吉田知那美にちなんだ『32の言葉』
連載◆第15エンド
「石が重そうに見えるよ」
「自分を天才と信じることも必要」
(小笠原歩)
私がどん底にいる時、あるいはどん底に落ちそうな時、SOSを出す人は家族や友人など何人かいるのですが、アイスに近い人だと小笠原歩さんがいます。
2021年夏、2022年北京オリンピック日本代表決定トライアルに向けて合宿を行なうなか、練習試合を約10試合こなしても1勝もあげることができず、ミスをいつまでも引きずっている私にかけてくれた言葉があります。
「プレッシャーとか責任とか期待とかで、石が重そうに見えるよ。カーリングのショットは全部、難しいのが前提で、特にサードやスキップのショットなんて、Tバックぐらい成功の幅が狭いんだよ」と卓越したユーモアとワードセンスを発揮したうえで、「それを決め続けるなんて神様だけ。絶対にミスは出る。大事なのは、ここまでのミスは成功のうち。そういう許容を設定して、自分を許してあげること。時には自分を天才と信じることも必要です」と諭してくれました。
特に「石が重そうに見える」という歩ちゃんの表現は言い得て妙で、今まで思いどおりに動かせていた20キロの石がその時は本当に重く、コントロールが効かないように感じていました。
私は、物事を広く解釈して前を向くこのマインドを、勝手に『あゆみTバック論』と呼んでいます。ミスの原因だけ見つけたら、ミスした自分をすぐに許すこと。当たり前のように決めている「基礎的」と言われるその一投は、27年間一生懸命練習を続け身につけたひとつの技だということ。

心からそう思えるのは、現役を離れた今も、ナショナルヘッドコーチとしてカーリングの強化や普及に取り組んでくれていて、私だけではなく、チームや世代を問わず、多くの選手からのSOSを受け取ったり、アドバイスを送ったりしてくれて、背中を追わせてくれる歩ちゃんがいるからです。ジュニア世代やナショナルチームまで帯同して世界を飛び回り、地球のあらゆる場所で日本カーリング史上初のメダルを獲得しまくり、選手としてではなくコーチとして日本のカーリングの歴史を作り続けています。
つい先日も、イタリア・トリノでのワールドユニバーシティゲームズでジャパンは金メダルに輝きました。そのコーチボックスには選手と同じ気持ちで戦い、快挙に涙する歩ちゃんがいました。
2月2日から日本選手権が開幕します。厳しい戦いが続くと思いますが、歩ちゃん直伝のTバック理論を心に、大好きなカーリングと尊敬するパイオニアたちへの全身全霊の恩返しの気持ちで、自分らしく戦ってきます。
吉田知那美(よしだ・ちなみ)
1991年7月26日生まれ。北海道北見市出身。
森野友香子●ヘアメイク hair&make-up by Morino Yukako
本多仁美●スタイリング styling by Honda Hitomi
衣装協力/ボーダーTシャツ ¥15,950 / Le Minor(GUEST LIST)、パンツ ¥16,500 / Healthy DENIM(GUEST LIST) 、エプロン / Simply 、サンダル¥8,800 / オリエンタルトラフィック(ダブルエー)