ソフトバンク・小久保裕紀監督インタビュー(前編)

 福岡ソフトバンクホークスは、昨シーズン3位に終わり、パ・リーグ3連覇を果たしたオリックス・バファローズの後塵を拝した。シーズン終了後、藤本博史監督が退任し、新指揮官として復権を託されたのが小久保裕紀氏だ。

小久保監督は就任会見で「美しさが欠けている」とチームの現状を指摘。その言葉は大きな話題を呼んだ。その真意とは、また小久保監督の目指す「美しさ」とは? 新指揮官を直撃した。

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【監督のプレッシャーはない】

── 二軍監督から一軍監督へ、立場は変わりましたが、小久保監督から伝わる雰囲気などはこれまでと変わらないように映りました。

小久保 僕自身は変わらないし、変わりようがないですよ。取材が増えたくらいかな(笑)。むしろ周りの方の反応が変わったというか、駅や空港などで「頑張ってください」と声をかけてもらうことは増えました。

応援していただいているなというのを実感します。

── プロ野球の一軍監督は日本で12人のみ。すごく大きな肩書きと言われますが、重圧はありますか。

小久保 侍ジャパンのトップチームの監督という、日本でひとりだけの監督を経験していますからね(笑)。とくに重圧とかはないです。だから、一軍の監督を務めるからといって肩肘張る必要はないなと思っています。

── 昨年まではホークスの二軍監督を務められていましたが、その経験も大きいですか。

小久保 大きいですね。僕自身がホークスのことを知っているし、逆に選手やフロントの方は僕のことをわかってくれている。2012年に引退してからヘッドコーチとして戻ってきたのが2021年。離れている期間は長かったですが、その点も自然体でやれている理由じゃないですかね。でも、まだ勝負は始まっていない。

ここからです。

── 就任会見で「美しさが欠けている」と発言されました。あの言葉は反響があったのでは?

小久保 ありましたね。逆にそれ(反響)があると思って発言しました。ただ、これはホークスに限ったことではなく、球界全体を含めてのことだと思っています。僕らプロ野球は見られる商売です。

幅広い層のファンの方の支持があり、国民的スポーツとして栄えてきました。歴代OBの方々が築いてきたものがあります。それぞれの時代の風潮はあるにせよ、正々堂々と勝負するスポーツマンらしさ、グラウンドでの立ち居振る舞いやプレーも美しさを求められるのは当然のこと。

 また、ファンの人が見ているのはそれだけじゃない。インタビューの受け答えにしても、メディアを通して見ていますし、移動の際の行動も同じです。「そういうところも見られていますよ」というメッセージを発信したのです。

これからどうなっていくのか、楽しみではあります。

【応援してもらえる選手に】

── 会見後は秋季キャンプも行ないました。短期間でしたが選手に変化は感じましたか?

小久保 秋のキャンプは若い選手が多かったので、変化というのはそれほど感じませんでした。というよりも、二軍監督の頃からファームで一緒にやっていた選手たちには求めていたこと。そのあたりをわかっている選手が多かった。

── それはどういったところで感じましたか。

小久保 たとえばウォーミングアップで、フライングもなくマーカーからマーカーまできっちりやる。

これは2年間、チームのテーマにしていました。秋季キャンプでも1日の始まりのアップという点では、非常に美しいものがあったと思います。ただ、若手の彼らにすれば、ずっとやってきたことをやり通しているだけなのでしょうけれど。

── 二軍監督に就任した当初、若手のウィーミングアップに苦言を呈されていました。それ以外にも飲みかけのペットボトルが放置されていて、叱っていたのを覚えています。

小久保 ペットボトルは気を抜くとすぐ増えたりするんですけど......。ただ以前は筑後にある寮と室内練習場をつなぐ通路にスリッパが散乱していたのですが、それはもう見られなくなりました。寮は団体で生活する場所であり、「自分さえよければ」という人がいるだけでうまく回らない。それにそんな選手を、清掃担当の方や食事担当の方、グラウンドキーパーといった方が心の底から応援してくれるでしょうか。そういうことも含めて、すべて"美しさ"につながると思うんです。応援してもらえる選手であるために何をすべきかを考えれば、振る舞いや言動は自ずと意識するようになると思います。

【王イズムの継承も使命】

── 常勝チームと言われたホークスが3年間優勝を逃しています。勝てなかった理由がどこにあったと思いますか。

小久保 細かい話をすると戦術的なところになるんですけど、もうひとつは組織が大きくなりすぎたこともあるかもしれません。ホークスは一軍から四軍まであり、たくさんの部署もあります。スタッフを含め、全員が優勝のために動けていたのか。自分の担当部門だけよかったらいいとか、あまり変化をしないほうが居心地いいとか......そのような反省は必要だと思います。

ソフトバンク・小久保裕紀新監督に聞く「なぜ3年間優勝できなかったのか?」 チームが「ちょっと緩んでいたというのが正しいのかな」
4年ぶりのリーグ優勝を目指すソフトバンク・小久保裕紀監督 photo by Hanjo Ryoji
── 小久保監督が目指す組織とは?

小久保 みんなが同じ方向を見る。一軍が目指すのは、当然勝つことです。二軍から四軍のファームは勝つことがすべてではありませんが、一軍の姿を学びながら、選手たちはいずれ狭き門の一軍に入っていくことを目指す。それが本来あるべき美しいピラミッドだと思います。だから、トップを預かる僕はファームに手本を示すことのできる、そういう軍団にしないといけないという思いがあります。

── 近年はそこの部分が緩んでいた?

小久保 そこは緩んでいたというよりも......いや、ちょっと緩んでいたというのが正しいのかな。僕だけじゃなく、そう感じている人はいっぱいいたと思います。だから、誰でもできるというか、「できないが存在しないルール」を設定してスタートしました。二軍では今までもやってきたことですが、それを形骸化せずしっかり明文化したうえで、必ず守らせます。就任会見後の最初のチーム練習でも選手たちには「勝利の女神は細部に宿る」という話をしました。普段のウォーミングアップの姿勢。自分の身の回りをきれいに保つ。他人に迷惑をかけない。そういうところの全部が勝ちにつながっていくと思う。細かいことに聞こえるかもしれませんが、突き詰めていきたいと思っています。

── 2022年シーズンはマジック1点灯から惜しくも優勝を逃し、23年は優勝したオリックスに15.5ゲームの大差をつけられました。それでもチームへの評価は相変わらず高い。意識の持ち方など、細かなところでホークスはまた強くなれると思いますか。

小久保 はい。戦力としては十分優勝を狙えるという認識です。だから、もちろん監督を引き受けた限り、勝つために動くのは当たり前。ただ、それと同時に"王イズムの継承"ということも球団から求められたこと。現役時代に一緒にプレーしていた城島健司が、今はフロントに入っている。彼とともに何が王イズムなのか、しっかり明文化して残していくことも使命だと思っています。そのためにも一軍の主力選手たちは手本意識を持ってもらわないといけない。過去、我々は現役当時にファームの若い選手たちに示すんだという思いを持っていました。その思いをプレーで示してほしいです。プレー以外にも......ですね。

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小久保裕紀(こくぼ・ひろき)/1971年10月8日、和歌山県生まれ。星林高から青山学院大に進み、92年のバルセロナ五輪で学生から唯一日本代表に選手され、銅メダル獲得に貢献した。93年、逆指名(ドラフト2位)でダイエー(現・ソフトバンク)に入団。2年目の95年にレギュラーに定着し、本塁打王に輝く。99年にも打点王のタイトルを獲得した。03年オフに巨人に移籍し、07年にFA権を行使して古巣に復帰。09年からはキャプテンとしてチームをまとめ、11年には日本シリーズでMVPを獲得。12年には通算2000本安打を達成し、同年限りで現役を引退。引退後は13年から17年まで侍ジャパンの監督を務め、21年にソフトバンクの一軍ヘッドコーチ、22、23年は二軍監督、24年から一軍監督として指揮を執る