新たに幕開けしたSVリーグにとって、西田有志(大阪ブルテオン)がこの時代に存在したことは、この上ない"幸運"だったと言えるだろう。彼のような明るいキャラクターは、どんなプロ競技でも求められる。
――SVリーグを盛り上げる使命は、重圧ではないのか?
筆者は、西田にそう水を向けたことがあった。
「使命というより......選手としてはプレーするしかないです。まずは、チームが勝てる状況を作る。それが自分のなかでは一番。それをできるかできないか、で注目度も変わってくる。自分たちが勝って、そのあとにどう人がついてきてくれるか」
44試合の長丁場、エースとしてチームをレギュラーシーズン1位に導いた点は、あらためて評価されるべきだろう。
絶対的な攻撃力が求められるオポジットとして、西田は野生動物のような荒々しさを持ち合わせる。ワイルドで迫力のある跳躍から、全身をゴムのように伸ばし、ボールを噛み砕くように打ち込む。猛々しい姿は単純にアスリートとして華やかで颯爽とし、どよめきを誘った。女性ファンだけでなく、男性ファンの人気も集めた。とりわけ、スパイクサーブは豪快そのものだった。
『Sportiva バレーボール特集号 Vol.3』(5月29日発売)で、髙橋藍にインタビューしているが、そこで髙橋はライバルの存在が不可欠であると話し、西田についてこう証言していた。
「西田選手の存在は刺激になります。迫力のあるバレーボールが一番魅力ですよね。あれだけパワフルなスパイクはなかなか打てない。ジャンプサーブや豪快なスパイクは、自分にもできないもので。迫力でお客さんを惹きつける魅力がある選手ですね」
コートに立った西田は、無垢なバレーボール少年のような顔を見せる。味方や敵とはフランクに付き合い、闘争心旺盛だが、とげとげしさはない。いいバレーがしたい、バレーをうまくなりたい、という一心だ。
【ライバルたちからの賛辞】
天真爛漫な性格は、周りにもエネルギーを与える。
「Enthusiasm」
ブルテオンのロラン・ティリ監督は西田について「熱意、やる気」という言葉で端的に表わしていた。
「西田は常に100%で、試合ですべてを出し尽くすことができます。たまにやりすぎるほどですが(笑)。いつもポジティブで、チームにとって重要な選手です」
西田がコートに立つだけで、チームが活気を得て、力が湧き立つような気配が漂う。それは異能だ。
パリ五輪、日本代表で西田と同じオポジットを争った宮浦健人は、昨年9月に行なったインタビューでこう語っていた。
「同じポジションは比較されますし、競争していかないと、とは思っています。でも、代表は試合が始まったら、チームが勝つか負けるか。僕はどういう立場でも、勝つためだけに最善を尽くします。同じポジションで出られる枠はひとつですが、今回のオリンピックは西田選手が本当によかったですし、僕はまだ力不足を感じました。西田選手は自分よりも身長が低く、世界のオポジットでもかなり低いほうで刺激になるし、学べることはたくさんあります。ただ、競争もしたいですね」
西田は、「切磋琢磨したくなる」好敵手なのだろう。取材エリアでの彼は、報道陣に対して論理的に話そうと努める姿が印象的だが、コートでは境界線を作らない。
SVリーグ、チャンピオンシップ準決勝で戦ったジェイテクトSTINGS愛知のトリー・デファルコも、ポジティブな印象を語っていた。
「(コートでも言葉を交わしていたが)西田は人柄がいい選手で、コートでもフレンドリーな会話ができます。お互い、点数を取られたあとに怒るよりも笑い飛ばすほうで。1対1の対決で止めることができるか、というギリギリの戦いが楽しみでもあります」
西田自身にとって、今シーズンが最高だったかどうかは、わからない。レギュラーシーズンで1位を勝ち取りながら、チャンピオンシップでは準決勝で敗退。たった2試合で、初代王者の座は逃した。
「チームを勝たせる気持ちを持ちながら戦いましたが、勝利に届かずに悔しさが残るシーズンになりました」
決勝への道を断たれた直後、彼は沈んだ声で言っていた。SNSで運営面の改善を提言するなど、忸怩たる思いもあっただろう。
しかし、西田がSVリーグを盛り上げ、バレーを広めた貢献は間違いない。プレーのひとつひとつが、掛け値なしに魅力的だった。第1回アジアチャンピオンズリーグでは、決勝でカタールのアル・ラーヤンに敗れるも、世界クラブ選手権への出場切符を獲得した。
「2030年までに世界最高峰リーグを目指す」
来シーズンもそんなSVリーグの目標を現実に近づけるため、彼はバレーの面白さを全身で体現することになるだろう。