身長182センチ、体重90キロ。右打席に入っても、三塁キャンバスに立っても、そのたくましい体躯は目を引く。
仙台育英の須江航監督は「今までの教え子のなかでも飛距離は一番」と明かし、猿橋善宏部長は「仙台市民球場で150メートル級のとんでもないホームランを打ったこともあります」と証言する。スイングスピードはチームトップの157キロを計測した。
【ケガをしない丈夫な体と人間性】
右投右打の強打の内野手は、プロ側の需要も高い。それだけに、高田の注目度はもっと高まってもいいように思える。その一方で、高田にはクリアすべき明確な課題がある。須江監督はもどかしそうな口調でこう語った。
「彼はタイミングの取り方に難があって、本来ならとらえてほしいボールが少しズレてファウルになってしまうことが多いんです。決定力という点で課題があるのは確かです」
昨秋以降、高田が主に任されている打順は6番で、昨秋に守ったのは一塁だった(今春は三塁)。中軸ではなく、守備に難がある選手となると、必然的にスカウト陣の見方もトーンダウンする。だが、須江監督は高田の類まれなポテンシャルについて力説する。
「冬に三塁を練習したら、こちらが思っている以上に上達したんです。最初は『就活』のための三塁転向でしたが、今ではちゃんと戦力として見込めます。
シートノックや打撃練習での高田のパフォーマンスを見て、須江監督の言葉にうなずくしかなかった。攻守とも精度は今ひとつながら、ハマった時のプレーは超高校級。好意的に解釈すれば、「鍛えがいがある選手」だろう。
練習を終えた高田に、話を聞くことにした。「庵冬」という特徴的な名前の由来を聞くと、高田は穏やかな口調でこう教えてくれた。
「両親が『庵(いおり)のように人が集まって人間になってほしい』と『庵』の字を使ったと聞きました。『冬』は、自分が冬生まれなので」
庵とは、質素なつくりの小屋のこと。人が集まる場所として「庵」の字を選択したところに、両親の慎ましさが感じ取れる。高田は「両親からは絶対に謙虚に生きなさいと言われてきました」と明かす。
【横浜高のエースとは元チームメイト】
全国的な知名度こそないものの、高田の歩んできた道は「エリートコース」と言っていい。
小学生時代は滋賀県の強豪・多賀少年野球クラブに所属し、小学5年時から主力として全国大会2連覇を達成。
関西選抜の仲間だった中岡有飛(ありあす)から「一緒に仙台育英に行こう」と誘われ、東北の地へと進んでいる。入学直後の春の公式戦では、いきなり4番打者に抜擢されたこともあった。
だが、高田は「勘違いしないようにしよう」と肝に銘じていたという。
「周りのレベルが高いことはわかっていたので。両親からは『テングにならずにやっていけば、絶対に結果は出るから』と言われていました。自分も性格的に人のことを見下すことはしたくないので、謙虚にいようと考えていました」
高田の言動には、関西人特有のアクの強さがまるで感じられない。そんな印象を伝えると、高田は「よく言われます」と笑った。自分の性格を自己分析してもらうと、「マイペース」と返ってきた。
そして、高田は渋い表情でこう続けた。
「でも、自分のそういうところは好きじゃないんです。
もっと練習したいという気持ちになりたい──。そんな言葉を聞いたのは、初めてのような気がする。いくら指導者から取り組む姿勢を認められても、高田本人にとってはまだ納得できる次元ではないようだ。
冬場は硬かった股関節の柔軟性を改善するため、地道にストレッチに励んだ。内野ノックを徹底的に受け、三塁守備に手応えを得た。だが、打撃面では自分の理想像には遠く及ばない状況が続いている。
「理想としているのは、『ここぞの場面で打つ、頼れる4番』です。でも、自分には確実性がなくて。実力をつけて、上位を任されるバッターになっていきたいです」
【足を上げて打てる打者になりたい】
今年の仙台育英には、ハイレベルな強打者がひしめいている。U−18日本代表候補に選ばれた強肩強打の捕手・川尻結大(ゆいと)や、広角に強烈な打球を弾き返す左打者の佐々木義恭、今春にかけて急成長した和賀颯真、田山纏(まとい/2年)も力強い打球を放っている。
現段階では左腕の吉川陽大(あきひろ)とともに、プロ志望届を提出する意向を示している。確実性を向上するため、「タイミングの取り方が毎回バラバラにならないように」と練習に取り組んでいる。
高田の打撃は、左足を上げてボールを呼び込む。タイミングをとるのが苦手な打者の多くは、ノーステップ打法など動作の小さな打ち方に変えようと考えるのではないか。そう尋ねると、高田はうなずきながらこう答えた。
「昨秋の東北大会はノーステップで臨んで、ホームランを打てました。このままでいいかな......と思ったんですけど、自分はそこで収まりたくない。目指している岡本和真さん(巨人)や鈴木誠也さん(カブス)みたいに、足を上げて打てる打者になりたいなと。苦手なことから逃げるんじゃなくて、成長していきたいんです」
その言葉に、高田の芯の強さが滲んでいた。
屈強な肉体や豪快なプレースタイルとは裏腹に、取り組む姿勢は謙虚にコツコツ。寓話『アリとキリギリス』でいえば、間違いなくアリタイプだ。
高田庵冬が地道に取り組んだ末に、どんな世界が拓けるのか。ロマンの詰まった未完のスラッガーは、多くの人間を集める可能性を秘めている。