ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――先週行なわれた牝馬三冠最終戦のGI秋華賞では、単勝1.1倍という圧倒的な支持を受けたリバティアイランドがその期待に応えて完勝。史上7頭目の三冠牝馬となりました。

大西直宏(以下、大西)"勝って当たり前"というレースは、乗り役にとっては本当に難しいもので、ジョッキーが受ける重圧は計り知れないものがあったと思います。

 しかし、百戦錬磨の川田将雅騎手は、その重圧を楽しんでいるかのように冷静な振る舞いを見せていました。いつものクールな騎乗で、リバティアイランドを楽々とエスコート。彼の騎手としての器の大きさを改めて感じました。

 震えるほどの感動的な競馬を久々に見せてもらい、リバティアイランド陣営の関係者の皆様には、重ねて賞賛の拍手を送りたいと思います。

――さて、今週は牡馬三冠の最終戦、GI菊花賞(10月22日/京都・芝3000m)が行なわれます。

皐月賞馬とダービー馬がこの舞台で対決するのは、23年ぶりのことだそうです。

大西 近年、世界的に長距離レースの価値が低下しており、それに伴って菊花賞の優先度も下がっています。これは、時代の流れでしょう。三冠でも懸かっていないと、春の二冠の勝ち馬が出走してこないので、今年は本当に稀なケースだと思います。

 だからこそ、皐月賞馬とダービー馬の両陣営が菊花賞への出走を決めたことについては、慎重に検証し精査したいところ。そして、この舞台でそれぞれがどんな走りを見せてくれるのか、大いに注目しています。

――今回はその2頭、GI皐月賞(4月16日/中山・芝2000m)を勝ったソールオリエンス(牡3歳)と、GI日本ダービー(5月28日/東京・芝2400m)を制したタスティエーラ(牡3歳)に対する信頼度がどの程度なのか。馬券予想においては、その辺りが大きなポイントとなりそうです。

大西 2頭の実力を評価するうえで、皐月賞、ダービーともに、時計面での裏づけが乏しい、という点が指摘されています。

 皐月賞は極端な重馬場で行なわれ、ハイペースの前崩れの展開となりました。一転、ダービーはスローペース。「皆が勝ちにいくダービー」のはずが、「誰も動かないダービー」になってしまい、ダービーらしからぬ遅いタイムでの決着となりました。

 こうした特殊の内容に終わった春二冠の結果を鵜呑みにしていいのか?――そんな疑念を抱いてしまう気持ちはよく理解できます。

 加えて、タスティエーラは異例とも言えるダービーからの直行での参戦。片や、ソールオリエンスは前哨戦のGIIセントライト記念(9月18日/中山・芝2200m)で2着に敗れていますからね。

――そうなると、波乱ムードが高まっていると考えてもいいのでしょうか。

大西 僕は、そうは考えていません。というのも、新たな新興勢力の台頭がほとんど見られないからです。

 もうひとつの前哨戦、GII神戸新聞杯(9月24日/阪神・芝2400m)を勝ったのはサトノグランツ(牡3歳)。その他、古馬相手のGII札幌記念(8月20日/札幌・芝2000m)で2着と好走したトップナイフ(牡3歳)、GIII新潟記念(9月3日/新潟・芝2000m)で勝利したノッキングポイント(牡3歳)と、目立った結果を出しているのは、いずれもダービーに出走し、タスティエーラとソールオリエンスの2頭に完敗した馬ばかりですから。

 確かに春の二冠は極端な展開で、時計面で強調すべき点はありませんでしたが、どんな展開になっても崩れずに走れる2頭の安定感は、評価すべきだと思います。

 菊花賞でも、やはりこの2頭がレースの中心になる可能性は高いでしょう。僕は3度目のワンツー決着も十分にあり得ると考えています。

――ということは、伏兵の激走を期待するのは難しい状況にあるかもしれませんが、2頭以外で大西さんが気になっている存在はいますか。

大西 距離を延ばしてよさが出てきたノッキングポイントに注目しています。ダービーでは、木村哲也厩舎の2番手(当時1番手の評価を受けていたのは、クリストフ・ルメール騎手騎乗のスキルヴィング)といった扱いでしたが、15番人気という低評価を覆す走りを披露。勝ち馬にコンマ2秒差の5着と健闘しました。

 そして、それがフロックでないことを証明したのが、前走の新潟記念。重賞戦線で奮闘を続ける古馬たち相手に、中団から抜け出して快勝しました。

菊花賞は皐月賞馬、ダービー馬による3度目のワンツー決着もある...の画像はこちら >>

 鞍上の北村宏司騎手は、初騎乗だったダービーでは"負けてもともと"といった気楽な気持ちだったと思いますが、前走では人気を背負って勝ちにいく競馬をして、見事に結果を出しました。

3度目の騎乗となる今回は、さらに自信を持って乗れるのではないでしょうか。

 ここ数年は大きなケガにも悩まされ、大舞台でなかなか結果を出すことができなかった北村騎手。しかし今年は、GIII新潟2歳Sで5年ぶりの重賞制覇を果たし、新潟記念で重賞2勝目を飾りました。

 迎える菊花賞は、キタサンブラック(2015年)に騎乗して初のクラシック優勝を遂げたレース。彼にとっては、思い入れのあるGIだと思います。

 好位で運ぶタスティエーラをピッタリとマークする形で道中は脚を溜め、キタサンブラックで勝った時のようにうまくインから抜け出すことができれば、チャンスは大いにあると見ています。

 よって、北村騎手騎乗のノッキングポイントを、今回の「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。