中村武志インタビュー(後編)

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 2023年に韓国プロ野球の起亜タイガースのコーチに5年ぶりに就任し、昨年は7年ぶりの優勝と韓国シリーズ制覇に貢献。そんな中村氏が韓国野球の現状について語った。

「ロボット審判」や「ピッチコム」など最新テクノロジーが導入される韓国野球の最前線とは──。

中村武志が語る韓国プロ野球のリアル 「レベルは?」「選手の年...の画像はこちら >>

【韓国代表が国際大会で苦戦のワケ】

── 7年ぶりの優勝おめでとうございます!

中村 前回優勝の2017年にも起亜タイガースでコーチを務めていたので、本拠地の光州では"神"と呼んでくれるファンもいてうれしいですね。

── 韓国のプロ野球は、かつては宣銅烈投手(中日)、林昌勇投手(ヤクルト)、呉昇桓投手(阪神)、野手も李鍾範選手(中日)、李承燁選手(巨人ほか)、李大浩選手(ソフトバンクほか)と名選手がいました。トップレベルは日本に匹敵すると言われましたが、最近のレベルはどうなのですか。

中村 韓国野球関係者も認めているところですが、MLB、NPBと比較すると、特に投手力が落ちるという感じです。というより、今永昇太(カブス)、ダルビッシュ有(パドレス)、菊池雄星(エンゼルス)たちの活躍を見ても、NPBの投手レベルは、MLBをも凌ぐと思います。韓国はその代わりといってはなんですが、打者のストレートへの対応力は世界レベルだと思います。ただ、変化球への対応力は少し劣りますが......。

── 韓国野球のプレースタイルは、力勝負のMLBとスモールベースボール的なNPBの野球のどちらに近いのでしょうか。

中村 100パーセント、アメリカに近いです。韓国プロ野球は1982年に発足して以来、40年以上の歴史を重ねました。五輪では2000年に銅メダル、2008年に金メダル、WBCでは2006年に3位、2009年に準優勝するなど、世界トップレベルにありましたが、最近は表彰台から遠ざかっており、名誉挽回を図っています。

── なぜ、勝てなくなってきているのでしょう?

中村 日本との最大の違いは、アマチュア野球チームの絶対数が少ないことです。

少子化で激減したとはいえ、日本では3000チーム以上の高校が甲子園の地方大会に出場しています。さらに大学、社会人も充実していますからね。一方、韓国は2020年の時点で高校の野球部は約80校です。だから韓国では、プロ入りしてから本格的に野球を教わるといった具合なのです。

── 韓国には徴兵制ありますよね。

中村 軍隊がありますので、2年間の兵役を終わらせないと野球も私生活も落ち着かない部分があるのではないでしょうか。「軍隊内チーム」は強くて、入れれば野球を続けられるのですが、1チームしかないので、人数の兼ね合いで順番待ちなどもあるようです。五輪、WBC、アジア大会で金メダルを獲れば、兵役免除もあるようですが、獲れなければ軍隊に行って、プロを一時離れることもあるそうです。

【ロボット審判の精度は?】

── 年俸はどのぐらいでしょうか。NPBの外国人選手と非会員選手を除く(二軍選手も含めた)2024年の日本人支配下選手の平均年俸は、4713万円です(日本プロ野球選手会調べ)。

中村 全10球団に所属する513人の平均年俸は、約1704万円だそうです。最高年俸の選手は約2億7500万円。

ただし新人は約330万円程度で、活躍すればMLBを目指す傾向にありますね。

── 野球人気自体は高いのですか?

中村 最高を10としたら、8か9くらいだと思います。国内スポーツのなかでも、かなり人気はありますね。昨年、韓国プロ野球は歴代最多となる1088万人の観客を集め、最近はチアリーダーのダンスも大流行しています。

── MLBは投手と捕手間でサインの伝達に電子機器「ピッチコム」を活用しています。韓国でも使用していると聞きました。

中村 はい、使用しています。捕手のリストバンドに装着した機器の球種なり、コースのボタンを押すと、投手の帽子に音声が飛んで聞こえます。これにより試合時間短縮やサイン盗み防止につながるとされています。

── そういえば、韓国では「ロボット審判」が導入されたそうですね。

中村 ロボットが捕手の後ろの球審の位置に立っているわけではありません。これまでと同じように球審はいますが、球場に設置されたカメラと軌道追跡システムが投手の投げた球の軌跡を追って自動的に「ボール、ストライク」を判定します。

それを先述のピッチコムのように音声で伝え、ストライクなら球審が右手を上げるといった具合です。

── 機器の精度はいかかですか?

中村 当初は私も懐疑的でしたが、もう慣れですね。若干、高めの投球や緩い低めのカーブ系を広くストライクに取る傾向はありますが、そういうものだと最初から割り切って考えていればいいわけです。人がジャッジしていた時も、個人によってクセがありましたからね。判定に関して文句が出やすいところですが、そういう意味では機械は公平ですからね。

── アメリカでも試験的に2023年からマイナーリーグ3Aで導入されているようですね。

中村 1年間見てきて、「ロボット審判」の導入に賛成の方向になりました。「アウト、セーフ」に関しては、ビデオ判定によるリクエスト制度がありますし、「ボール、ストライク」についても自動投球判定システム(ABS)でいいと思います。


中村武志(なかむら・たけし)/1967年3月17日、京都府出身。84年のドラフトで中日から1位指名を受け入団。星野仙一監督(当時)の指導のもと、87年に一軍デビューを果たし、翌年から正捕手となりチームを優勝に導いた。以降も中日の司令塔として活躍し、99年のリーグ優勝にも貢献。

2001年オフに横浜へ移籍。05年には楽天に移籍し、同年限りで現役を引退。その後は横浜、中日、ロッテ、韓国プロ野球の起亜タイガースでコーチを歴任

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