プロ5年目のヤクルト・赤羽由紘(あかはね・よしひろ/25歳)が存在感を示している。オープン戦期間中に山田哲人、塩見泰隆、村上宗隆がケガで離脱すると、赤羽は「6番・セカンド」で初の開幕スタメンに抜擢された。
バッティングでは思いきりのいいスイングと追い込まれてから逆方向への技ありの一打、守備でも荒削りだが時折見せるファインプレーが魅力の選手だった。だが、今年は取れるアウトを確実に取っている印象が強い。そのことを赤羽に伝えると、こんな答えが返ってきた。
「外野を始めた時とかは、ちょっと野生的な感じで、何も考えずに打球に突っ込んでいくからこそできたプレーだったと思います。今は自分のなかで『この場面ではやったらダメだな』と考えるようになったので、そう見えるんじゃないかと思います」
【担当スカウトも驚く万能ぶり】
赤羽は2020年のドラフトで、BC信濃(独立リーグ)から育成2位でヤクルトに指名され入団。スピード、パンチ力、瞬発力を生かしたプレーで頭角を現すと、2年目の2022年にフレッシュオールスター史上初となるサヨナラ本塁打を放ってMVPを獲得。その後、支配下に登録され背番号も3ケタから2ケタとなった。
さらに同年8月1日に開催された「野球伝来150年プロアマ記念試合」では、U−23NPB選抜入りして代打2ラン。また2023年9月3日には、デーゲームでのファームのロッテ戦でホームランを放つと、夜は一軍の阪神戦で伊藤将司からプロ初本塁打。"親子ゲーム本塁打"という珍しい記録も残している。
中西親志ヤクルト選手寮寮長は当時の担当スカウトで、ここまでの赤羽の活躍について次のように話した。
「もともとバッティングはクセがなくて、パンチ力があり、ボールの捉え方がよかった。
二軍の宮出隆自打撃コーチは、「赤羽もそうですけど、若い選手が一軍にいると気になりますし、テレビを見て応援しちゃいますね」と笑顔を見せた。
赤羽の成長について、宮出コーチはこう話す。
「去年ですかね。『一軍に上がるまで、毎日練習をお願いします』と言ってきたことがあって、気持ちの部分で変わってきたなと。今年はあっさり終わる打席が減りましたよね。大げさに言えば、以前は10打席あったら半分ぐらいはそんな感じでした(笑)。追い込まれると、とんでもないボールに手を出して三振とか。
今は一軍で、簡単にはアウトにならないという執念を出して、心と体が連動していると思う打席が増えています。そこが彼の成長と見ています。
【スタメン出場で得た新たな経験】
赤羽はここまでの結果について、「開幕スタメンで試合に出られましたし、すごく調子がいいわけではなかったのですが、ヒットをなんとか1日1本出しながらやっていましたけど」と語った。
話を聞いたのは4月13日のことで、前日のDeNA戦では4打数無安打、3三振に終わっていた。開幕から7試合連続ヒットのあとは、思うような結果を出せずにいた。
「自分の思うようなスイングで捉えたと思ってもファウルになったり......ボールが前に飛ばない。コンタクト率もちょっと下がっています。もちろん原因はあるのですが、オープン戦などで『こういう感じでも当たるんだ』という発見は増えたので、自分の引き出しとして持っておけばいいかなと」
これまでのスタメン連続出場は、昨シーズンの3試合が最多だった。今年はそれを大きく更新した。
「開幕してまだ10試合ちょっとですけど、自分には未知の世界なので、疲労だったり、自分が感じないところで体のズレは起こるんだなと。ずっとうまくはいかないと思っていましたけど、今まではそういうことを感じることができなかったので、この経験は自分の成長材料になってくると思っています」
そして、こう続けた。
「これまであまり考えることなく野球をしてきたのですが、試合にずっと出ることで考えることが多くなってきました。今は打てないと、もちろん落ち込みますし、『なんでだろう』と思うんですけど、基本はポジティブ人間ですから(笑)。試合はずっと続くので、自分で考えてヒントを見つけながら戦わないといけないですし、最近は困った時にはコーチの方や先輩方に聞くようにしています」
村上からはいろいろな助言をもらったという。
「オープン戦でホームランを打った時は『ナイスホームラン、でも謙虚にいけよ』というLINEがきて、試合でよくなかった時は『今日は今日で、明日からまた頑張れよ』というメッセージをもらいました。いい時も悪い時も、切り替えが大事なんだと。考えることは考えて、忘れることは忘れる。自分はフルにシーズンを戦った経験がないので、そうしていかないと自分がもたなくなってしまう」
【喜びや悔しさの質がこれまでと違う】
前述のDeNA戦のあと、赤羽はジムに直行した。
「すぐ筋トレをしに行きました。もちろん悔しかったのはあります。開幕してから経験したことのない疲れがきていて、週に一回くらいしかできなかったんですけど、こういう時こそ、やれることをやらないといけない。そういう気持ちでした」
今はこれまでにない充実感を味わっているという。
「これまでも一軍に昇格してヒットを打てた時はうれしかったですし、打てなかった時は『ああ、またやっちゃったな』と思うこともありました。でも、今はその喜びや悔しさの質が、これまでとは全然違うんです。今年ずっと一軍にいられたら、きっと悔しい気持ちのほうが多くなると思いますが、それに負けないようにしたいです。そうしないと一流選手にはなれないので、まずはそういうところからしっかり取り組んでいこうと思っています」
この先、目指すところは「ユーティリティとして自分の価値を高めていきたい」と、赤羽は話す。
「僕がいることで、チームが流動的になるというか、打撃だけじゃなく、代走の選手が出ても僕が守備で入るとか。そう感じてもらえることがユーティリティ選手の役割だと思うので、チームに必要とされる選手になるために、1年を通して波はあると思いますが、とにかくケガなく戦いたいと思います」
そんな赤羽に自身の性格について聞くと、「自分は適当な人間なんで」と笑った。
「最近は周りから『何も考えてないな』と言われて、たぶんそんな感じだと思います。前は宮出コーチや城石(憲之)コーチから、『覚えるのも早いけど、忘れるのも早いな(笑)』と言われましたけど、最近は考えている時は考えているのかなと。これからは覚えるのは早く、忘れるまでの時間は長くする。ん? 忘れなくすることが一番ですね(笑)」
4月15日の阪神戦、赤羽は開幕から続いていた先発メンバーから外れることになったが、シーズンは始まったばかり。
「自分は育成から運よく支配下に上がることができましたが、こういうところでチャンスをつかまないと、レギュラーとして試合に出続けることは難しいので、そこへの覚悟はすごく持っています」
大きく羽ばたく時間は十分にある。