星野伸之インタビュー 後編
パ・リーグ順位予想
(前編:オリックス巻き返しのキーマンは? 期待のルーキーや新戦力の状態を分析>>)
昨季はソフトバンクが2位の日本ハムに13.5ゲームの大差をつけ、4年ぶりのリーグ優勝を達成。他チームが「打倒・ソフトバンク」を目指して挑む今季は、果たしてどんな展開になるのか。
【1位予想:オリックス】
――古巣のオリックスを1位と予想しましたが、その理由は?
星野伸之(以下、星野) 順位を決めるにあたって、今回は各チームのキャッチャー事情を重視して考えてみました。いかにキャッチャーが試合を支配できるかは勝負を決める上で大切ですし、得点に絡んでいけるキャッチャーがいるチームは上がっていけるのかなと。
そういう意味で、オリックスには若月健矢と森友哉(森は3月12日の中日戦で右脇腹付近を負傷)という実績のあるキャッチャーがいます。2人とも併用されることに慣れているのも大きいですね。1年を戦うことを考えると、キャッチャーをひとりに絞ると難しい。安定した2人のキャッチャーがいることはオリックスの強みです。
――宇田川 優希投手が右肘の手術を受けることになり、吉田輝星投手はすでに右肘トミー・ジョン手術を受けるなど、開幕前に離脱者が多いです。
星野 山﨑颯一郎や宇田川ら復帰組には期待していたのですが、宇田川の手術は確かに痛いです。安定感のあるルイス・ぺルドモ、アンドレス・マチャドにどうつなぐかでしょうね。その手前には平野佳寿や古田島成龍、新加入の本田圭佑らもいますし。先発陣に関しては宮城大弥、山下舜平大、アンダーソン・エスピノーザ、曽谷龍平、九里亜蓮、田嶋大樹、経験は少ないですが椋木蓮、髙島泰都らも含めると頭数は揃っています。
――3月7日の巨人戦で、腰の違和感で緊急降板した山下投手が気がかりです。
星野 大事をとっての降板だったと思いますが、ローテーションの中心で回ってもらいたいピッチャーですし、開幕に間に合わなくてもしっかりとコンディションを整えてから戻ってきてほしいです。あと復帰に期待するのは、昨年8月に右肘の手術を受けた東晃平。ライブBP(実戦形式の打撃練習)で登板を始めるなど順調そうなので、焦らずに戻ってきてくれればと。
――バッター陣のキーマンは?
星野 体の状態は少し心配ですが、森です。去年は打線全体が低調だったので、「自分が決めなければ」という気持ちが強すぎたのか、めちゃくちゃ力んでいました。ただ、太田椋が育ってきていますし、頓宮裕真や西川龍馬は挽回を期して臨むはずです。OB目線で、岸田護新監督への期待値も込みで優勝と予想しました。
【2位予想:日本ハム】
――日本ハムは昨季と同じ2位予想ですね。
星野 日本ハムもキャッチャー陣は、経験豊富な伏見寅威、昨季も経験を積んだ田宮裕涼をはじめ、郡司裕也や清水優心など充実しています。なので、長いシーズンをうまい具合に回していけると思いますし、田宮や郡司は打撃でも期待できます。
先発も伊藤大海、加藤 貴之、山﨑福也、金村尚真、北山亘基、ドリュー・バーヘイゲンら頭数が揃っていますし、日本ハムが優勝する可能性もあるかなと思っています。
――野手陣の層も厚くなってきていますね。
星野 フランミル・レイエスの存在が大きいです。
レイエスを中心に、万波中正、清宮幸太郎、水谷瞬、松本剛らタレント揃い。新加入の吉田賢吾もバッティングがいいですね。新庄剛志監督がどんな起用をしていくのかも楽しみですし、打線の破壊力はソフトバンクに勝るとも劣らないと思います。
【3位予想:ソフトバンク】
――昨季、独走でリーグ優勝したソフトバンクを3位と予想した理由は?
星野 打線が強力で、得点力はリーグNo.1だと思いますが、やはり甲斐拓也が抜けた穴が大きいです。昨季は2位以下のチームに大差をつけてぶっちぎりで優勝。ただキャッチャーに関しては、海野隆司らはある程度起用されたものの、あれだけ大差をつけていたにもかかわらず、基本的には甲斐が起用されていた。つまり、甲斐でなければ嫌なピッチャーが多かったのかなと。
今までは甲斐と組んで自信を持って投げていたピッチャーが、同じように投げられるのかが懸念材料ですし、失点が多くなるかもしれません。得点力があるのである程度はカバーできると思いますが、野球はやはりピッチャーが試合を作らないといけないので。先発ローテーションの一角として期待されていたカーター・スチュワートの離脱も痛いです。
それと、守りの部分では今宮健太の離脱が痛い。ジーター・ダウンズが代わりにショートに入っていますが、スローイングを見ると少々不安です。
――打線は柳田悠岐選手、山川穂高選手、近藤健介選手ら中軸を担う選手をはじめ、主力の故障がなければ脅威ですね。
星野 本当に強力ですね。ただ、ソフトバンクは強い球に意外と弱いのかな、と個人的には思っているんです。昨年の日本シリーズで、濵口遥大(当時はDeNA、現ソフトバンク)がソフトバンク相手に真っすぐを打たれても、真っすぐを投げ続けたんです。僕は「それでいい」と思いながら見ていました。
変化球でかわそうとすると絶対にやられますし、真っすぐで押していかないと抑えられません。僕の感覚では、ソフトバンク打線は意外と真っすぐをファウルにすることが多い。各バッターがいいスイングするのでつい変化球を投げたくなるのですが、思い切っていけるかが重要です。
【4位予想:西武】
――昨季は最下位となり、首脳陣を一新した西武は4位と予想されました。
星野 昨季の新人王、武内夏暉は左肘の故障で出遅れていますが、今井達也、隅田知一郎、渡邉勇太朗らがいて、3月11日の阪神戦では菅井信也が5回無安打無失点の好投を見せました。また、昨季にまさかの未勝利(0勝11敗)に終わった髙橋光成も同じ轍は踏まないでしょう。
ただ、昨季のように点を取れないとピッチャーも辛抱しきれません。今季はパ・リーグでの指導経験豊富な鳥越裕介ヘッドコーチもいますし、いかに点を取ってピッチャーを楽にしてあげられるかがポイントです。
ソフトバンクは守備面で大黒柱の甲斐が抜けて失点をどう防ぐかが課題ですが、西武は対照的で、得点力の向上が課題。キャッチャーに関しては古賀悠斗がプレミア12を含めて経験を積んできていますし、安定感をもたらしてくれるベテランの炭谷銀仁朗の存在も大きいです。
――昨季は打線の核となる選手がいませんでしたが、元オリックスのレアンドロ・セデーニョが加入しました。
星野 打つ時と打たない時があって少しムラがありますが、長打が期待できる選手がいてくれると打線も組みやすくなりますし、セデーニョの加入は大きいです。新外国人選手のタイラー・ネビンもいますが、新外国人はオープン戦でどういう成績を残そうが、シーズンに入ってどうなるかが未知数。それでも、ドラフト2位ルーキーの渡部聖弥(大商大)が1年目から戦力になりそうですし、打線は昨季より期待できると思います。
【5位予想:ロッテ】
――昨季3位のロッテは5位に予想されました。
星野 正捕手の佐藤都志也が、右足の親指骨折で出遅れているのが痛いです。ベテランの田村龍弘がいて、松川虎生、寺地隆成らの若手が控えていますが、佐藤の場合は打線でも中軸を打っていますし、不在となると攻守両面に影響してしまうかなと。松川はブロッキングなど守りの面では比較的に安定していますが、打撃面で劣ります。
一方で外野陣には楽しみな選手がいます。ドラ1の西川史礁は"剛柔自在のスイング"という感じで打率も長打も期待できそうですし、長打という点では山本大斗も魅力があります。ほかにも藤原恭大や、打線にいるだけで怖いと思わされる髙部瑛斗もいますし、岡大海、荻野貴司、角中勝也らベテランも健在ですからね。
――ピッチャー陣はいかがですか?
星野 佐々木朗希が抜けましたが、石川柊太が加入しましたし、新外国人投手のオースティン・ボスも試合を作れそうなので、穴は十分に埋められるんじゃないかなと。ただ、ロッテは昨季、西武に大きく勝ち越した(21勝4敗)一方で、ソフトバンクや日本ハムなど上位チームにあまり勝てず、交流戦でも貯金ができませんでした。西武は同じようなやられ方をしないでしょうし、ロッテはそこが不安要素です。
【6位予想:楽天】
――三木肇新監督率いる楽天を最下位と予想した理由は?
星野 楽天は監督が頻繁に代わりますよね。三木監督の場合はファームで指揮を執っていましたし、2020年には一軍の監督経験もあるので選手がある程度慣れている部分はあるかと思うのですが......以前のオリックスが頻繁に監督を変えて低迷していたので、どうしても気になってしまうんです。
昨季は交流戦で優勝していますし、しぶといバッターが多くて打線には怖さはあると思います。ただ、交流戦で優勝した後に勢いに乗り切れなかったり、チームとして心配な部分もあります。
――ドラフト1位ルーキーの宗山塁選手(明治大)が入り、内野陣の層は厚くなりましたね。
星野 宗山はおそらく開幕からショートで使っていくと思います。小深田大翔や村林 一輝、伊藤裕季也らもいますし、確かに宗山が入ったことで内野陣に厚みが出てきました。
心配なのは先発陣です。早川隆久、藤井聖は計算できると思いますが、計算できるピッチャーの枚数が足りません。
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2041奪三振を記録している。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。