スペインの太陽は、燦々(さんさん)と強く降り注ぐ。今週末のバルセロナは連日気温30度超えで、それ以上に強い陽射しが暑さを強調する。

 イモラから始まったヨーロッパラウンドの3連戦も、このバルセロナで終わりを迎える。

 4月の鈴鹿で急遽レッドブル昇格が決まってから、慌ただしくここまで来た角田裕毅の道のりは、決して平坦なものではなかった。

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 特にイモラでは予選で大きなクラッシュを喫し、モナコでもチームとの齟齬(そご)でQ2敗退を喫し、決勝も棒に振ってしまった。いずれも予選で空回りをして、目立った結果が残せていない。

「あと100分の何秒、1000分の何秒というところの勝負で、トラックエボリューションの影響さえも生かしたいくらいの(究極の勝負の)場合には、マシンをナチュラルに感じ取ってドライビングできるレベルまでいく必要があります。

 レーシングブルズで走っている時は、4年も走ってきてどんな状況でもだいたいクルマの100%を出しきれてきたと思います。でもレッドブルのクルマでは、僕的にはそのレベルに全然達していないです。全然クルマのことが理解できていないというか、自分自身が何も考えなくてもナチュラルに、自然と100%出しきれるようなレベルに達していません」

 それはとにかく経験を積み、身体が覚えていくことでしか身につかないと、角田は繰り返し述べてきた。

 だからこそ、イモラやモナコのように予選のQ3に到達する前に終わってしまうことは手痛い機会損失にもなる。

 特にイモラでは大きなクラッシュを演じてしまっただけに、マックス・フェルスタッペンという強敵とのあまりの差を見せつけられたが、それで自信を失ったりはしていないと角田は言う。

「あのイモラでのクラッシュで、自分がこのマシンのことをどのくらい理解できていないのか、あらためて思い知らされました。そこがどれだけ重要か、少し甘く見ていたのかなと思います。

 だから、あのクラッシュによって自信を失うとかそういうことはなくて、僕はまだまだ徐々に理解を深めていっている段階です。いずれはそういうところまで到達できるだろうと思っています」

【長くもあり、短くもあり...】

 バルセロナは中低速、中高速、高速コーナーとストレートがあり、典型的なグランプリサーキットだ。

 そしてレッドブルが3連勝中という得意のサーキットでもあり、角田にとってもマシン習熟の絶好の機会だと言える。

「正直に言って、モナコで予選まではかなりよかったんです。赤旗が出たり(その後のランプランの問題など)いろいろあってうまくいきませんでしたけど、予選でうまくアタックが決められていればもう少しよくなっていたはずです。

 少なくともFP2やFP3ではマックス(・フェルスタッペン)とかなり近いところにいましたし、ペースは今までで一番よかったので、着実に成長はできていると思います。バルセロナはマックスが3連勝しているので、それはいいことですね。そうは言っても僕はマックスではないので、自分自身のやるべきことに集中していかなければいけないと思っています」

 このスペインGPでF1通算96戦目を数え、角田は片山右京を抜いて日本人歴代1位のF1参戦数を記録することになる。

 5シーズン目に突入し、もはや若手ドライバーではなく、中堅ドライバーからトップドライバーへと飛躍しなければならない時期に差しかかっている。

 日本人ドライバー歴代トップという立場になることについて、角田はまったく意識はしていなかったという。

「まったく考えてなかったですね......考えたこともなかったし。長くもあり、短くもあり、最終的には短く感じますけど、そう感じるということは長く感じた時期もあったはずだし、それだけ壁にぶつかっていろんなことに苦戦して乗り越え、充実したレースキャリアを送ってこられたということだと思いますし。

それはいいことなのかなと思います」

 そして今も現在進行形で壁に直面し、それをなんとか乗り越えようと懸命に努力している。

 そのなかで失敗もあれば、やがて成功を収める時もやってくる。

「本当に今のことしか考えてないですね。今週末のバルセロナでどれだけパフォーマンスを引き出して高い順位で終え、レッドブルで自分の力を最大限に出しきることしか考えていません」

 96戦というのは、あくまで「過去」のことでしかない。角田が見ているのは「今」であり、切り拓こうとしているのは「未来」だ。

 今週末のバルセロナで、新たな未来を切り拓き、どんなに小さくてもいいから前に進んでほしい。

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