2023年の日本はWBC優勝に始まり、バスケのW杯では48年ぶりに自力での五輪出場権を獲得、ラグビーのW杯でも奮闘を見せた。様々な世界大会が行なわれ、スポーツ界は大いなる盛り上がりを見せた。

そんななか、スポルティーバではどんな記事が多くの方に読まれたのか。昨年、反響の大きかった人気記事を再公開します(2023年8月14日配信)。

※記事内容は配信日当時のものになります。

***

 昨年8月の全日本中学校陸上競技選手権1500mでは、2位に5秒以上の差をつけて圧勝し、中学ランキングは800m、1000m、1500m、3000mの4種目で1位になっていたドルーリー朱瑛里(岡山県鶴山中→津山高)。全国区の注目を集めるきっかけとなったのが、今年1月の全国都道府県対抗女子駅伝で3kmの中学生区間を走り、17人抜きをしたことだった。

ドルーリー朱瑛里は「あんなにきれいに走る選手は実業団にもいな...の画像はこちら >>


 そしてこの春、高校に進学。
インターハイに初出場して、8月2日から札幌市で行なわれた全国大会では1500m決勝で、カリバ・カロライン(神村学園3年)とジェシンタ・ニョカビ(白鵬女子2年)に次ぐ4分15秒50で3位に入り、その記録は田中希実(当時・西脇工)が持つ高校1年最高記録を0秒05更新するものだった。

 このレースで初めてドルーリーの走りを直接見たという1万m元日本記録保持者の川上優子氏(1996年アトランタ五輪7位、2000年シドニー五輪10位/キヤノンアスリートクラブ九州アドバイザー)は、こう感想を述べる。

「高校1年ではもう頭ひとつ抜けた感じで、走りの内容も実業団選手みたい。体の使っている箇所も間違いないので、他の選手と比べると圧倒的だと思いました。ただ、厚底シューズで多少サポートされる駅伝時の走りと比べると、トラックでは少しこぢんまりとした走りになっていると感じましたね」

 1月の都道府県駅伝はテレビ観戦したというが、そのドルーリーの走りに衝撃を受けたと話す。

「すごいと思ったのは、真上から足を落として接地した時の骨盤のポジションで、重心の真下に完璧に乗っていました。

あとは、そのタイミングでの上半身との同調ですね。腕振りで肘の引きが強くても上半身がブレないので、肘を引いた側の腰の捻転で加速していました。さらに、肘が戻るタイミングで生まれるエネルギーがストライドにもうまくつながって、どんどん加速する動きができているイメージです」

 元選手らしい視点から、ドルーリーの体の使い方のうまさについてこう続ける。

「(骨盤が)ハムストリングなど体の後ろ側の筋肉を最大限使えるようなポジションになっているんです。普通の選手なら腹筋や背筋の筋トレを一生懸命やって作り上げなければいけない骨盤の傾きも、生まれつきなのか、そのポジションにハマっている。他の選手が10だとすると、彼女は7くらいで走るエネルギーを生み出していると思います。

日本では速い選手でも少し癖があるけど、あんなにきれいに走る選手は実業団にもいないし、今までの日本人にはいないタイプだと思います。ケニア人やエチオピア人とも違うし、強いて言えばポーラ・ラドクリフ選手(イギリスの女子選手/2003年にマラソン2時間15分25秒の世界記録を出し、2019年10月まで破られなかった)に似ている感じですね」

 今回のトラックのレースでも、その長所はしっかり見えていたという。

「ロードより地面の反発が少ないなかで、少し力技みたいな感じの走りにはなっていましたが、スロー映像で見ると接地も正確だし上半身の動きも同調できていました。ただ、競り合う相手がいなかった中学時代とは違い、留学生など強い選手がいるなかでのレースでは、気持ちが早るというか、力むところが少しあると思います。でもこの先2年生、3年生と(レース展開などにも)慣れてくるはず」

 自分自身の経験も踏まえ、体の成長の変化とともに起きる女子陸上選手としての走りの変化についてはこう話してくれた。

「 800mや1500mなどスピードを追う走りに関しては、体が中学生の頃とそれほど変わらなくて筋力が追いついていない感じでしたが、そこはこれからですね。

ここからさらに記録を伸ばすとなれば、当然筋力で補わなければいけなくなりますし、女性として体が変わってくるので、その成長を受けてうまくやっていかなければいけない。成長していくなかで、股関節の硬さが出てきたり、可動域に関して言えば、今までは子供のしなやかさだったのを強いしなやかさに変えて、体をうまく、正しく使えるようにしなければいけないと思います」

 そう話す川上氏は、ドルーリーが将来を期待できる大器だからこそ、無理はせずに自分の成長スピードや筋トレのペースを合わせていってほしいとエールを送る。

「女性の場合は、体の変化でエネルギーを使うようになるから、練習とその部分をうまくやっていくことが必要ですね。これからも記録を追いたいとは思うけど、今でも十分に高校のトップレベルなので記録より、まずは自分の体の成長に興味を持ってほしいと思います。高校を卒業してから、成長した体をうまく使って記録を意識するくらいでいいのではないかと思います。

 そう考えると彼女の場合、地元の高校を選んだのはいい選択だったと思います。

練習も自分のペースで組み立てられるし、自分の成長を見ながらトレーニングを変えたりもできるので。まずはクロスカントリーをやって、世界クロカン出場を目指して欲しいですね。クロカンを走りきれるようになれば、筋力が十分ついているということですし、トラックの記録も上がっていくと思います」

 これまで日本にいなかった走りをするドルーリーだからこそ、今後も大事に育ってもらい、日本を代表する陸上選手になってほしい。