西武・山田陽翔インタビュー(後編)

 中学3年時には球速142キロを記録。近江高校(滋賀)時代には"甲子園のスター"として注目を集めた山田陽翔(はると)は、現在プロ3年目。

西武でプレーする山田は、学生時代の自分を「早熟だった」と振り返る。

 プロ入り後もストレートの球速は大きく変わらず、平均は140キロ台前半。それでも、百戦錬磨の打者たちを相手に堂々と立ち向かい、今季4月の一軍デビューから15試合連続無失点。オールスターまでの27試合で防御率0.33という驚異的な安定感を見せている。

 なぜ、プロでは「速くない部類」に入るストレートで、これほどまでに抑え込めるのか──。

身長175センチ、球速140キロ台でも打たれない 西武・山田...の画像はこちら >>

【打者にとって厄介な投手のわけ】

 その理由をひも解いていくと、独特の投球スタイルにたどり着く。

「高校時代から、変化球を投げるのが好きでした。もちろん、ストレートの球速も上げたいという気持ちはありましたけど、変化球の曲がり具合や投げる感覚が楽しくて。空振りを取るなら、ストレートよりも変化球で取るほうが気持ちいいんです。ストレートの球速がなかなか上がらないなら、それでも勝負できる手段を自分なりに見つけてやってきました」

「自分は変化球投手」と、山田はうれしそうに語った。上記の話をする間、自身の左拳をボールに見立て、さまざまな球種の握りをおそらく無意識で行なっている。用意してきた硬式球を渡すと、ニッコリと受け取った。

「シュート、ツーシーム、フォークって、どんどん指を広げていっているんですよ。

この幅を縮めるほど球速が速くなりますし。そういう違いですね」

 以上の3球種は、山田にとって同系統の変化球だ。シーム(縫い目)の使い方は基本的に同じで、腕の振りも変えない。そうしてピッチトンネルも駆使しながら、打者を幻惑しているのだ。

 なかでも宝刀と言えるのがフォークだ。人差し指と中指を大きく広げて異なるシームにかけ、間から抜くようなイメージで投げていく。オーバースローの高いリリースポイントから放たれるウイニングショットは、千賀滉大(メッツ)の"お化けフォーク"を彷彿させるような落差だ。

「抜く時に指の奥のほうが引っかかってくれて、(指の)間からスッと抜けるんです。そうすると縦回転、いわゆるドロップスピンがかかって、ボールが落ちていく。それにけっこうスライダーっぽい回転もするんですよ。腕の振りに沿った軌道で、そのままスッといく感じですね」

 スライダー回転するのは、フォークだけではない。山田のストレートも"真っスラ"している。

リリースの仕方により、スライダーと同じようなジャイロ回転(※)がかかるのだ。

※ボールの進行方向と回転軸が一致している回転のこと

「ちょっと真っスラ気味のジャイロ回転のストレートです。自分としては真っすぐを投げているつもりなんですけど......まあ "汚い真っすぐ"ですね。ジャイロ回転なので、人差し指か中指のどちらか一方でボールを切るように投げられる時もあれば、うまく切れずに投げてしまうこともあるんです」

 ここまで本人の解説を聞けば、山田の特殊性がわかるだろう。平均から外れることで、打者にとって厄介な投手になっているのだ。NPBの対戦相手はトラックマンやホークアイの分析で把握しているだろうが、MLBのデータ分析サイト「Baseball Savant」のように詳細なデータがファンにも公開されれば、山田のすごさはもっと知れ渡るはずだ。

【覚醒のきっかけは平良海馬との自主トレ】

 野心的なのは、今でも「きれいな真っすぐを投げたい」ということだ。いわゆる回転効率が100%に近い、スピンの効いたフォーシームだ。

「投げられるなら、投げたいですね。ピッチデザインでしっかり回転効率をよくしていこうとやったら、たぶんよくなると思います。でも今の真っすぐも特徴的で有効に使えるので、今すぐっていうのはあまり考えてはないですけど......投げ分けられるなら面白いかなと思いますね」

 右手でボールを握りながら、山田は自身の投球イメージを明かした。決め球のフォークは、縦に40~45センチも変化する。そこに回転効率の高いストレートが加われば、ふたつの球種で縦のゾーンをより効果的に使えるようになる。

「そうなれば、バッターは大変ですよね」と、進化のイメージを明確に描いている。

 ピッチデザインと言われる上記の発想を山田が持つようになってから、まだそれほど時間は経っていないという。

「数値を気にしてやるようになったのは、去年の終わりくらいです。あとは平良(海馬)さんの自主トレでスロー映像を見て、スイーパーならどういう切り方をしているとか、カットボールなら押し出すイメージとか。トップレベルの選手、結果を出している選手が気にしているので、やっぱり気にしたほうがいいのかなと思いました。その話にすごく説得力があったので。自主トレでかなり変わりましたね」

 その数カ月後、入団3年目でブレイクを果たす。最初のきっかけは、昨季中盤に現在の投球フォームへと切り替えたことだった。

 ちょうどその頃、先発から中継ぎへの転向も経験した。試合をつくる役割から、1イニングを無失点で抑える仕事へ。配置転換が大きな転機となったのは間違いないが、本人はそれを"外的な変化"として捉えている。

「それで何が変わったんですかね? よくわからないです。

ちょうどフォームを変えたのが、中継ぎになるタイミングだったんですよ。(たまたま一致しているのは)本当に運がいいなと思いますね」

 今季の飛躍は、投球フォームの変更、配置転換、そして平良から学んだ発想などが重なった結果、自身でつかみ取った成長と言える。

【今後投げてみたい変化球は?】

 オールスターまでの今季27試合に登板し、自責点&黒星を喫したのはわずか一度。その時の反省を、以降の好投につなげている。

 5月31日、ほっともっとフィールド神戸で行なわれたオリックス戦の延長11回。山田はこの回からマウンドに上がり、わずか4球で2アウトを奪ったあと、つづく野口智哉への2球目のツーシームをレフトスタンドに運ばれ、サヨナラ負けを喫した。

「2アウトを取っていたので、ヒットはOKくらいの気持ちで、どんどん(ストライク)ゾーンに投げ込んでいました。あそこからボール、ボールと外してしまうのもよくないと思っていましたし、攻撃につなげるためにもリズムよく終えたかったんです。イケイケだっただけに、それを押し返されたという感じですね。あの場面のことは、今でも2アウトを取った時に思い出します。『ここでしっかり集中して抑えよう』と、自分に言い聞かせるようになりました」

 その後は同じ轍を踏まず、再び鉄壁のリリーフを続けている。経験をすぐ財産に変えられるのは、非凡な才能のひとつと言えるだろう。

 プロ入り3年目、表情にまだあどけなさの残る21歳。今後はどこを見据えているのか。将来的には先発を務めたいのか、中継ぎが向いているのだろうか。

「どうなんですかね。投げろと言われたところで投げることが仕事なんで、特にないですね。求められたところでやりたいです」

 職人気質で、首脳陣に求められる職場で力を発揮したいという考え方だ。一方で、ボールの精度は「まだまだ磨いていきたい」と語る。

「まずはストレートをしっかり150キロ出せるようにしたいです。球種については、どの球でも意図して投げられるようにしていきたい。そして、調子の波に左右されずに力を発揮できるように、感覚的な部分も自分でしっかり理解しながら取り組んでいきたいですね」

 投げたい変化球を聞くと、目を輝かせた。

「チェンジアップを投げてみたいのと、あともう1個。自分はシンカー系の球種にツーシームがあるので、スプリットであったり、曲がりの大きいスイーパーも投げてみたいですね。

でも縦投げなので、どうしてもジャイロになってしまうんですけど。でも、まだまだあります(笑)」

 山田の特徴は、アームアングルの高さだ。自分の身体を最大限に使おうと、オーバースローを磨き上げてきた。

「身長が低いぶん、大きく投げようと思ってきました。リリース(の位置)は185センチくらいあるので、けっこう高いと思うんですよね」

 この投げ方がフォークの落差を生み、ストレートやツーシーム、シュート、カーブも生かしている。そうした現在の特徴を踏まえたうえで、今後どんなアップデートを遂げていくのだろうか。

 優れた感性と旺盛な好奇心をあわせ持ち、モダンな発想を取り入れながら、自らの武器を磨き続けている。その覚醒にスイッチが入ったのは、今季の開幕を控えた自主トレ期間だった。それ以降、彼は瞬く間に成功の階段を駆け上がり、いまやNPB全体のリリーバーのなかでも傑出した安定感を発揮している。

 高卒で入団して3年目。甲子園のスターは、プロの世界でシンデレラストーリーを描き始めたばかりだ。


山田陽翔(やまだ・はると)/2004年5月9日生まれ、滋賀県出身。近江高校では投打でチームを牽引し、甲子園に3度出場。2年夏ベスト4、3年春の選抜で準優勝、夏はベスト4に進出するなど、歴代5位の甲子園通算11勝を挙げた。22年のドラフトで西武から5位指名を受けて入団。1年目、2年目はファームで過ごしたが、3年目の25年シーズン、初の一軍登板を果たすと、その後もリリーフとして活躍。

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