今夏の京都大会決勝戦。昨年夏の王者・京都国際は鳥羽との息詰まる接戦をサヨナラ勝ちで制し、昨年につづき甲子園出場を決めた。
「あれが西村の成長ですよ」
西村は昨夏の甲子園で、4試合計24イニングを投げ、防御率0.00という圧巻の投球で日本一に大きく貢献した。決勝の関東一戦でも、最後のマウンドを守り抜き試合を締めた。性格はつかみどころがなく、昨夏の甲子園での取材時も、独特の間合いでインタビューに応じていた。
【同じパターンでの敗戦】
新チームになると、西村には「甲子園優勝投手」という看板が常につきまとった。本人は「特に意識はしない」と語っていたが、鋭く落ちるチェンジアップを武器にした投球も相まって、注目度は絶大だった。しかし昨秋の府大会では、3回戦で京都外大西に延長タイブレークの末に2対3で敗戦。全国制覇からわずか1カ月後のことだった。
長い冬を経て、「やれることはやってきた」という自負を胸に臨んだ今春の府大会。しかし、1回戦で龍谷大平安に0ー1で敗れ、夏のシード権も逃してしまった。
昨秋の公式戦後、西村はフォームの再構築に取り組み、冬場は体づくりにも時間をかけた。体幹は強さを増し、4月に行なわれたU−18高校日本代表候補強化合宿でスライダーを習得。ピッチングの幅を広げたはずだった。
小牧監督が振り返る。
「子どもたちには『先輩たちのようにやらなくても、自分たちのよさを出せばいい』と言ってきたんです。ただ、この学年はもともと気持ちをあまり表に出さない子が多く、何を考えているのかわかりにくいところがありました。それ以前に、秋も春も同じような負け方をしています。西村が好投しても打線の援護がない。まったく同じパターンで負けているということは、成長できていない証拠です」
【常にこだわってきた100%】
昨夏の甲子園優勝メンバーのひとりである三塁手の清水詩太は、打線のキーマンであり、今秋のドラフト候補にも名前が挙がる逸材だ。
その清水も日本一達成のあと、苦しんだひとりだ。練習試合では木製バットでフェンス越えを連発するが、公式戦の勝負どころでなかなか一本が出ない。昨年秋の京都外大西戦でも、何度もチャンスで打席が回ってきたが、いずれも凡退した。
以前、清水はこんなことを漏らしていた。
「冬の間はかなり自分を追い込み、『これだけやれば夏こそは』という思いで春を迎え、自信もついたつもりでした。しかし春も、秋と同じような負け方をしてしまい......『何も変わっていない』と痛感しました。
それでも普段の練習では、チームメイト同士で高め合ってきたつもりです。
そのため、常にこだわってきたのが"100%"だ。普段の練習から力を抜かず、全力でやりきる。声を出す、全力疾走、思いきり投げる──。感情を表に出せなくても、態度や声で気持ちをぶつける。内に秘めた思いを少しずつ表せるようになったことで、夏へ向けチームのボルテージも、徐々に高まっていった。
【大きかった京都大会3回戦の勝利】
今夏の府大会3回戦では、春の府大会を制した京都共栄と激突。甲子園出場を狙ううえで、最初の大きなヤマだった。じつは西村は6月末から調子を落としており、1、2回戦は登板なし。京都共栄戦が今夏の初登板となった。
試合は西村が毎回三振を奪うなど快投を続けていたが、打線が京都共栄の変則左腕・小林海翔をなかなか攻略できない。スコアボードには両校ともゼロが並び、試合は延長タイブレークにもつれ込んだ。
「夏もまた、秋と春と同じ展開なのか」
そんなため息すら聞こえてきそうな流れだった。
そして10回表、京都共栄に内野安打と犠飛で2点を奪われ、絶体絶命の窮地に追い詰められた。だがその裏、無死満塁から9番・猪股琉冴の2点タイムリー二塁打で同点とすると、最後は押し出し死球でサヨナラ勝ちをおさめた。
試合後、小牧監督は次のように語った。
「昨年秋、今年春ともつれた試合をものにできなかった。そういう弱さから脱却できなかったチームですが、この夏にかけるというか、全員がひとつになった『さあ戦うぞ!』という気持ちが見えた試合でした」
さらに、こう続けた。
「夏になって、ようやくチームがひとつにまとまってきました。夏は負けたくない、負けるわけにはいかないという気持ちを表せるようになったんです。もともと接戦に弱いチームでしたし、夏が始まった時点でもまだ発展途上でしたが、接戦で勝ちとった1勝は大きかった」
【感情を出せるようになったことも成長】
決勝も同じように、1点を争う展開となった。それでも先発の西村は辛抱強くアウトを重ね、終わってみれば12奪三振の完投勝利を収めた。試合後、西村は春から夏にかけて「ボロボロの状態で投げていた」と明かした。
「夏の大会に向けて、体を追い込んでいたこともありましたが、ストライクが入らず、変化球も曲がらなくて、夏前はそのズレを直すのに精いっぱいでした。いま振り返ると、自分のテクニックが未熟だったと思います。
京都共栄戦では三振は取れましたが(13奪三振)、結果的に振ってくれた球が多く、納得はしていません。この夏は配球を考えながら、キャッチャーがなぜそのサインを出したのかを考えながら投げるようになりました。そのなかで、気持ちを切らすことなく投げられたのは、自分の成長なのかなと思います」
その成長を小牧監督も認めている。
「西村は競った展開になると、気持ちがすぐに切れてしまう子でした。それでもこの夏は、集中して最後まで投げきれた。それに感情を出せるようになったところも、去年までとの大きな違いではないでしょうか」
西村を筆頭に、"粘り負け"が続いていたチームが夏にようやくひとつにまとまった。
「劣勢に弱い学年でしたが、負けたら終わりの戦いで、みんなでひとつずつ壁を乗り越えたのは大きい。戦う覚悟や姿勢を見せられなかった子が多いなかで、この夏はいい部分が見られました」と、小牧監督は目を細める。
夏の甲子園連覇に挑戦できるチームは京都国際だけだ。ノーシードから勝ち上がった本物の強さを引っ提げ、偉業への挑戦がいよいよ始まる。