壁のようにそびえ立つオールージュの急斜面が、まさしく今週末の第10戦ベルギーGPではドライバーたちの行く手を阻む難所になる。

 ターン1のラ・スルス(「水源」の意)から斜面を下り、下りきった先に流れる赤褐色の小川がオールージュ(「赤い水」の意)。

その先にそびえる山の斜面(急勾配区間)はラディオンと呼ばれ、ドライバーたちはその先のケメルストレートの終わりまでおよそ20秒間、スロットルペダルを全開で踏み続ける。

 しかし今年は、そうはならないだろう。

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 長いストレートではバッテリー残量が尽き、途中からはICE(内燃機関)だけで走らなければならなくなる。セクター3の長い全開区間も同様だ。

 時速200kmオーバーの高速コーナーが連続するセクター2も、やはりこれまでのような1000馬力のマシンと格闘する場面は減り、なおかつダウンフォースも減っているため、コーナリングスピードは下がる。

 同じような特性のシルバーストンをさらに極端にしたようなスパ・フランコルシャンだけに、シルバーストンで苦戦を強いられたアストンマーティン・ホンダにとっては、もしかすると今シーズン最も厳しいレース週末になるのではないかという見方もある。

 シルバーストンではコーナリング中にステアリングをフルロックまで切り、「このマシンは空力的に破綻している」とまで言ったランス・ストロールは、スパでも厳しい戦いが待っているだろうと見ている。

「ブレーキングや中低速コーナーでは入口で挙動が不安定になり、高速コーナーではフロントウイングやフロア前部の空力がストール(喪失)し、フロントが逃げていく。僕たちがマシンのなかで感じていることを理解する手助けになればと思って、ファクトリーの空力エンジニアたちにああいうこと(上記の発言)を言った。データだけではわからないこともあるからね」

【アドレナリンが湧き起こらない】

 パワーユニットのパフォーマンス不足はあるにせよ、1周あたり7.0MJのリチャージしか許されていないかぎり、エネルギーが足りないのはどのパワーユニットメーカーにも共通していることだ。

 だが、アストンマーティンの場合はセクター2の高速コーナーでの不利も、のしかかってくる。

「シルバーストンがそうだったように、スパのセクター2も似ていて、本来はF1マシンがF1マシンらしく走るセクションだけど、今の世代のマシンではそういう感覚は味わえないんだろうね。

 シルバーストンのマゴッツ~ベケッツ~チャペル、コプス、鈴鹿のセクター1といったセクションでは、ヘルメットのなかで『なんてスピードで駆け抜けているんだ!』という気持ちになるものだけど、今年のマシンではあの頃のようなアドレナリンが湧き起こっては来ない。

おそらくスパのセクター2も似たような状態になるだろう」(ストロール)

 足りないエネルギーをどこでどのように使い、そしてどのようにエネルギーをリチャージするのが最適なのか。理論上のラップタイムは最速でも、ドライバーがさらに攻めていくうえで、それが最適なのか。実際に走ってみて、エネルギーマネジメントをアジャストしていくことが、なによりも重要となる。

「ストレートがものすごく長いので、そのすべてにディプロイメント(電気エネルギーの放出・供給)を効かせることはできません。ラップタイム感度で言えば、通常はストレート前半にドンとディプロイメントを集中させて車速を上げて、あとはICEだけで走ることになります。

 しかし、それだとストレート後半で大きく失速しすぎてしまうことにもなりますので、後半でもう一度ディプロイメントが必要なのか、通常と少し違うバリエーションもいろいろあります。シミュレーションとシミュレーターでベストだと思われるものや、そのほかにもいくつか選択肢を用意していますので、そのなかからベストを探すべくフリー走行で試していくことになります」(ホンダ折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア)

【中団グループ争いまで1.7秒差】

 ただ、アストンマーティン・ホンダのチーム内は、明らかにムードがよくなっている。

 第8戦オーストリアGP以降はエネルギーマネジメントやドライバビリティが着実に改善していること、そして来週の第11戦ハンガリーGPには待望のアップデートパッケージが投入されるという期待感が、チームを後押ししている。

 いきなりポイント争いができるようになるとは、チームも考えていない。中団グループ最上位のレーシングブルズまでは2.5秒。中団グループの争いに加わり、Q2進出を果たすのにさえ、1.7秒差を縮める必要がある。

 重要なのは、単独の圧倒的最下位という今の場所から抜け出し、少なくともライバルと戦える場所まで浮上すること。

 そして何より、それによって2027年に向けた開発の方向性が間違っていない、ということを確認することだ。

「僕らのマシンフィロソフィーは正しくなかったのかもしれないと思うし、僕らもそれを変更しようとしている。そういうさまざまな変更を加えると同時に、重量削減も進めている。

 しかし今、必要なのは具体的な数値よりも、来年に向けてやっていることに自信が持てるかどうかなんだ。開発の方向性が正しいと確認することが重要だ。来週のアップデート投入で、その多くのことがわかるはず」(フェルナンド・アロンソ)

 スパ・フランコルシャンの週末を乗りきれば、来週には車体がアップデートされ、苦しんできたダウンフォース不足とマシンバランスの問題が少なからず改善される。

 そして夏休み明けのオランダGPには、パワーユニットもアップデートされる。

「願わくは、これが僕らにとって最後のつらい週末になるといいね。ハンガリーGPには新しいアップデートが投入されるから、それがどのくらいラップタイムを向上させてくれるかはわからないけど、もっと競争力は上がるだろうからね。

 今は本当にひどい状態だし、何もいいところがない。好きなところも、強みも何もない。とにかく、よくなるしかないんだ。

(これ以上は下がりようがないので)前に進むしかない。それはポジティブなことだよ」(ストロール)

 オールージュの壁は、おそらくライバルたちよりも高く、アストンマーティン・ホンダの前にそびえ立つだろう。

 それでも、その先に希望の光が見えるからこそ、彼らは全開でそこを駆け抜けていく。今は遅くても、1週間後、1カ月後の躍進に向かって、ただひたすらに──。

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