移籍状況で見る2024年J1戦力ダウンクラブ
今オフ活発な移籍が行なわれているJリーグで、主力の流出や効果的な補強がなく、戦力ダウンが心配されるクラブがある。3人の識者に、移籍状況から戦力ダウンと見ているチームを挙げてもらった。
前編「上位進出期待クラブ」>>
【川崎はチームの骨格を変えるほどの変化】
戦力ダウンクラブ/鹿島アントラーズ、アビスパ福岡、川崎フロンターレ
中山 淳(サッカージャーナリスト)
ランコ・ポポヴィッチ新監督に代わった鹿島アントラーズは、タイトルを目指すには十分とは言えない補強状況となっている。
主軸MFのディエゴ・ピトゥカが母国サントス(ブラジル)に移籍したのが最大の痛手。さらにDF広瀬陸斗もヴィッセル神戸に流出した。その一方で、目立った補強はブラジル人ウインガーのMFギリェルメ・パレジ(タジェレス/アルゼンチン)など。DFラインの新戦力と見られていたヨシプ・チャルシッチがメディカルチェックをクリアできず、移籍が破談に終わったこともマイナス材料と言える。
1月29日には年代別セルビア代表歴のあるFWアレクサンダル・チャヴリッチ(スロヴァン・ブラチスラヴァ/スロバキア)の獲得を発表するなど、今後の新戦力加入も予想されるが、サッカーのスタイルも一新されるだけに、少なくとも序盤は苦戦を強いられそうだ。
昨シーズンにリーグカップで初優勝したアビスパ福岡も、状況は厳しい。
逆に補強した戦力を見てみると、山岸の代役としてサガン鳥栖からFW岩崎悠人を獲得したものの、その他で即戦力と言えそうなのは、FWナッシム・ベン・カリファ(サンフレッチェ広島)、MF松岡大起(グレミオ・ノヴォリゾンチーノ/ブラジル)、MF北島祐二(東京ヴェルディ)といった面々か。プラスかマイナスかで言えば、マイナスと言わざるを得ない。
とはいえ、福岡は昨シーズンも厳しい状況を乗り越えて初タイトル獲得とリーグ上位に躍進した実績があるだけに、それほど悲観する必要はないのかもしれない。
そして最も不透明な状況となっているのが、大幅に選手が入れ替わった川崎フロンターレだ。
これまでチームを支えてきた両サイドバックのDF山根視来(ロサンゼルス・ギャラクシー)とDF登里享平(セレッソ大阪)、故障は多いが頼れる得点源だったFWレアンドロ・ダミアン(未定)が退団したことは、チームの骨格を変えるほどの変化と言える。
さらにFW宮代大聖(神戸)、MFジョアン・シミッチ(サントス)、MF山村和也(横浜F・マリノス)、MF永長鷹虎(ザスパクサツ群馬)といった戦力も流出したことを考えると、チーム再建は困難を極めるだろう。
問題は、FWエリソン(サンパウロ/ブラジル)、MFゼ・ヒカルド(ゴイアス/ブラジル)、MFパトリッキ・ヴェロン(バイーア/ブラジル)といったブラジル人新戦力をはじめ、MF山本悠樹(ガンバ大阪)、DF丸山祐市(名古屋)、MF松井蓮之(FC町田ゼルビア)、DF三浦颯太(ヴァンフォーレ甲府)、DFファン・ウェルメスケルケン際(NECナイメヘン/オランダ)、FW宮城天(モンテディオ山形)といった新戦力がチームのスタイルに馴染むまでに、どれだけの時間を擁するかだ。
これだけの入れ替えがあると、そう簡単にはいかないと思われる。
【トータルの上積みが見えない柏、新潟】
戦力ダウンクラブ/柏レイソル、アルビレックス新潟、名古屋グランパス
原山裕平(サッカーライター)
昨季、最後まで残留争いを強いられた柏レイソルだが、補強はレンタルバックとJ2からのステップアップがほとんど。J1からの獲得はFW木下康介(京都サンガF.C.)のみに留まっている。
一方で昨季の主軸だったMF山田康太(ガンバ大阪)、MF椎橋慧也(名古屋グランパス)、MF仙頭啓矢(FC町田ゼルビア)が抜けたことを考えると、マイナス査定をつけざるを得ない。
ポテンシャルを秘めた若手が多くいるとはいえ、大幅な戦力アップを実現できなかった以上、今季も残留争いに巻き込まれるかもしれない。
主軸を引き抜かれたアルビレックス新潟も、苦しい戦いが待ち受けるだろう。欧州に旅立ったMF三戸舜介(スパルタ/オランダ)だけではなく、中盤を支えたMF高宇洋(FC東京)、守備のマルチロールであるDF渡邊泰基(横浜F・マリノス)が流出したことは、小さくない痛手だろう。
サガン鳥栖のFW小野裕二、ヴァンフォーレ甲府の10番MF長谷川元希の獲得はプラス材料ながら、トータル的には上積みを果たせたとは言えない。もちろん松橋力蔵監督の下で培ってきた組織力があるにせよ、J1復帰2年目で対戦相手の警戒が高まることも考慮すれば、10位と健闘した昨季よりも順位を下げてしまうのではないか。
出入りの激しいシーズンオフを過ごした名古屋グランパスからは、上位進出の希望も、下位転落の危険性も感じられる。
最大のヒットはFW山岸祐也の獲得だ。昨季、アビスパ福岡の躍進を牽引したストライカーと、完全移籍に移行したFWキャスパー・ユンカーとの2トップはリーグでも屈指の破壊力を秘める。ここに京都からFWパトリックも加わったのだから、課題の得点力不足の解消は十分に見込める。
一方で不安を残すのは守備面だ。3バックの軸を担ったDF中谷進之介はガンバ大阪に去り、日本代表にも選ばれたDF藤井陽也(コルトレイク/ベルギー)は海を渡った。経験豊富なDF丸山祐市も川崎フロンターレに移籍し、最終ラインの主軸がこぞって抜けてしまったのだ。
堅守が売りだったチームのストロングポイントが崩れてしまえば、成果を生み出すのは難しいだろう。韓国からやってきたDFハ・チャンレ(浦項スティーラーズ)の出来次第で、昨季の6位から大きく順位を下げることもあるかもしれない。
【多くの選手が移籍した鹿島】
戦力ダウンクラブ/鹿島アントラーズ、東京ヴェルディ、北海道コンサドーレ札幌
篠 幸彦(スポーツライター)
最初に挙げるのは鹿島アントラーズだ。MFディエゴ・ピトゥカ(サントス/ブラジウ)、DF広瀬陸斗(ヴィッセル神戸)、MF荒木遼太郎(FC東京)、MFアルトゥール・カイキ(スポルチ・レシフェ/ブラジル)、DF昌子源(FC町田ゼルビア)ら主力から貴重なバックアッパーの多くが移籍で離れた一方、加入はブラジル人MFギリェルメ・パレジ(タジェレス/アルゼンチン)ら数名と少ない。
DFのヨシプ・チャルシッチが加入間近だったが、メディカルチェックで問題が発覚して破談。
2022年シーズン途中に上田綺世(フェイノールト)が欧州移籍して以降失速し、ストライカーの補強は急務とされてきた。昨季は鈴木優磨が14得点と攻撃を牽引したが、今季も彼だけに頼るのは苦しいだろう。1月29日に加入を発表したセルビアのFWアレクサンダル・チャヴリッチ(スロヴァン・ブラチスラヴァ/スロバキア)がどうなるか。「下位に低迷」まではいかないまでも、現段階の補強では戦力ダウンと言わざるを得ない。
次に挙げるのは東京ヴェルディ。昨季、昇格プレーオフから16年ぶりのJ1昇格を果たした。そのベースとなる戦力を維持し、FW染野唯月のレンタルを延長した。FC町田ゼルビアから左サイドバックのMF翁長聖、ジェフユナイテッド千葉からMF見木友哉と主力の引き抜きに成功した。
しかしながら、今季のJ1を戦い抜くだけの戦力のベースアップができたかと言えば難しい。昨季は31失点とJ2最少の堅守を誇ったが、得点数は57で9位と決して高い数字ではない。優勝した町田と比べれば22点も少ない数字だ。
毎年のように昇格組が得点の部分で苦戦するのはよく目にする光景だが、現時点の補強を見るに東京Vも厳しい戦いになると予想できる。ガンバ大阪から獲得したFW山見大登は楽しみな戦力ではあるが、昨季は1得点、キャリアを通じても4得点と過度な期待はできないだろう。
最後に挙げるのは北海道コンサドーレ札幌。昨季の主力であるFW小柏剛(FC東京)、MFルーカス・フェルナンデス、DF田中駿汰(ともにセレッソ大阪)の移籍は間違いなく戦力ダウン。DF福森晃斗(横浜FC)も新天地を求めた。
その補填としてFW鈴木武蔵(G大阪)、MF長谷川竜也(東京V)、DF高尾瑠(G大阪)、DF家泉怜依(いわきFC)を加え、昨季途中にMF金子拓郎(ディナモ・ザグレブ)が移籍したことで突破力が落ちたウイングバックにMF近藤友喜(横浜FC)を獲得した。
限られた予算のなかで人員は補充できたが、スケールダウンは否めない。とくに強力だった金子、ルーカス・フェルナンデスの両翼を失い、あの突破力を取り戻すのは簡単ではないだろう。4年ぶりに復帰となった鈴木が、かつてキャリアハイの13得点を記録した札幌で再起できるか。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の手腕に期待したい。