現時点で「ドラフト1位指名間違いなし」と言えるだけの絶対的な存在は見当たらなかった今春のセンバツ。これまで数々の逸材を見出してきた"レジェンド"の目にはどう映ったのか。

技術にこだわり続け、50歳まで現役生活を送った山本昌氏(元中日)が、センバツに登場した12投手を徹底分析した。

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今朝丸裕喜(報徳学園/187センチ・80キロ/右投右打)

昨春のセンバツでも見させてもらい、間木歩くんとの2年生右腕コンビはすばらしいと感じていました。あれから1年が経ち、順調に成長していますね。今春の今朝丸くんは背番号こそ10番でしたが、ドラフト候補にふさわしい実力でした。軸がしっかりしていて、コンパクトなのに強い腕の振りができる。下半身の無駄な動きがなく、捕手に向かって真っすぐにラインを出せているからコントロールもいい。

フォークにはびっくりするくらいの落差がありましたし、スライダー、カーブのキレもよかったです。とくに腕の振りの最後が力強い点に惹かれました。今後に向けて課題を挙げさせてもらうなら、体重移動の距離をもう少しとれるようになるともっとよくなるはずです。上の世界でも先発投手として長いイニングを投げるには、その点がカギになるでしょう。

山本昌がセンバツで力投した12投手を解説 中日で一緒にプレーした投手の息子の評価は?
北海戦で7回1失点と好投した大阪桐蔭・平嶋桂知 photo by Ohtomo Yoshiyuki
平嶋桂知(大阪桐蔭/186センチ・84キロ/右投両打)

1球見ただけで、「さすが大阪桐蔭のエースだなぁ」とうなってしまいました。春先からこれだけ速いボールを連発できる投手は希少ですし、カットボールも腕が振れている。

ラインがしっかりしていて制球面も問題ありません。高卒でプロ入りすれば、平均球速はすぐに150キロを超えるはずです。楽しみな素材なのでひとつアドバイスしたいのが、ツーシーム(シュートしながら落ちる球種)の腕の振り。ストレートやカットボールの時よりも腕の振りがわずかに緩んで、腕の角度も下がっています。「曲げたい」という意識が強いのか、シンカーのように投げようとしているように見えました。でも、むしろストレートと同じく上から投げたほうが曲がるはず。
せっかくいい腕の振りをしているので、ぜひツーシームにも生かしてほしいですね。

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1年春から広陵の背番号1を背負う髙尾響 photo by Ohtomo Yoshiyuki
髙尾響(広陵/172センチ・73キロ/右投右打)

さすが1年春から名門・広陵で背番号1を背負う投手だと感じます。決して体は大きくありませんが、投手としてのすばらしいセンスを感じます。テイクバックが小さく、打者にとっては出どころの見えづらい腕の振り。軸足でしっかりと立ち、スーッとホーム方向へ真っすぐに向かう体重移動。ラインをしっかりと出せているので、コントロールがいいし、ボールにはスピードも勢いもあります。

このまま体に力をつけていけば、プロでも十二分にやれるはずです。課題を挙げさせてもらうなら、体重移動の距離。ホーム方向へ左肩が寄っていくようなフォームになれば、ボールが引っかかることなく質がさらに高まるはずです。

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熊本国府戦で14奪三振の快投を見せた阿南光の吉岡暖 photo by Ohtomo Yoshiyuki
吉岡暖(阿南光/182センチ・85キロ/右投右打)

独特な足の上げ方が印象的なフォームですが、ボールが出てくる位置が高く、強く腕が振れるのでこれだけのスピードボールが投げられるのでしょうね。左右のブレが少ないコントロールも魅力的で、フォークなどの縦変化もいい曲がり方をしています。もう少し左肩が捕手方向へと移動できると、ボールが低めに集まってさらによくなりそうです。

あとは時折、リリース時に手首がわずかに寝る時があって、シュート回転が強くなる傾向があるようです。せっかく体を縦に使えるフォームなので、リリース時に手首を立てられれば縦軸のきれいなストレートをコンスタントに投げられるようになるはずです。

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チームメイトの櫻田朔とともにベスト8進出の原動力となった青森山田・関浩一郎 photo by Ohtomo Yoshiyuki
関浩一郎(青森山田/186センチ・85キロ/右投右打)

すごくポテンシャルが高い右投手だと感じました。肉体的に恵まれているし、腕の振りが強いし、ボールが速く見えます。将来性の高い、面白い素材ですね。期待を込めて、あえて細かな部分で気になる点を挙げさせてもらいます。

基本的には右腕を縦に振るフォームなのですが、右腕を振る際に一瞬、右手首が逃げてラインから外れてしまう時があります。わずかに手首が寝てリリースされると、ボールを引っかける原因になります。常に手首が立った状態でリリースできれば、もっと凄まじいボールを投げられるはずです。ボールを上から押さえつけるようなリリースを身につけて、よりレベルアップしてもらいたいですね。

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センバツでは初戦敗退したが、随所に素材のよさを見せつけた作新学院・小川哲平 photo by Ohtomo Yoshiyuki
小川哲平(作新学院/184センチ・96キロ/右投右打)

守備の乱れもあって初戦で敗れてしまいましたが、素材としてのよさは十分に感じられました。たくましい体が特徴的で、軽い力感で投げているのにボールには球威がある。立ち姿や体の強さは、高い将来性を感じさせます。甲子園では立ち上がりから抜ける球が目立ちましたが、体重移動する方向が少しバラける印象がありました。ホーム方向へ真っすぐに体重移動したうえで、腕の振りのタイミングを安定させたいですね。今は左肩が引けて、胸が早く打者に見えてしまうシーンが見られます。この点が噛み合ってくればもっとコントロールがよくなるはずですし、抜け球が減るはずです。

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最速149キロを誇る愛工大名電の伊東尚輝 photo by Ohtomo Yoshiyuki
伊東尚輝(愛工大名電/182センチ・78キロ/右投右打)

愛工大名電といえば、昨夏の甲子園でも投げた左腕の大泉塁翔くんが記憶に残っていたのですが、こんな速球派右腕もいたのかと驚きました。投球のリズム感がよく、右腕を縦に振れてボールに角度があります。フォームに大きな欠点が見当たらず、なかなか完成度が高いと感じました。独特のリズム感は長所である一方で、軸足を折るタイミングが早すぎる場面も多かったように見えました。捕手方向に体重移動しながら自然と軸足が折れる形にできれば、左肩がもっと前に出てくる投げ方になります。高めに集まりがちなボールが低めに集まるようになり、投手としてもう一段レベルが上がるでしょう。

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1年夏から甲子園のマウンドを経験している八戸学院光星の洗平比呂 photo by Ohtomo Yoshiyuk
洗平比呂(八戸学院光星/178センチ・80キロ/左投左打)

お父さんの竜也さんは現役時代に中日で一緒にプレーした元チームメイトでした。お父さんもボールの速い左投手でしたが、息子さんも球が速いし、まだまだ伸びしろがありそうです。1年夏の甲子園で愛工大名電戦に先発して、5回1失点(自責点0)と好投した時から注目していました。捕手に向かって真っすぐにラインをつくれるフォームで、コントロールには苦労しなさそうです。おそらくステップする右足を突っ張る点を指摘され続けてきたのではないかと想像しますが、私は問題とは思いません。むしろボールの角度をつくり出し、変化球の曲がりのよさにもつながっているように見えます。これから体をつくっていけば、常時140キロを超える投手になりそうですし、楽しみです。

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初戦で山梨学院に敗れたがキレのあるボールを披露した京都外大西・田中遙音 photo by Ohtomo Yoshiyuki
田中遙音(京都外大西/175センチ・67キロ/左投左打)

上背はそれほどなくても、体の反動をうまく使える左投手ですね。テイクバックが少し慌ただしい動作に見えますが、トップで左手がしっかりと上がりきっているので問題ありません。抜けのいいチェンジアップも目を惹きました。ストレートのシュート回転が強くなる高校生が多いなか、田中くんのボールはややスライド回転がかかっています。右打者のインコースへと食い込んでいくメリットもあるでしょうが、今まで以上にボールの勢いを出したければ左肩をより前に出してから投げたいところです。左腕を振る際、左肩を右肩の位置と入れ替えるような形で投げられれば、もっと球質はよくなるはず。今は左肩が前に出てこずに腕を振っているため、ボールを引っかけることが多いのかもしれません。実戦に強い投手として注目されているようですが、まだまだ成長の余地を残しています。

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2回戦の神村学園との試合に先発した大阪桐蔭の2年生・森陽樹 photo by Ohtomo Yoshiyuki
森陽樹(大阪桐蔭2年/189センチ・83キロ/右投左打)

ハマった時のボールは段違い。2年生にして全国トップクラスのボールを投げています。残りの高校生活をケガせず順調に過ごせたら、3年時には間違いなくドラフト上位指名候補になるでしょうね。さすがは、毎年プロ注目選手を輩出する大阪桐蔭だなと感じました。軸足での立ち方はいいし、体重移動もスムーズでいい。ボールには角度も球威も感じます。ただし、テイクバックからリリースにかけて右腕が遠回りする使い方で、リリースでタイミングが合わない場面も見られました。これだけのスケールの持ち主なので腕を小さく回す投手にはなってほしくありませんが、テイクバックからリリースにかけて畳み込むような感覚を身につけられれば手のつけられない存在になりそうです。

山本昌がセンバツで力投した12投手を解説 中日で一緒にプレーした投手の息子の評価は?
決勝の報徳学園に先発し、8回2失点の好投でチームを初優勝に導いた健大高崎の石垣元気 photo by Ohtomo Yoshiyuki
石垣元気(健大高崎2年/176センチ・71キロ/右投左打)

コンパクトで力感のないフォームですが、腕の振りが鋭くてコンスタントに140キロを超えてくるから打者は差し込まれてしまいます。そして何よりもスライダーのキレが抜群。ラインもきれいに出せていてコントロールもいいし、野球センスのある投手なのだろうなと感じました。2年生とはいえ、二本柱を組む佐藤龍月くんとともに高校生では攻略するのは難しい投手でしょう。このまま成長していけば、プロに入ってリリーフとして活躍するイメージが湧いてきます。これから体をつくってスケール感を養成して、ひと回りもふた回りも大きな投手に成長してもらいたいです。

山本昌がセンバツで力投した12投手を解説 中日で一緒にプレーした投手の息子の評価は?
同級生の石垣元気とともにセンバツ優勝へと導いた健大高崎・佐藤龍月 photo by Ohtomo Yoshiyuki
佐藤龍月(健大高崎2年/173センチ・70キロ/左投左打)

石垣くんとともに春のセンバツ優勝へと導いた活躍は見事でした。まず目に留まるのは、強烈なクロスステップ。マウンドから向かって左方向へと右足を踏み出し、対角線に投げ込む角度が特徴的でした。右打者のインコース、左打者のアウトコースへと突き刺さるボールは打ちづらいはずです。2年生にして特殊性を持ち、球速もあるのですから結果を残せるのもうなずけます。クロスステップする分、体をクルッと回して投げるのは大変でしょうが、捕手に向かって伸びていく球質を追求してもらいたいです。

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 今回12投手の投球をチェックさせてもらい、あらためて実感したことがあります。それは「最近の投手の技術レベルは確実に高くなっている」ということ。技術に関する情報があふれているし、勉強熱心な指導者の方々の力も大きいのでしょうね。逆に言えば、技術に関する知識をつけなければ勝てない時代がきているのだと感じます。

 高い技術を身につけられれば故障が少なくなり、練習量を減らすことなく順調に成長できます。私も母校の日大藤沢で臨時コーチをしていますが、今の高校生は短期間に急激に成長して驚かされます。

 これから夏にかけて、今回分析させてもらった投手が成長してくれることを願っています。そして、全国には隠れた逸材がたくさんいるはず。新たな好投手と出会えることを楽しみにしています。