずは正しい知識を学ぶことです。月経の症状は十人十色ですから、それぞれの経験が他人に当てはまるわけではありません。

女性アスリートだけでなく、周りの大人も含めて知識のひとつとして持っておいてほしいのが、次にある月経の症状に関する主な4つの対処法とその内容です。

〇鎮痛剤
〇低用量ピル
〇黄体ホルモン療法(経口)
〇黄体ホルモン療法(子宮内黄体ホルモン放出システム)

「鎮痛剤」は月経痛を治療する薬です。飲むタイミングは痛みの兆候が出始めた時で、早めに飲むことをお勧めします。またアスリートであれば、ドーピング禁止物質が入っていないかを薬剤師に確認する必要があります。また個人でも調べることは可能です。GLOBAL DRO(The Global Drug Reference Online)というサイトで確認することができますので、飲む前に調べてみるといいでしょう。

「低用量ピル」(※)は月経痛や過多月経、月経前症候群などを治療する薬。最近では月経周期を調整するために使用するアスリートが増えています。トップアスリートでは、欧米の選手の使用率は比較的高いですが、日本ではまだ避妊薬というイメージが強いのか、欧米に比べると飲んでいる人が少ない印象です。ただ2012年のロンドンオリンピックから比較すると徐々に増えています。
※人によって合わない場合がありますので、専門家の先生との相談が必要です。

「黄体ホルモン療法(経口)」は、そもそもの経血量を減らすことで月経痛や過多月経を治療する薬です。

「黄体ホルモン療法(子宮内黄体ホルモン放出システム)」は、月経困難症、過多月経の治療として子宮内に挿入して使用します。一般的に出産経験のある女性に使われるものなのですが、人によっては出産経験がなくても使用している方もいます。

 ここに挙げた4つは、主な対処法であり、症状によってさまざまな対処法があることも知っておいてください。

 そして「漢方薬」も月経痛・月経不順などの治療薬として知られていますが、成分がすべて明確になっていないものもありますから、ドーピングの観点からアスリートは使用できないと考えてください。もちろん私のように競技シーンから離れてしまった人は飲んでも問題ありませんが、運動部活生なら飲まないようにしましょう。

【婦人科の先生を見つけてほしい】

 これらの知識を得ることと同時に、かかりつけ医の婦人科の先生を見つけることもとても重要です。

月経痛がひどくて起き上がれないとか、部活の練習に参加できないとか、月経のたびに鎮痛剤を飲んでいるというのであれば、一度婦人科に行ってみてください。

 10代のアスリートのなかには産科と婦人科がくっついた「産婦人科」に行くのは抵抗があるという人がいます。そんな時にはチームのコーチやトレーナーの方が一緒に行くなどの対応をしてほしいです。

 また女性アスリート健康支援委員会のサイトには、「産婦人科医検索システム」があり、月経周期とコンディションへの対策や運動性無月経など、女性アスリート特有の問題に対応するための講習会を受講した医師を、地域別に検索することができます。約1500人の医師が登録されていますので、かかりつけの先生がいない場合は、ここで探してみるのもいいかもしれません。

 そして女性アスリートのみなさんにはとくに、月経に対する意識を変えてほしいと思っています。

月経は女性にとって人生とともにあるものです。女性は平均12歳から初経を迎え、50歳あたりに閉経を迎えます。自身の健康において、月経はとても大切なものなのです。人には、自分自身の体を守っていく権利があることをしっかりと認識してください。

 またアスリートには楽しくスポーツをする自由もあります。女性が健康であるということは、正常な月経周期、月経期間で生理があるということですので、それを大前提としてスポーツを楽しんでほしいです。

また正常に月経がきていれば、たくさんの対処法があることを認識してください。

 知識をしっかりと持って、専門医の方に相談できる体制を整えておけば、スポーツのパフォーマンスが上がることも知っておいてほしいです。


【Profile】
伊藤華英(いとう・はなえ)
1985年1月18日生まれ、埼玉県出身。元競泳選手。2000年、15歳で日本選手権に出場。2006年に200m背泳ぎで日本新、2008年に100m背泳ぎでも日本新を樹立した。同年の北京五輪に出場し、100m背泳ぎで8位入賞。続くロンドン五輪では自由形の選手として出場し、400mと800mのリレーでともに入賞した。2012年10月に現役を引退。その後、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科に通い、順天堂大学大学院スポーツ健康科学部博士号を取得した。現、全日本柔道連盟ブランディング戦略推進特別委員会副委員長、日本卓球協会理事。