東京ヴェルディ・アカデミーの実態
~プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第51回)

Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。同連載では、その育成の秘密に迫っていく――。

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 東京ヴェルディのアカデミーが、これだけ継続的にプロで通用する選手を輩出している理由を探るなかで、ヘッドオブコーチングの中村忠、昨季までユースチームを率いていた小笠原資暁(現トップチームコーチ)が口をそろえて話していたのは、「育成に虎の巻はない」ということだ。

 そこに決まった選手育成マニュアルがあるわけではなく、練習メニューひとつをとっても、その時々の監督やコーチに委ねられる。「もちろん、虎の巻があるなら、いくら出してでも買いますけど」とは、かつてヴェルディのアカデミーで長年選手を指導してきた、冨樫剛一(現横浜F・マリノスユース監督)の弁である。

 だが、冨樫の言葉を借りれば、「でも、虎の巻がないのが、虎の巻だと思うんです」。

 また、同じくヴェルディのアカデミーで豊富な指導経験を持つ、菊原志郎(現FC今治U-12監督)によれば、「いい選手がボール持っていない時に何をしているか、どこを見ているのかを見ろ、と。それは(コーチである)自分でも見せるし、2、3歳上のいい選手を見ろって言うこともあるし。物としてはないけど、それが僕らの教科書です」。

 実のところ、ヴェルディの育成方針や育成哲学といったものは、かなりフワッとしたものなのかもしれない。だが、長年の伝統によって培われた"ヴェルディらしさ"という共通認識があることによって、選手の育成にブレが生じない。そんな印象を受ける。

「要は、大切にしている目的が一緒なんですよね」

 そう語るのは、菊原である。

「判断をよくするために、どういうトレーニングをするかとなった時、たとえば、ゲームのなかで何か条件をつけたりしますけど、目的はこういう選手を育てたい、選手にこういう力をつけさせたいっていうのが、はっきりしているんです」

 その目的とは、菊原いわく「ヴェルディらしい子を育てるため」。

「そのために、コーチが工夫してやっている」と、菊原は言う。

「(練習メニューは)コーチに任されてはいるんだけど、ヴェルディのコーチたちは、小学生の練習が終わったら、その後は中学生や高校生と一緒にプレーしてっていう感じで、もうずっとグラウンドにいて、(自分の担当以外の)他のカテゴリーの練習も見て、すごくディスカッションしている。

 Jクラブのなかには、担当のコーチがふたりくらいいるだけで、他のカテゴリーにはあまり口を出さないとか、余計なことはしないみたいな感じもあるんですけど、ヴェルディはそうじゃなくて、常にコーチがいっぱいいて、誰にでもアドバイスする。子どもに伝えるべきことの共通認識がみんなにあるので、『このコーチ、ちょっと違うこと言うんだよね』みたいなことがありませんからね。

 それはやっぱり、ふだんからコーチ同士でよくしゃべるから。選手とコーチもよくしゃべるから。常にオープンな場所でみんながしゃべり合っているから、基準がはっきりして、みんなが同じ基準になってくるんです」

 ヴェルディのコーチ陣はサッカーについてよく話すとは、小笠原も語っていたこのクラブならではの特徴だ。小笠原によれば、「他のクラブから入ってきたコーチに驚かれる」というほどである。

 菊原が続ける。

「ディスカッションって言うと、ちょっと言葉が硬いんですけど、なにしろみんなおしゃべりで、サッカーの話が好き。子どもたちのゲームを見ながら、『あの時は、こうだよね』とかって、コーチ同士での会話が非常に多いので、お互いの考えていることが全部わかる。それで共通認識が増えていく、サッカーへの理解が高まっていくっていうのが(ヴェルディの)文化なのかな」

 菊原の表現を拝借すれば、「みんなでみんなを育てる」。

それがヴェルディの育成方針だ。「僕もクラブを離れて、時間が経ちますけど、今もそれは変わっていないんじゃないかな。だから、ブレがない。子どもたちが迷うことがない。頭のなかが整理されて、サッカーIQが高くなっていくんだと思います」

 もちろん、おしゃべりなのは大人たちだけではない。「子どもたちもサッカーの話をたくさんするので、子どもなのに、すごく論理的にしゃべる子が多い」とは菊原。ヴェルディのアカデミー出身の選手たちを思い浮かべると、なるほど納得である。

(文中敬称略/つづく)「白いTシャツを着てサッカーやっていても、ヴェルディってわかるようじゃなきゃダメ」>>

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