今年の高松商(香川)は強い──。

 今春のセンバツが開幕する前から、高松商の下馬評は高かった。

明徳義塾(高知)の馬淵史郎監督もタレント揃いのチーム力を絶賛。センバツ1回戦の対戦相手である早稲田実(東京)の和泉実監督は、試合前に苦笑交じりにこう漏らしている。

「雑誌を読んで情報を集めようと思ったんですけど、途中でやめました。150キロくらい投げるピッチャーがいるとか、キャッチャーが盗塁をされたことがないとか、後ろ向きな情報ばかり読んでしまって......」

 高松商の投手力は全国指折りの陣容といっていい。先発右腕の末包旬希(すえかね・しゅんき)は、ゲームメイク力に長けた実戦派右腕。リリーフの行梅直哉(ゆきうめ・なおや)は身長185センチ、体重95キロとたくましい体躯で、最速147キロの剛速球を投げ込む速球派右腕だ。

 そして、もうひとり。昨秋の四国大会が終了後に台頭した剛腕・高橋友春がいる。昨年11月におかやま山陽(岡山)との練習試合で、自己最速を5キロ更新する152キロを計測。昨秋の公式戦わずか2イニングしか登板していない謎の右腕が、甲子園のマウンドに上がるかも焦点だった。

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【力みが悪い方向に】

 だが、3月22日に迎えたセンバツ初戦は、意外な結果になった。高松商は早稲田実打線に12安打を浴び、2対8と完敗したのだ。

 0対3とビハインドの4回表、二死満塁のピンチで2番手として登板したのが行梅だった。

 立ち上がりから144キロをマークするなど、スピードは出ていた。しかし、早稲田実の2番打者・國光翔に引っ張り込まれたファウルが続く。「真っすぐが狙われている」と察知した行梅は、左打者の國光の膝元に曲がり落ちるスライダーを選択する。過去にも強打の左打者を同様の攻めで、三振に仕留めた経験があった。

 しかし、行梅が投じたスライダーは、國光の右足に当たってしまう。押し出し死球となり、早稲田実に追加点を許してしまった。行梅は悔恨を口にする。

「僕のなかで、『絶対に0点で抑えて流れを持っていくんだ』と強い思いを持ってマウンドに上がりました。でも、それが力みになって、悪い方向に出てしまいました」

 5回表には、内野ゴロがイレギュラーして外野へと抜ける不運もあって1失点。行梅は4回1/3を投げて、被安打3、奪三振4、失点1。まずまずの結果に見えるが、本人は「まったく満足していません」と吐き捨てた。

 こだわりのストレートが投げられなかった。

この日の腕の振りは少し斜めの角度だったが、本来は「右腕を上から縦に振りたいんです」と行梅は語る。

「リラックスしている時はトップで右腕が上がってくるんですけど、今日みたいに力んでいると腕が上がらなくて。スリークォーターの角度になって、真っすぐで空振りが取れないんです。本来は角度があって、ホップするような真っすぐを投げたいです」

 高松商の長尾健司監督からは、「才木浩人(阪神)のフォームに似ている」と褒められることもあるという。行梅は「わかっていても打てないストレートを投げたい」と意気込む。その意味で、この日は納得のいくストレートを投げられなかった。

 行梅は将来的にプロ野球、そしてメジャーリーグで活躍することを目指している。だが、今は実力が足りないことも自覚している。

「これから夏に投げてみて......にはなりますが、今のままではプロでとても通用しないと思います。自分のなかでは、大学で4年間しっかりトレーニングして、プロを目指したほうがいいのかもしれないと考えています」

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最速152キロを誇る高松商・高橋友春 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【甲子園で露呈した課題】

 高松商が1対5と4点差に追い上げた9回表、満を持してマウンドに上がったのが高橋だった。

 身長181センチ、体重87キロ。均整の取れた体格とバランスのいい投球フォームは、ひと目で好素材とわかる。

しかし、プレーボール直後から高橋が投げ込むストレートは、133キロ、137キロ、138キロと球速が伸びない。この時、高橋は「全然腕が振れていないな」と感じていたという。

 しかし、徐々に緊張がほぐれてくると、この日最速となる148キロをマーク。腕の振りも明らかに鋭くなっていった。高橋は「押せるだけ押そう」とストレート一本槍で立ち向かう。

 しかも対峙するのは早稲田実の強力クリーンアップ。3番の灘本塁にはファウルで粘られた末、11球目となる146キロをセカンド左へと弾き返される(内野安打)。4番の山中晴翔には147キロをレフト前に運ばれた。

 犠打を挟んで6番の喜澤駿太には143キロをレフトへ2点適時打。さらに7番・中村心大には146キロをセンターへ適時打を浴びる。ここで高橋の交代が告げられた。

 被安打4、失点3。

奪ったアウトは、犠打による1個だけだった。

 試合後、高橋は悔しさを噛み殺しながら、こう語った。

「今日は自分のせいで負けたようなものなので。もっと変化球を投げられたら、結果も違ったと思います。球が速くても、何度も続けていたらタイミングを合わされるのは当たり前ですから。もっとコントロールを磨いて、変化球を使えるようにならないといけないです」

 そもそも、なぜ高橋の存在がヴェールに包まれていたのか。それは高校2年時に腰椎分離症を発症したことが原因だった。

「半年くらい腰の治療をしていて、復帰したのが2年秋の新チームが始まったくらい。ずっと投げていなかったので、公式戦で信頼を得るまでになりませんでした。メディシンスローやウエイトトレーニングなど、基本的なことを続けていたら、少しずつ結果になってきました」

 入学時に最速133キロだったスピードは、現在152キロに達した。さらに握力が右手78キロ、左手76キロと驚異的な数値を叩き出すように、体の強さにも自信がある。

 高橋は「高卒でプロに行きたいです」と希望を口にしつつ、こう続けた。

「でも、今の力じゃまだまだダメです。」

 甲子園で味わった屈辱を夏への糧にできるか。高松商が誇るふたりの速球派右腕は、甲子園へのリベンジを誓っている。

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