五十嵐亮太が分析する2024年のソフトバンク(前編)

 現在プロ野球は3月29日の開幕戦に向け、オープン戦が繰り広げられている。この時期、ファンにとって気になるのはチームの仕上がり具合である。

そこでキャンプ、オープン戦を視察したプロ野球解説者が各チームの戦力の分析。まずは五十嵐亮太氏に2024年のソフトバンクについて語ってもらった。

五十嵐亮太はホークス投手陣の大化けに期待 キーマンはアメリカ...の画像はこちら >>

【指揮官が目指す「美しい野球」とは?】

── 今季から、小久保裕紀監督が誕生し、2020年以来となる日本一奪取に向けてリスタートしました。宮崎キャンプを取材して、五十嵐さんは「小久保ホークス」について、どのような印象を持ちましたか?

五十嵐 僕が在籍していた時もそうでしたけど、ホークスというのはこれまでずっと、かなり練習量の多いチームでした。こうした姿勢が小久保さんや松中信彦さんら、歴代の先輩たちから受け継がれてきました。ご自身もかなりハードな練習をしていた小久保監督が誕生して、その流れが続くと思っていたんですけど、意外にもそうではなかったですね。

── 五十嵐さんも経験した、かつての「猛練習のホークス」という印象とは違っていたのですか?

五十嵐 もちろん、今でも集中的な練習はしているんですけど、僕が想像していたよりも練習量はずっとコンパクトになっていました。

「全体練習はある程度少なめにする代わりに、その分、自覚を持って自主練に励め」という、個人の意思に任せたメニューに変わっていましたね。直接僕が聞いたわけではないですけど、小久保監督としては「もっと積極的な選手、熱を感じる選手が出てきてほしい」と感じているようです。

── 小久保監督は就任会見において「美しい野球」を標榜しました。五十嵐さんは、具体的にどのような野球だと考えますか?

五十嵐 小久保さんのこれまでの考え方によると、身だしなみも含めたプレー全般において「美しい野球」を求めているんだと思います。例えばグラウンドで唾を吐くこともそうだし、普段の生活でも「ロッカーはきちんと整理する」「ごみはちゃんと捨てる」とか「靴はきちんと揃える」とか、生活全般にわたるものだと思います。アダム・ウォーカーがドレッドヘアをやめたり、柳田悠岐が短髪にしたりしたのも、そういうことでしょうね。

── 一見すると、直接は野球と関係ないことも含めた「美しい野球」なのでしょうか?

五十嵐 昔と違って、今のご時世において身だしなみを強制することは難しくなっていますよね。ある意味では、時代に逆行している面もあるかもしれない。けれども、それこそ小久保さんの思いであり、逆に新しい部分かもしれない。選手たちに聞くと、具体的な指示が出ているわけではなく、選手たちが自ら考えて行動しているということですから、最初は違和感があるかもしれないけど、意識が変わることで結果も変わる。僕はOBとして、そうなることを願いたいですね。

山川穂高の加入で打線に化学変化】

── 先ほど話に出た、「もっと積極的な選手、熱を感じる選手が出てきてほしい」という小久保監督の思いを現実のものとするにはどうすればいいでしょうか?

五十嵐 やっぱり、ベテランでしょうね。柳田、中村晃今宮健太あたりが中心となって、まだ20代だけど、栗原陵矢もそうかもしれない。

ベテランたちが率先して見本となることが大切。実績のある選手が、全体練習だけでなく、自主練習にも熱心に励んでいる姿を見れば、当然若手だって、「オレたちももっとやらねば」という気持ちになるでしょうから。

── 山川穂高選手の加入は、どのような化学変化をもたらしそうでしょうか?

五十嵐 実際にキャンプで彼の練習風景を見ましたけど、バットスイングの数も体力も桁違いでしたね。ちょうど、埼玉西武ライオンズ前監督の辻発彦さんがいらしていたので、話をしたんですけど、ライオンズ時代から山川は練習熱心で、試合が終わってからも室内練習場で打ちまくって、「もういいんじゃないか」というほどの練習量を誇っていたそうです。僕も23年間の現役生活を過ごしましたけど、長くやるための秘訣は「若い頃の練習量」ですから。

── そうなると、先ほどおっしゃっていた「ベテラン選手が若手に背中を見せるべき」という意味では、山川選手の加入はチームにとってもプラスとなりそうですね。

五十嵐 間違いなくプラスになるでしょうね。今のご時世にはそぐわない考えかもしれないけど、僕自身は「若手選手には強制的にでも練習させるべき」と考えていますけど、山川の姿は、若手にとってとてもいい教科書になるでしょうね。

【キーマンは米国帰りの倉野コーチ】

── 山川選手も含めたホークス打線については後編で詳しくうかがいますが、一方の投手陣についてはどのように見ていますか?

五十嵐 先発投手陣で言えば、昨年10勝の有原航平を筆頭に、8勝の和田毅、カーター・スチュワートJr.板東湧梧、東浜巨、石川柊太、大関友久、そして今季から先発転向のリバン・モイネロ。ルーキーの前田悠伍もポテンシャルは高い。顔ぶれは揃っているんですけど、昨年の成績で言えばみんな物足りないんです。だから、ピッチャー陣がどれだけ首脳陣の期待に応えられるかが重要です。

── 中継ぎ陣はどうでしょうか?

五十嵐 クローザーはロベルト・オスナが絶対的存在として君臨していて、あとは津森宥紀、又吉克樹、藤井皓哉、田浦文丸、そして松本裕樹と、こちらも頭数は揃っています。松本はここ2年間安定しているし、藤井も新しく取り組んでいるカーブをマスターできればさらに化ける可能性が高い。ブルペン陣に関しては、心配はないと思います。いずれにしても、今年から投手チーフコーチ兼ヘッドコーディネーターに就任した倉野信次コーチが大きなポイントになると思いますね。

── 単身でアメリカに渡りレンジャーズ傘下でコーチとしてのスキルを磨き、満を持して古巣に復帰した倉野コーチが、チーム浮上のカギとなりそうですか?

五十嵐 先ほど名前を挙げたルーキーの前田は、僕から見れば完成度も高いので、ある程度投げながら調整していくのかと思っていたら、特別育成プログラムの対象となって遠投から地道にトレーニングしていました。これなんかは倉野コーチならではのアメリカ流の育成プログラムだと思います。

それに、現在ではスピン量や回転軸など、投球の数値化が全盛の時代ですけど、そのあたりの判断は倉野コーチの得意分野ですから、投手たちは「とても助かります」と口にしていました。

── 「魔改造」で話題になった倉野コーチの真骨頂が発揮されれば、投手力は大きく改善されそうですね。

五十嵐 もちろん、こればっかりはやってみないとわからないけど、すでに現時点で、アメリカのコーチングを学んだ倉野さんの復帰はチームに大きなプラスになっているし、うまくハマれば投手陣が大化けする可能性は大いにあると思いますね。

── さて、数年前まで黄金時代を築いていたホークスも、ここ数年はリーグ優勝から遠ざかり、この3年は日本シリーズ進出も逃しています。中心選手の高齢化も取りざたされていますが、この原因はどこにあるでしょうか?

五十嵐 でも、「日本シリーズに出ていない」といっても、たかだか3年ですけどね(笑)。21年こそ4位だったけど、22年は2位で、昨年は3位ですから。そもそも、プロ野球において「ずっと勝ち続ける」ということは本当に難しいことです。戦力は揃っていたし、いい戦い方もしていたけど、どうしても歯車が噛み合わなかった。「高齢化」については、確かに若い選手が出てきそうで、なかなか出てこないという課題はありましたね。その点は今年も同様。いかに、若い選手が台頭するか? チームの浮沈はそこにかかっていますね。

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五十嵐亮太(いがらし・りょうた)/1979年5月28日、北海道生まれ。千葉・敬愛学園から97年ドラフト2位でヤクルトに入団。プロ2年目の99年にリリーフとして頭角を現し、一軍に定着。04年はクローザーとして37セーブを挙げ、最優秀救援投手賞のタイトルを獲得。09年オフにメジャー挑戦を表明し、メッツと契約。12年はブルージェイズ、ヤンキースでプレーし、13年にソフトバンクと契約し日本球界復帰。18年オフに戦力外となるも、ヤクルトと契約。19年は45試合に登板したが、20年10月に現役引退を表明。現在は解説者として活躍している。