代表引退の"ラストダンス"が第6回ワールド・ベースボール・クラシックWBC)最終戦で、前回王者・日本に5回途中まで無失点。チェコの先発オンジェイ・サトリアがマウンドを降りて三塁側ベンチへ向かうと、出迎えたチームメイトたちとひとりずつ抱擁を交わしていく。

スタンドからチェコに声援を送る者たちはもちろん、日本代表のファンからも大きな拍手が送られ、東京ドームは野球愛好家がつくり出す幸福感に包まれた。

「最強の侍ジャパンを相手に投げて、今夜の試合は考え得る最高のエンディングだった」

 サトリアはそう喜びを表したが、裏を返せば、侍ジャパンは好投を許したということになる。なぜ、ストレートの球速120キロ台のサトリアを打てなかったのか。

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【球速120キロ台の投手に苦戦した理由】

 それにはふたつの見方ができる。ひとつは、金子誠ヘッドコーチの見解だ。

「やっぱり魔球。横から見ていても、18.44メートルか、20メートルくらいの距離から、あのスピードで投げ込まれると、みんな打てないんじゃないかと思います。ふつうはステップして、だいたい16メートルくらいのところでボールを離すんですが......。彼は身長もそれほど高くない(175センチ)でしょう。それなのに、18メートルくらいの位置から120キロ台の球が落ちずに来るんです。打つのは本当に難しいですよ」

 普段、見慣れないタイプの投手を国際大会で打ちあぐねる。第3戦のオーストラリア戦でも同じ"罠"にはまった。

 もうひとつは、侍ジャパン自身に原因がある。

チェコ戦の試合前会見では、外国人記者から核心をつく質問が井端弘和監督に飛んだ。

── 打線の上位、とくにメジャーリーガーの選手たちはとてもいい働きをしていますが、下位打線は少し打撃が弱いように見えます。それは気になっていますか? マイアミに向かうにあたって、打順の変更などを考えていますか?

「下位から上位に(つながる)というケースは、試合のなかでも多くあったというところでは、ヒットこそそこまで出てないなかでも、きっちりと上位にうまくつないでくれている。そのあたりはいいかなと思います」

 3戦目のオーストラリア戦まで、侍ジャパン打線は1番・大谷翔平ドジャース)から鈴木誠也カブス)&近藤健介(ソフトバンク)をはさんで吉田正尚(レッドソックス)と、MLBトップレベルの打者を中心に据えた。 

 だが、5番以降はアメリカでまだスプリングトレーニングしか経験していない岡本和真(ブルージェイズ)と村上宗隆(ホワイトソックス)、そしてNPB組がつづく。明らかに1番から4番と、5番以降では打者の格が変わるのだ。

 プールCの首位突破を決めて臨んだチェコ戦では大谷と鈴木が欠場、吉田は2打席のみで交代。苦戦の要因には、3人のメジャーリーガーに休養が与えられたこともあった。

【WARで見る各国の本当の戦力差】

 マイアミに舞台を移す準々決勝では、ドミニカ共和国かベネズエラと対戦。準決勝以降ではアメリカやメキシコらメジャーリーガー中心のチームとの激突が予想される。今回、海外ブックメーカーは日本をアメリカ、ドミニカと並ぶ"3強"と見ているが、個人能力を比べるとライバル国に見劣りするのが実情だ。

 それを最も端的に表すのが「WAR(Wins Above Replacement)」である。打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価し、選手の貢献度を示すもので、現代野球で最も重視される指標のひとつとされる。

 大会前、Youtubeチャンネル『SYNCHRONUS(シンクロナス)』の『スポーツツギロン』という討論番組に出演した際、このデータが用意された。データサイト『FanGraphs』が算出する「fWAR」で4.0以上(=スター級の選手)は、今回のWBCに出場するなかで27人いるが、内訳は以下のとおりだ。

アメリカ:13人、ドミニカ:8人、ベネズエラ:2人、日本:2人、メキシコ:1人、イギリス:1人

 一流メジャーリーガーを揃えたアメリカとドミニカが、明らかに他国より抜けているのだ。

 では、侍ジャパンに勝ち目はないのか。前回のWBCで投手コーチを務め、先述の番組で共演した吉井理人氏が日本の強みとして挙げたのが「甲子園」の経験だった。一発勝負には、どこよりも慣れている。負けたら終わりの重圧のなか、多くの試合をこなしてきたことはWBCでも強みになるはずだ、と。

 チェコ戦のあと、井端弘和監督は準々決勝以降で重要な点をこう話した。

「前回大会の準決勝、決勝を見ていると、こちら側も相手側もホームランという得点がほとんどだったので、やはりなかなか連打はできないと。プレミア12も戦ってみて、結局ホームランの点数でやられる。こっちが打てなくて負けたということを経験しています。

 ここからは相手もどんどんいいピッチャーで来ると思いますし、強いですし、長打が当然カギを握ってくる。

ピッチャーはそこを恐れず、どんどん自分のピッチングで攻めていってほしい。バッターは甘いボールが来たら、スイングすることが非常に大事になってくると思います」

 短期決戦では、長打がキーになる。その意味で、チェコ戦ではプラスの材料があった。前日まで10打数2安打だった村上に、初の長打となる大会1号が飛び出したのだ。試合後、井端監督はこう話した。

「1本いいのを打ってほしいなと思っていたので、いいきっかけにしてもらえればいいと思います。向こう(アメリカ)に行ってから時間はありますので、少しでも状態を上げていってほしいと思います」

 岡本も第2打席でレフトフェンス直撃の二塁打。ふたりの状態が上がれば、打線の破壊力は一気に増す。

【カギを握る下位打線の粘り強さ】

 さらに、チェコ戦では途中出場で4番に入った若月健矢(オリックス)が、8回一死一塁から持ち味を見せた。初球でバントの構えをしたあと、次の球でヒットエンドランを仕掛ける(結果はファウル)。4球目はバントを失敗して2ストライクに追い込まれたものの、そこから3球粘り、9球目は右打ちを意識してライト線に二塁打。相手の中継プレーが乱れる間、佐藤輝明(阪神)が先制のホームを踏んだ。

 準々決勝では山本由伸(ドジャース)の先発が予想され、オリックスで長らくコンビを組んだ若月がマスクを被るはずだ。

バットでも、今大会では7打数3安打、2四球で出塁率.556と結果を残している。

 さらに初戦から3試合続けて8番に入った源田壮亮(西武)は7打数4安打、3四球、1死球で出塁率.727と好調だ。

 ふたりに長打は期待しにくいが、粘り強い打撃で相手の脅威になれる。その意味で、西武の来日2年目右腕トレイ・ウィンゲンターが日本の野球について興味深い話をしていた。

「アメリカの15~20年前の野球を思い出す」と言うのだ。

「NPBの選手たちは、とにかく"得点すること"のためにプレーしている。すべてのプレーが得点のチャンスにつながるように考えられているんだ。走者を進めるためにバントもするし、盗塁もする。守備もとても重視されている。ビッグゲームで得点するのが難しいと、差が出るのは守備でしっかりプレーできるか、四球を抑えられるか、確実にアウトを取れるか、バントで走者を進められるか、犠牲フライで打点を挙げられるか。そういう部分だ」

【侍ジャパンの"ハイブリッド打線"】

 以前、イチロー氏が現在のMLBではデータ野球が重視されすぎていると指摘して話題になったが、ウィンゲンターは投手目線でこう語る。

「アメリカでは、いいか悪いかはわからないけれど、今はホームランや二塁打など高い長打率を重視する傾向が強い。

NPBでもホームランを打つ選手はいるし、それが大事なのは確かだけど、チームの得点につながるなら自分を犠牲にしてでも走者を進めようとする。そういうプレーをしてくるから、投手としては本当にやりにくい」

 いわゆる、スモールベースボールだ。侍ジャパンはメジャーリーガーの大谷と鈴木と吉田、これからMLBで戦う岡本と村上のパワー、そしてNPB組の粘り強さというハイブリッド打線をいかに機能させられるか。

 日本で捕手と遊撃手は、とくに守備力を求められるポジションだ。他国の捕手を見ると、アメリカのカル・ローリー(マリナーズ)とウィル・スミス(ドジャース)、ドミニカのオースティン・ウェルズ(ヤンキース)、ベネズエラのサルバドール・ペレス(ロイヤルズ)、メキシコのアレハンドロ・カーク(ブルージェイズ)はいずれも高い打力を備え、若月は到底及ばない。ショートの源田を他国と比べても同様だ。

 だが、一発勝負の短期決戦なら戦う術はある。個人能力で劣るチームが勝利できることは、日本人なら甲子園を通じてよくわかっている。なにより心強いのは、侍ジャパンには強力投手陣が控えていることだ。

 ここからの焦点は、前回大会よりはるかにレベルアップした相手に、日本のよさをどこまで発揮できるか。連覇をかけた本当の勝負は、日本時間3月15日の準々決勝から始まる。

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