J1リーグ2024シーズン
大迫勇也インタビュー(ヴィッセル神戸/FW)

大迫勇也が語る連覇のために必要なこと「すべてリセットされた。...の画像はこちら >>
 偶然にもインタビューのその日が新ユニフォームでの撮影日だったことも重なって、大迫勇也は2024シーズンのユニフォームをその身に纏って取材場所に表れた。右腕には、昨シーズンのリーグチャンピオンの証、金色のJリーグロゴが光る。
心理的に何か影響があるかと尋ねると、間髪入れずに返ってきた。

「まったく気にしていないです。これをつければ強くなれるわけでもないので(笑)。

 昨シーズンはもちろん、チームとしても、個人としてもいいシーズンになりましたが、それは去年までのこと。監督も変わっていないし、昨年を主力として戦った選手の多くが残っているとはいえ、新しい選手も加わって、まったく別のチームになったと考えれば、すべてリセットされたと考えたほうがいい。

 もちろん、昨年の戦いを通してチーム内に『こういう意識で戦えば勝てるんだ』『こういう戦いが続けられれば優勝にたどり着けるんだ』という成功体験を得た選手が増えたのはいいことだとは思います。

でも、それが慢心になっては意味がない。

 しっかり気持ちを引き締めて、またイチから昨年と同じように目の前の1試合にすべてを注いで、いい戦いを積み重ねていくためにも、僕たち上の年齢の選手がチームのいろんな雰囲気を感じ取り、時にハッパをかけながらチームを牽引していく姿を示していかなければいけないと思っています」

 現に彼自身も、昨シーズンが終わってからその余韻に浸ったのは、ほんの数日間だけだったと聞く。仲のいい吉田麻也(ロサンゼルス・ギャラクシー)ファミリーと一緒に家族を連れてメキシコ旅行に出かけ、マヤ文明やセノーテの泉などを訪れたそうだが、現地でもほぼ毎日、体を動かし続けていたという。「吉田さんがフィジカルコーチばりに引っ張ってくれて楽しかった」と笑った。

「特にパーソナルコーチがいるわけでもなかったし、メニューはふたりで『これをしたい』『この部分を鍛えたい』という意見を出し合って決めたんですけど、やっているうちにテンションが上がりすぎて、最後のほうはなぜか、ふたりで坂道ダッシュを繰り返していました(笑)。おかげで、翌日はふたりそろって筋肉痛になったりもして......。

『やべぇ、やりすぎたな』って反省しながら、でも翌日もまた、同じように走るという感じでした。

 基本的に僕はベタ休みをすれば疲労が取れるとは思っていないというか。血流をよくすることで疲労を取り除いていけると考えているので、ランニングのメニューを中心に、強度を調整しながら体を動かしていました」

 帰国後、体に残っていた疲労や痛みをしっかり取り除いてからは、パーソナルトレーナーとともに体の各所に刺激を入れるべく、ボールを使ったメニューや体幹の強化に取り組みつつ、"連動性"を意識して体を作ってきたという。そのうえで、1月10日の始動日を迎えた。

「新チームは、単純に若い選手が減り、経験のある中堅の選手が増えたなって印象です。既存の選手も含め、中堅選手には......特にフレッシュな顔ぶれには、昨年試合に出ていた選手を脅かすくらいの存在感を示してほしいですし、昨年からタカさん(吉田孝行監督)がおっしゃっているように、ポジションごとにいい競争をしながら、いい共存ができればまた、面白いチームになっていくんじゃないかという期待はあります」

 昨年以上の結果を求めるうえで、チームにより変化を求めたいと話すのが"仕留める"試合を増やすこと。

昨シーズンはJ1リーグ2位を数える得点数(60)を挙げたヴィッセルだが、まだまだ物足りないと語気を強める。

「チームとして"仕留める"試合を増やすためにも、より効率よくゴールを積み重ねられるようにしていきたいと思っています。ゴール前での個人の質や決定力の向上もさることながら、ゴール前にボールを運ぶ回数も増やしたいし、90分のなかで押し込んでいる時間も長くしたいですしね。

 じゃあ、そのフィニッシュまでの道筋をどう作るか、という部分はこれから開幕までの間につめていくことになると思いますが、いずれにせよ、そうした時間を増やすことで、相手がより怖さを感じる攻撃を仕掛けられるチームになるのが理想です」

 一方、個人としてはどうだろうか。昨年はキャリアハイとなる22ゴールを刻み、得点王とMVPの栄冠を手にしてチームのJ1リーグ初優勝に貢献するなど、圧巻の存在感を示したが、そのシーズンを経た今年は何にモチベーションを燃やすのか。

「僕の仕事は変わらず、チームのために点を取ること。

FWを任されている限りは、常にそこを意識したいし、勝利に近づくための点を取りたいと思っています」

 2年連続の得点王への野心はいかに――。

「昨年、積み上げられた得点が今年に引き継がれるのであれば、少しは意識するかもしれないですけど(笑)、残念ながらそうではなく、今年もまた全員がゼロから、横並びのスタートなので。僕自身もまたフレッシュな感覚で点を取ることに向き合いたいし、昨年同様、まずは目の前の1試合1試合に集中して、チームのためにゴールを取ることに集中しようと思っています」

 そのうえで、達成感は少しも感じていないと言いきった。

「僕は本当に、サッカーが好きでたまらないので。やっても、やっても、まだまだやりたい、点を取っても、取っても、もっと取りたい、というのが僕にとってのサッカーで、裏を返せば、ずっとその気持ちを持ち続けられているから、この年齢になってもピッチに立てているんだと思う。

 そんな気持ちを今も持ち続けながらサッカーができていることをすごく幸せに思うし、今シーズンも、その好きでたまらないサッカーをもっと極められるように、たくさん勝てるように、目の前の試合に向けて自分のすべてを注いで準備したい」

 2月6日には日本人選手としては異例の記者会見の場が設けられ、2026年までの契約延長を発表。

同席した永井秀樹スポーツダイレクターは「日本最高のトップストライカーである大迫選手と、まずは2026シーズンまでともに戦えることを本当にうれしく思います。クラブにとっては大きな契約ですが、クラブが常勝軍団になっていく過程をともに歩み、彼の力でさらに高みに引き上げてくれることを楽しみにしています」と期待を寄せた。

 それに対し、大迫自身も「強い責任感が増している」と言葉を続け、胸の内を言葉に変えた。

「(契約延長については)去年、このチームでいい結果を得られたのも大きいし、まだまだこのチームで僕自身も成長できるんじゃないか、と。また、クラブが描く今後のチーム方針を聞いて、自分もそのピースのひとつでありたいと思いました。

 まずはピッチで違いを出すことに全力を注ぎながら、僕自身も成長を続けることでチームを引っ張っていきたい。

これまで経験してきたことを若手に伝えながら、Jリーグ全体をさらに盛り上げていきたいという思いもあります」

 もっとも、特別肩に力が入っている様子はない。「体のことを考えて生活するのが最近はすごく楽しく、趣味みたいになってきた」との言葉どおり、これまでどおり真摯に体と向き合いながら"バランス"を意識した過ごし方を継続していくだけという。

「この年齢なので、やりすぎるとケガのリスクも上がってしまうということも頭に置いて、体も、トレーニングもすべてバランスを心がけて過ごすことが大事なのかなと思っています。

 こうしてシーズンが始まると、よりリーグ連覇への思いが強くなりますが、大事なのは目の前の試合に対してやるべきことを整理したうえで、準備したものをピッチで表現できるか。常に同じテンションで戦えるか。一つひとつのプレーに妥協なく戦えるか。

 もちろん、それが思うような結果につながることばかりではないし、準備してきたものを表現できたとしても、負けることもあるのがサッカーだとは思います。でも、そうやって常に自分たちにベクトルを向けて、すべては自分たち次第だと思って戦えていれば、それがいずれは結果につながっていくはず。今年も妥協せず1試合1試合を確実に積み上げて、最終的にタイトルにたどり着けるシーズンにしたいと思います」

 ほしいのは、日本屈指のストライカーとしての称号や名誉ではなく、目の前の試合での"ゴール"。大迫勇也は今年もそこだけを追い求めて、ただ真っ直ぐにサッカーに向き合う。

大迫勇也(おおさこ・ゆうや)
1990年5月18日生まれ。鹿児島県出身。ヴィッセル神戸所属のFW。鹿児島城西高卒業後、2009年に鹿島アントラーズ入り。ルーキーイヤーから3得点をマークし、2013シーズンにはふた桁ゴールを記録。翌年、ドイツ2部の1860ミュンヘンに移籍。その後、ケルン、ブレーメンでプレーし、2021年夏に神戸へ完全移籍。2023年シーズンには得点王とMVPを獲得。チームのリーグ初優勝に貢献した。その間、日本代表でも活躍。W杯は2014年ブラジル、2018年ロシアと2大会に出場した。国際Aマッチ出場57試合、25得点。