現地5月4日のアトランタ・ブレーブス戦に先発した佐々木朗希(ロサンゼルス・ドジャース)が、ついに待望のメジャー初勝利を挙げた。

 メジャー7戦目にして、ようやく白星を手にすることができた。

しかし、初勝利をマークするまでの佐々木のピッチングをどう評価するかは、意見の分かれるところもあっただろう。

 4月が終わった段階で、佐々木は6登板で25.1イニングを投げて0勝1敗・防御率3.55。佐々木が登板した試合で、ドジャースは4勝2敗。これは、チームメイトの山本由伸が登板した6試合と共通する。6試合での山本の防御率は1.02で3勝2敗だった。

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 佐々木が投げる球は、ゾーンを大きく外れることもある。けれども、変化球の空振り率は低くない。スタットキャストによると、スプリッターが45.1%、スライダーは40.9%だ。ちなみに、山本のスプリッターは空振り率49.4%だが、ほかに40%以上の球種はない。

 山本の登板がすべて5イニング以上であるのに対し、佐々木の最初の3登板は5イニング未満。その後の3登板は5イニング以上を投げている。

 ただ、佐々木の防御率は3点台ながら、センターのアンディ・パヘスによるスーパーキャッチがなければ、2球はホームランになっていたに違いない。

また、奪三振率は7.11と平均値より低く、一方で与四球率は6.39と高い。またFIPも5.26と、こちらも平均値より高い。

 FIPとは「フィールディング・インディペンデント・ピッチング」の略。ざっくり説明すると、守備の要素をできるかぎり排除した防御率だ。対戦結果のうち、三振、四球と死球、ホームランは基本的に投手の責任だが、ホームランを除くインプレーの打球の結果は守備に左右されることが少なくない──という考え方から生まれた。

 ただ、投球内容はさておき、佐々木の6登板の防御率は、昨シーズンの山本が6試合に登板した4月末時点の防御率とほぼ同じだ。山本が防御率3.54で、佐々木は防御率3.55だった。

 メジャーリーグ1年目の山本は、防御率こそ3.00だったものの、6月から9月にかけて3カ月以上も離脱した。登板は20試合に届かず、18登板90.0イニングにとどまった。

 今シーズン、佐々木が離脱することなく投げ続けるか、負傷者リストに1度入ったとしても最短の15日で復帰すれば、まず間違いなく20登板を超える。

【過去の日本人投手の1年目を見ると...】

 日本プロ野球からメジャーリーグへ移り、1年目に先発20登板以上を記録した投手は、これまでに12人いる。20登板で防御率2.77の田中将大(2014年=ニューヨーク・ヤンキース)を除くと、あとの11人(※)は25登板以上だ。

※野茂英雄(1995年=ドジャース)、 吉井理人(1998年=ニューヨーク・メッツ)、石井一久(2002年=ドジャース)、松坂大輔(2007年=ボストン・レッドソックス)、黒田博樹(2008年=ドジャース)、川上憲伸(2009年=アトランタ・ブレーブス)、ダルビッシュ有(2012年=テキサス・レンジャーズ)、前田健太(2016年=ドジャース)、菊池雄星(2019年=シアトル・マリナーズ)、千賀滉大(2023年=メッツ)、今永昇太(2024年=シカゴ・カブス)

 直近のふたり、11人目と12人目は、2023年の千賀滉大と2024年の今永昇太で、それぞれの防御率は2.98と2.91。

防御率3.00未満は、田中と千賀と今永のほかにもうひとり。1995年にドジャースからデビューした野茂英雄が防御率2.54を記録し、新人王を受賞した。

 この12人を防御率の低い順に並べると、6番目と7番目に位置するのは、3.73の黒田博樹と3.90のダルビッシュ有となる。なお、川上憲伸の防御率はシーズン全体の3.86ではなく、先発25登板の3.97で考察した。9月以降に川上はブルペンに回されたからだ。

 佐々木だけでなく菅野智之(ボルチモア・オリオールズ)も、20試合以上の先発マウンドに上がって防御率3点台なら、1年目としては及第点と見ていいのではないだろうか。

 そう考えるのは、過去の日本人投手の成績だけが理由ではない。

 昨シーズン、先発20登板以上のルーキーはメジャー全体で16人。防御率3.00を下回ったのは、1.96のポール・スキーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ)と2.91の今永しかいなかった。ア・リーグで新人王を受賞したルイス・ヒル(ヤンキース)は防御率3.50。この16人中、3分の2に近い10人の防御率は4.00を上回っている。こちらもリリーフ登板はあっても含めていない。

 2021年~2024年でも、ルーキーイヤーに先発20登板以上で防御率3.00未満は53人中6人だ。防御率3点台(3.00以上~4.00未満)は17人、防御率4.00以上は30人。4.00未満と4.00以上に分けても23人と30人なので、前者のほうが少ない。

【ルーキー佐々木に求められるもの】

 また、佐々木はドジャースのエースではない。2番手でも3番手でもなく、開幕当初のローテーションに並んでいた5人からすると、佐々木(とダスティン・メイ)は4番手か5番手といったところだろう。あとの3人は、ブレイク・スネルとタイラー・グラスノーに山本だ。

 昨シーズンのドジャースで先発10登板以上の8人中6人は、防御率3.50を超えていた。あとのふたりは、防御率3.00の山本と防御率3.49のグラスノーだ。その前の2023年は、防御率2.46のクレイトン・カーショウと防御率3.76のボビー・ミラーに、あとの6人は防御率4.30以上。それぞれの先発20登板以上は、2024年がふたり、2023年は4人だった。

 これまで日本のプロ野球で投げていたとはいえ、佐々木が20試合以上の先発マウンドに上がり、防御率3点台を記録すれば、先発4~5番手としては及第点、あるいは上出来と言ってもいい。

 白星については、もちろん自身の投球以外の要素も絡む。

1995年の野茂は、最初の6登板は防御率3.82で0勝1敗だった。そして7登板目に初白星を挙げ、そこから6登板で6勝を挙げた。その一方で2012年のダルビッシュは、初登板の1回表に4点を取られて5.2イニングで5失点したが、白星を手にしている。

 ただ、白星の数よりも重要なのは、佐々木がドジャースに勝つチャンスをもたらしているかどうかだろう。少なくともメジャー初勝利を含む直近4登板は、その役目を果たしている。

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