この夏、ボルチモア・オリオールズはトレード市場で「売り手」に回るかもしれない。
夏のトレードは、買い手と売り手によって行なわれるのが一般的だ。
まだ白旗を掲げるには早いとはいえ、状況は厳しい。菅野智之は7登板で防御率3.00を記録しているものの、先発投手陣の防御率は5.66だ(5月3日時点)。菅野を除くと、先発防御率は6.53となる。3登板で防御率3.00のザック・エフリンは右の広背筋を痛めて、先月初旬から負傷者リストに入っている。
昨シーズンのエースだったコービン・バーンズは、FAとなってアリゾナ・ダイヤモンドバックスと6年2億1000万ドル(2025年~2030年)の契約を交わした。「真のエースが不在」という下馬評は菅野が覆しつつあるが、ローテーションは機能していない。
このまま初夏を迎えても浮上できなければ、今秋のポストシーズン進出をあきらめ、来シーズンに捲土重来を期す──という選択肢も現実味を帯びてくる。
その場合、7月31日のトレード・デッドラインまでに放出される可能性が高い野手は、今オフにFAとなるセドリック・マリンズとライアン・オハーンだろう。ふたりとも今シーズンは7本のホームランを打ち、出塁率は.375を超えている(5月6日時点)。
【もしトレードされるなら移籍先は?】
そして先発投手では、菅野が他球団から人気を集めるはずだ。ここまでの登板は、いずれも3失点以下。一度も崩れたことがない。7登板6登板は5奪三振未満ながら、6登板目は8三振を奪った。与四球は極めて少なく、トータルでひとケタの8個だ。
エースとまではいかなくても、ローテーションの2番手あるいは3番手としてきっちり計算できる。1年1300万ドルの契約でオリオールズに入団した菅野は、マリンズやオハーンと同じく、今オフのFA市場に出る。
菅野のほかに、借金5以上の球団で、ケガなく好投していて、今オフにFAという条件に当てはまる先発投手は、6登板で防御率2.67のタイラー・アンダーソン(ロサンゼルス・エンゼルス)くらいしか見当たらない。
トレードで買い手の球団が獲得するのは、FAイヤーの選手とは限らない。だが、FAとなるまでに保有できる期間が長くなれば、その分、獲得するのに必要な見返りは大きくなる。
現時点で菅野の移籍先を予想するのは難しい。だが、ロサンゼルス・ドジャースの可能性は高くなさそうだ。
山本由伸、ダスティン・メイ、トニー・ゴンソリン、佐々木朗希がいて、ブレイク・スネルとタイラー・グラスノーが戻ってくれば、6人の先発投手が揃う。さらにクレイトン・カーショウと投手・大谷翔平が復帰すると、8人になる。6人のローテーションでも、ふたりが余る。ほかにもマイナーリーグには、ジャスティン・ロブレスキー、ランドン・ナック、ボビー・ミラーといった有望株もいる。
ドジャースが菅野の獲得に乗り出すとすれば、長期離脱の先発投手が続出した場合だろう。ちなみに昨年の夏、ドジャースはデトロイト・タイガースからジャック・フレアティ(現タイガース)を手に入れた。当時のフレアティの契約は1年1400万ドルだったので、今シーズンの菅野とあまり違わない。
ワールドシリーズ優勝後、FAになったフレアティは今年2月に2年3500万ドル(2025年~2026年)の契約でタイガースへ戻った。それと同じように、オリオールズは菅野を放出しても再び契約を交わすこともできる。
【ダルビッシュ有や菊池雄星のように】
一方、ドジャース以外の球団は、買い手に回った場合、ほぼすべてが移籍先の候補になり得る。
たとえば、ドジャースと同じナ・リーグ西地区のサンディエゴ・パドレスの先発投手は、ダルビッシュ有が復帰して、ようやく5人が揃う。前年に韓国プロ野球で崔東原賞(最優秀投手賞)を受賞したカイル・ハートは、5登板で防御率6.00を記録して4月下旬にAAAへ降格した。同地区のサンフランシスコ・ジャイアンツも5人中ふたりの防御率が5.00を超えている。
また、ニューヨーク・ヤンキースでは、エースのゲリット・コールがトミー・ジョン手術でシーズン全休となり、前年に新人王を受賞したルイス・ヒールも肩の故障で開幕を迎えていない。
シカゴ・カブスも、ジャスティン・スティールが左ひじ手術で早々にシーズンを終えている。スティールは日本開幕シリーズで今永昇太に続いて2試合目に登板した。実績からしても、カブスは今永とともに二本柱を形成することを期待していたはずだ。
今から2年前、藤浪晋太郎(現シアトル・マリナーズ)は夏のトレードでオークランド・アスレチックスからオリオールズへ移籍した。当時の藤浪と現在の菅野は、どちらもメジャーリーグ1年目。1年契約で入団したことも共通する。
ただ、4月を終える前に、藤浪はローテーションから外され、ブルペンに回った。
むしろ、菅野がたどるかもしれないのは、2017年のダルビッシュや昨シーズンの菊池雄星(現エンゼルス)と同じ道だ。
当時、ダルビッシュは6年5600万ドル(2012年~2017年)、菊池は3年3600万ドル(2022年~2024年)の契約最終年だった。ダルビッシュは移籍前の防御率4.01に対し、移籍後は防御率3.44。菊池の防御率は4.75→2.70と推移した。菊池がいなければ、アストロズは地区優勝を逃していた可能性もある。
前年まで巨人ひと筋に投げてきた菅野が、メジャーリーグ1年目の途中に優勝請負人として新天地へ移り、その期待に応えるというのは、開幕前にはなかった魅力的なシナリオのように思える。もちろん、オリオールズがここから浮上し、菅野が移籍せずにエースとして投げ続けるシナリオも捨てがたいのだが......。