【後半戦も量産体制の予感?】

 村上宗隆が持っているスター性、勝負強さを物語るようなパフォーマンスと言えるだろう。自身のボブルヘッドが入場者1万5000人に配布され、両親が始球式を務めた7月26日(現地時間。以下同)のヒューストン・アストロズ戦。

村上は21、22号と2本の本塁打を放つなど、1試合6打点の大活躍でシカゴ・ホワイトソックスを勝利に導いた。

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「久しぶりに出てすごくうれしかったです。父ちゃん、母ちゃん、やったよー!」

 試合後のグラウンドで、地元シカゴの放送局「CHSN」のインタビューを受けた際の、そんな微笑ましい言葉も話題になった。

 後半戦では1発が出ていなかったが、記念すべき日にその沈黙を破るのが実に村上らしい。自己ワーストだった13試合連続本塁打なしの記録に終止符を打ち、また量産体制に入ることを予感させた。しかし何よりすばらしいのは、なかなか自慢の長打が出ていない間も、村上の実力に対する懐疑の声がほとんど出なかったことだ。

 昨オフ、そして今シーズン開幕直後はそうではなかった。ポスティング後のFAマーケットの反応は決して熱いものではなく、45日間の交渉期間の末に村上がホワイトソックスと結んだ契約は2年総額3400万ドル(約55億7000万円)だった。

 スポーツメディア「The Athletic」が予想していた8年総額1億5850万ドル(約259億7000万円)、データ分析サイト「FanGraphs」が予想した7年総額1億4500万ドル(237億5000万円)といった好条件とは大きくかけ離れていた。高い三振率、速球への対応力不足、守備力への不安などの懸念からマーケットの評価は伸びず、「メジャーで通用する打者なのか」と疑問視する声も少なくなかった。

「周りの意見は周りの意見。やったこともない人たちの意見なので特に気にしないですし、やるのは自分なので。

何を言われようが、しっかり自分のことをコントロールできる範囲でやりたいなと思っているので、なんとも思わないです」

 村上自身はそう語っていたが、日本で三冠王に輝いた実績がありながら、これほど評価が厳しかった選手は珍しい。

【復帰戦での大歓声に「力になりました」】

 しかし――。時は流れ、今では不振の時期があっても、シカゴのファンは村上を信じ、温かく見守っている印象がある。メジャー1年目ながら、すでにフィールド上で実力を十分にアピールしてきたからだ。

 7月28日時点の「Statcast」のデータで、三振率32.4%、空振り率42.8%はいずれもリーグワーストのレベルであり、その点に関しては予想どおり。しかし一方で、ボール球にはほとんど手を出さない。四球率18.1%は、フアン・ソトやニック・カーツと並びメジャー最高水準にある。

 何より、パワーはメジャーで通用してお釣りがきた。今シーズンのここまでの数字を見ても、バレル率、ハードヒット率、打球速度、スイングスピードと、いずれもメジャー屈指のスラッガーたちと肩を並べている。

 開幕から順調に本塁打を放っていた村上にとって、5月29日のデトロイト・タイガース戦で右太もも裏を肉離れして負傷者リスト(IL)入りしたことが最大の試練となった。

 症状の程度は三段階中のグレード2で長期離脱を余儀なくされ、1カ月半近くを休むことになった。ただ、それだけ休んでも愛称"ムーニー"への期待度は変わらず、7月10日の復帰戦では大歓声で迎えられた。村上は実績を残すことで、シカゴで、メジャーリーグで存在を認められたのだ。

「うれしかったです。戻ってきた時に、あのような声援をいただけたのは力になりましたし、これからはケガなくシーズンを通して頑張りたいです」

 村上は感激した様子でそう述べたが、すべて自分で勝ち取ったものなのだから胸を張っていいだろう。

 今やメジャー有数の注目選手となった村上は、オールスターゲームでも引っ張りだこだった。ホームランダービーをはじめ、オールスター本戦の合間には数々のインタビューのリクエストで大忙し。フィラデルフィアで行なわれた"夢の球宴"への出場は1年目のハイライトになりそうだが、今シーズンの村上とホワイトソックスには、さらに大きな舞台が近づいている。

【見えてきたポストシーズン】

 7月28日時点で、ホワイトソックスはア・リーグ中地区の首位。2位のクリーブランド・ガーディアンズに2ゲーム差をつけている。昨シーズンまで3年連続100敗以上と低迷していたチームが大躍進を遂げ、プレーオフ進出も現実味を帯びてきている。

 ホワイトソックスがリーグ最大のサプライズチームになった背景として、村上がその立役者のひとりであることに疑問の余地はない。村上が故障離脱している間も、チームは17勝18敗と健闘。総合力の高さと粘り強さを証明した。

「前半戦を振り返ると、ムーニーが不在の時もいい戦いができたことが大きい。

それは、いろいろな選手がさまざまな打順で貢献してくれたからだ。このチームはひとりだけのチームではないということを学べたし、(村上が)不在の間に大きな貢献をしてくれた選手がたくさんいた」

 知将ウィル・ベナブル監督がそう目を細めた。若手野手の活躍が光り、ミゲル・バルガス(26歳/22本塁打、オールスター初出場)、チェース・マイドロス(25歳/打率チーム3位)、コルソン・モンゴメリー(24歳/チーム1位の24本塁打)、サム・アントナッチ(23歳/主に1番を打ち、チーム2位の14盗塁)、トリスタン・ピーターズ(26歳/7月10日にサイクル安打を達成、オールスター出場)などがチームを支えてきた。

 投手陣は盤石とは言えないものの、8月3日のトレード期限までに何らかの補強があれば面白くなる。今シーズンのア・リーグは貯金5以上のチームが4つだけと、必ずしもハイレベルとは言えない。そんな争いのなかで、"ミラクル・ホワイトソックス"が上位進出を果たしても誰も驚きはしないだろう。

「(ホワイトソックス入団は)最高の選択だったと思っています。僕たちは勝つ集団。これからも勝てるように頑張りたい。そういう集団だというのはスプリングトレーニングから思っていましたし、若い力が集結してやれていることが、今の結果につながっているのかなと思います」

 自信に満ちた表情でそう述べた村上の視線の先に、楽しみな世界が広がっている。多くのゲームを欠場したが、再び本塁打を量産するようになれば、新人王争いでもトップに立つかもしれない。そしてチームとしても、開幕前には誰も予想もできなかったポストシーズン進出という、秋のビッグステージが視界に入ってきている。

 だとすれば、村上のここまでの活躍もプロローグに過ぎないのかもしれない。時が経つにつれ、ホワイトソックスの背番号5にさらに熱い視線を注ぐシカゴのファンは多くなっているはずだ。

杉浦大介●取材・文 text by Daisuke Sugiura

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