「今日はいっぱい飲みます! だから、夜の10時半には家に着くと思いますが、誰も連絡しないでください(笑)」

 シビアな戦いを終えたアン・シネの表情は明るく、メディア対応でも軽妙な洒落を織り交ぜながら会話を楽しんでいた。久しぶりの日本でのプレーと結果に、満足した4日間だったに違いない。

 静岡県の葛城GC宇刈コースで行なわれた、来季ツアーの出場権をかけたJLPGAのQT(予選会)ファイナル。"セクシークイーン"ことアン・シネは、通算2アンダー、17位という成績を残して、来季ツアー前半戦(6月に予定されている第1回リランキングまで)の出場権を獲得した。ファイナル出場104人のうち、上位35名前後がその出場権を得られるが、その狭き門を見事に突破したのだ。

アン・シネ「引退する、とは一度も言葉にしたことはありませんで...の画像はこちら >>
 アン・シネは最終日こそ、3ボギー、バーディーなしの「75」と振るわなかったが、初日3アンダー、2日目に5アンダーまで伸ばして、3日目もイーブンパーでしのいで上位をキープ。強風によってスコアメイクに苦戦する選手が多いなか、安定したプレーを見せてきっちり結果を残した。

 来季に向けて一番楽しみにしていることについて聞かれると、「開幕戦のダイキンオーキッドレディスに出たことがないので、それに出たい。

日本ツアーデビューした時の、ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップにも出たいです。いい思い出が多く、フェアウェーを歩いたら、その時の思い出がよみがえると思うので楽しみです」と言って、笑顔を見せた。

 アン・シネは韓国ツアー3勝(うちメジャー1勝)の実績を引っ提げて、2017年に日本ツアーデビュー。抜群のスタイルを際立たせるタイトなウェアを着用し、"セクシークイーン旋風"を起こして、多くのファンを虜にした。バッチリメイクも欠かさず、"魅せる"ことにこだわったプロ意識の高い選手で、大勢のギャラリーを引き連れてプレーする姿が各試合会場で見られた。

 ただ一方で、「見かけだけの選手」といった声も少なくなかった。

実際、日本でプレーした3年間では限られた出場試合のなかで、優勝することはできず、賞金シードも勝ち獲ることはできなかった。

 しかし彼女は、そうした声に反発するかのように、日本ツアーでプレーした最後の年となった2019年、プロテストに挑戦して一発合格。同年のQTファイナルでは25位に入って、2020年シーズンの出場権を獲得している。

「2020年シーズンに向けて、ショットもパットもものすごく調子がよかったし、メンタルもいい状態でした。それだけに、新型コロナウィルスの感染拡大で日本ツアーを諦めざるを得なかったのは、とても悔しかったです」

 当時、ツアー出場においては日韓両国で2週間の隔離生活を余儀なくされた。その負担は想像以上で、「それならば......」と思いきってツアーから離れた。

 それから、約4年間の歳月を休養にあてたが、「『引退する』とは一度も言葉にしたことはありませんでした。休んでいる間もゴルフは続けていました」と、ゴルフが頭から離れることはなかったという。そうして、「ゴルフをしたい、試合に出たい、という気持ちが今年の夏頃から強くなって、ようやくいいタイミングと機会が訪れたわけです」と、アン・シネは言う。

 とはいえ、今回の挑戦に向けて、実戦から長く離れていて不安を抱えていたことは、彼女自身、認めている。現に先月、主催者推薦で韓国ツアーの試合に2年4カ月ぶりに出場したが、そこで実戦感覚の乏しさを少なからず感じたそうだ。

 だが、いざふたを開けてみれば、QTファースト、ファイナルの2ステージを突破。

周囲の「ろくに練習もしていないはず」という偏見をも一蹴してみせた。

 それにしても、およそ4年のブランクがあっての挑戦。それを考えれば、この結果を誰が予想していただろうか。

 実は彼女、QTファーストステージが行なわれる1カ月前から周到な準備をしていた。QTが始まる前には、ファイナルの会場となる葛城GCを訪れて「1週間ラウンドしていた」と明かす。

「(QTに挑む準備段階において)ファーストステージは突破できるという自信が多少は得られていたのもありますが、やはり難しいコースに臨むにあたっては、丹念に回っておきたいという気持ちがあったんです。

その時も風がものすごく吹いていたのですが、本番でそれ(を経験したこと)が生きました」

 ちなみに、ファーストステージの会場となった埼玉県のこだまGCでも、本番の数日前から入って入念に練習ラウンドをこなしていた。

「こだまGCでの最終日も風が強くて、結局1オーバーだったのですが、3~4アンダーで回れる感覚を持っていました。そうした自信が最後まで続いていました。

(心がけていたのは)風が吹いても集中力を切らさず、チャンスがくるのを待つこと。風が強いとセカンドで(ピンに)ぴったりつかないこともあるのですが、そういう時は果敢にバーディーを狙うよりも、確実にパーを取っていこうとマネジメントしていました」

 12月18日で33歳になるが、落ちついたプレーぶりとマネジメントは、4年前に日本でプレーしていた時とは明らかに違っていた。

 新たに自分の居場所をみつけたアン・シネ。

来季は開幕戦から注目選手のひとりとして、メディアからも注目され、多くのギャラリーを引き連れていくのだろう。それは、彼女も楽しみにしているようだ。

「日本のファンの方は、今も私に応援メッセージをくれたりしています。また、『日本で見たい』と言ってくれる人たちもいると聞いています。日本はツアープレーヤーとして最後にプレーした場所でもあるので、来年は再び、その機会が訪れてくれることがとても楽しみです。とにかく試合に出るからには、優勝を目指したいです」

 5年ぶりの日本ツアー。注目度と話題性は十分だ。

「来年は私の新たな挑戦の年。プロゴルファーとしての"アン・シネ"を見せたい」

 2024年シーズン、そう意気込む"新生セクシークイーン"から目が離せない。