3位(2016年)→優勝(2017年)→優勝(2018年)→4位(2019年)→優勝(2020年)→優勝(2021年)→2位(2022年)と順位が推移してきた川崎フロンターレ。それが昨季(2023年)は8位に沈んだ。

近年では横浜F・マリノスと並ぶ、Jリーグを代表するクラブである。スペインリーグにおけるレアル・マドリードやバルセロナのような存在になりかけていた。

 川崎の昨季の不成績は本来、大事件に値する。守田英正、旗手怜央、田中碧、三笘薫、谷口彰悟という日本代表級が次々に抜けたのだから「仕方がない」との見方があるが、その抜けた穴をなぜただちに補おうとしなかったのか。大きな補強をせずに臨んだ2022年に2位になったことは、そういう意味で奇跡的だった。5位以下に沈んでもおかしくない状況だったにもかかわらず、優勝した横浜FMを最後まで苦しめた。

よくやったことは確かだが、クラブは楽観したのか、手をこまねき、放置したように見える。

 だから8位に転落した昨季2023シーズンの成績には特段、驚きを覚えなかった。予想どおり。来るべき時が来たかと、その惨状を眺めたものだ。

 さすがに今季は手を打った。海外からCFのエリソンをはじめとするブラジル人選手3人を、国内からは山本悠樹、三浦颯太などの即戦力級を獲得した。

川崎フロンターレ、戦力拡充による「上昇度」は? 鬼木達監督の...の画像はこちら >>
 なぜ1年前にこれくらいの手を打たなかったのかとあらためて思うが、それはともかく、一方で監督は変えていない。鬼木達監督がその座に就いたのは2017年なので、今季で8シーズン目を迎える。

 マンチェスター・ユナイテッドの監督を27シーズン続けたアレックス・ファーガソン、アーセナルの監督を22シーズン続けたアーセン・ベンゲルなどの例外はあるものの、監督交代が頻繁に起きやすいサッカー競技において8年は長い。Jリーグでは10シーズン続けたガンバ大阪時代の西野朗監督(2002~2011)に次ぐ記録になる。

 今季の川崎を占うとき、何より問われるのはその功罪だ。一般論で言えば、8位転落は監督交代のタイミングを意味するが、喧々諤々の議論が起きたという話は聞かない。

昨季行なわれなかった補強の件もそうだが、問題意識が低そうに見える。

【ACL山東泰山戦の敗因】

 鬼木采配の中身も変化した。あるときまで確かに攻撃的サッカーだった。「1試合3点」(鬼木監督)を掲げて戦ったものだ。しかし昨季あたりから5バックで守りを固める守備的サッカーをしばしば取り入れている。ヴィッセル神戸と対戦した先のスーパーカップでも、終盤は5バックで守っている。

日本代表の森保一監督的采配になっている。

 攻撃的サッカーの看板は下ろしたかに見える。よく言えば臨機応変、現実的な采配となる。それを森保監督は「賢くしたたかに」と表現しているが、いい意味での割り切りが消えた。哲学的ではなくなった。カリスマ性は低下した。

ブレた、と言われても仕方がないだろう。欧州的に言えば、これぞ監督交代のタイミングなのだ。

 神戸戦では、5バックへ変更したのを機に流れは一転、相手ペースになった。メンバーチェンジの話をすれば、後半のアディショナルタイムに逆転弾を浴びた直近のACL山東泰山戦でも、終盤の選手交代を機に流れはいっそう悪くなった。敗因のひとつに挙げたくなる。鬼木監督の監督力は2021年あたりをピークに下降線を辿っているかに見える。

 昨季の8位より順位は大きく上がるだろう。焦点はその上昇度だ。優勝まで届くか否か。

 昨季との一番の違いはCFだ。ケガなどでリーグ戦出場12試合にとどまったレアンドロ・ダミアンを放出し、エリソンを獲得。得点源として期待できそうな存在感を抱かせる。浮沈のカギを握る一番の選手と言って過言ではない。だが山東泰山戦に話を戻せば、相手の1トップ、クリサンのほうがスケール的に上だった。もっと言えば、出場した外国人選手の質こそが、この試合を分けたポイントでもあった。山東泰山戦はつまり、Jリーグのレベルを推し量る上で重要な試合に映った。

 昨季優勝争いを繰り広げたヴィッセル神戸、横浜F・マリノスは今季、特段大きな補強はしていない。エリソンが活躍すれば、川崎と上位との差は接近するだろう。あるいは逆転の目もあると見るが、それは一方でJリーグの停滞を意味するとの見方もできる。山東泰山の外国人選手は、そういう意味で眩しく見えた。

【弱点は最終ラインの守備】

 昨季の中心選手で、シーズン前にMSLのロサンゼルス・ギャラクシーに移籍した右サイドバック(SB)山根視来の後を継ぐ佐々木旭もカギを握る選手だ。

 過去2シーズン、左SBでプレーした選手を、右にコンバートしたわけだが、それ自体は問題ないと見た。注目すべきは、その前方で構える37歳の右ウイング、家長昭博との関係だ。その突破力はさすがに落ちている。縦に抜ける回数は年々減少。SBのサポートなしには川崎の右は活性化しない。

 逆に相手ボールに転じた瞬間、短所になりかねない危険も孕む。右ウイングに家長以外の選択肢が特段ないことも輪をかける。佐々木には山根以上の貢献が望まれる。

 その佐々木と、今季セレッソ大阪に移籍した登里享平が争った左SBには、日本代表にも招集された三浦が入る。縦への直進的な推進力、パンチ力に富んだ、従来の川崎にはなかった魅力を備えた選手だ。両SBが活躍するチームが勝つとは、欧州に浸透している考え方だが、ここが決まると成績は安定する。

 中盤はガンバ大阪から加入した山本が即戦力として期待される。ひと言でいえばパスセンスに富む好選手。展開に滑らかさは増すだろう。新加入のゼ・ヒカルドは未知数だ。4-3-3を敷く場合、アンカーの選択肢はこのブラジル人選手と橘田健人の2人になる。好選手だが、アンカーに不可欠とされるボール奪取能力、空中戦を含む総合的な対人強度に乏しい橘田と、長所短所をカバーし合うことができるか。昨季までプレーしたシミッチのレベルを超える活躍ができないと苦しい。

 弱点に映るのは、シーズンを重ねるごとに点を奪われやすくなっている、アンカーを含めた最終ラインの守りだ。谷口の穴は埋まっていない。合計スコア5-6となった山東泰山戦の派手な負けっぷりを見せられると、あらためて心配になる。元日本代表、丸山祐市の獲得でこと足りるようには見えない。

 昨季まで堅守自慢だったチームに、チアゴ・サンタナという大砲が加わった浦和レッズのほうが上に行くのではないかと見る理由だ。優勝争いに絡む力はあるが、絶対的な力はない。固さ、ソリッドさをどう発揮するか。そして繰り返すが、8年目を迎える鬼木監督にカリスマ性は蘇るのかにも目を凝らしたい。