ヤクルトファーム 灼熱の戸田物語(前編)

 ヤクルト二軍の戸田球場では、ベテラン、中堅、若手、リハビリ組と、立ち位置の異なる選手たちが一軍の舞台を目指し、それぞれの思いを胸に鍛錬の日々を送っている。

 大ベテラン左腕の石川雅規は「一軍のマウンドに上がるためには、どんなことでもしたい」と今の自分に向き合い、高卒新人左腕の鈴木蓮吾(東海大甲府高/ドラフト5位)と小宮悠瞳(ゆめ/川崎総合科学高/育成1位)は、明日を夢見て腕を振り続けている。

【プロ野球】「0.00001%でも可能性がある限り」 石川雅...の画像はこちら >>

【何を言われようが自分の野球人生】

「いよいよ戸田の夏がきましたね」

 石川は焼けつくような日差しを浴びながら笑った。今年も戸田の夏は灼熱だ。朝7時半には気温が30度を超えるのが当たり前で、午後の試合が始まるころには、35度を超えることも珍しくない。

 そんな過酷な環境のなか、石川は黙々と走り、投げ、汗を流していた。ここまで(8月25日現在、以下同)二軍戦で10試合に登板し、0勝2敗、防御率7.83。

「この時期まで一軍にいないのは長いキャリアのなかで初めてのことで、そこは悔しいですし、開幕から100試合が過ぎても一軍に行けてないのはダサいですよね。でも、それも含めて、今の自分のありのままの姿だと思っています」

 そう胸中を吐露した。

「40歳を過ぎてからは、毎年覚悟を持って今年が最後だという思いですし、先発でやっている以上は中心でいたい。そういう気持ちがなくなれば、引退したほうがいいと思っています。何を言われようが、自分の野球人生ですので」

 プロ25年目の節目のシーズンは、厳しい戦いが続いている。春季キャンプは二軍スタート。キャンプ前半は神宮球場で練習する異例の形となった。

「家からキャンプに通うのは、めちゃめちゃ不思議な感覚でした。

すごく寒かったですし、雪が降った日もありましたね(笑)」

 3月には鹿児島で行なわれた「薩摩おいどんリーグ」で社会人チームとの試合に先発した。マウンドを気にする場面が多く、上半身の違和感を訴えて途中降板した。

「いろいろな環境のなかで結果を出すのがプロなので......。そこでケガをしてしまったという意味では、自分はまだまだプロではないなと思いました。準備もしっかりしたなかでのことだったので本当にショックで、僕にとってはイレギュラーなケガでした。でも、そのことで学びというか、もっとやりようがあったんじゃないかと、すごく感じましたね」

 その後は戸田で調整を続け、実戦復帰は4月22日。雨で登板が流れ、登板間隔が空いてしまうことも多かった。グラウンドの気温が43度に達するなかで投げたこともあった。

「環境はみんな同じですし、そのなかで結果を出す人が一軍に行きます。なので、それを悲観したり、何かのせいにはしたくない。時間は戻ってこないですし、シーズンが終わるまで、もがこうと思っています。課題はたくさんありますね。

年齢を重ねて、自分のボールもいろんな意味で変わっているなかで、どうバッターを抑えていくのか。球速やボールの質うんぬんじゃないところもあるので、緩急だったり、それを探すために必死こいてます。野球って、やっぱり難しいなって(笑)」

 石川は毎朝、7時前には戸田の選手寮に到着し、その日の準備を始める。

「一日は24時間しかないわけですけど、夢中になっている時の時間はあっという間なので、本当に時間が足りないくらいですね」

 マウンドに上がれば、「闘争心に火はずっとついているので」と戦う表情を見せる。一方、練習の合間や練習後には「今日は風があって涼しいですね」と柔らかな笑顔を浮かべる。

「現状、ファームで結果がなかなか出ない。一軍にも行けない。人間なので、もちろん気持ちの起伏はあります。でも野球が大好きなので、しんどいことも乗り越えられる。最後の最後、ユニフォームを脱ぐ瞬間まで、0.00001パーセントでも可能性がある限り、あがき続けることが大事だと思っています。もちろん、先発でという強い思いはありますけど、今の自分の原動力は、一軍のマウンドに立ちたいという思いだけですね」

【25年目の背中を追うふたりの新人左腕】

 今年は石川のほかにも、石山泰稚、小川泰弘、青柳晃洋といった経験豊富な投手たちが、戸田で長い時間を過ごしている。鈴木と小宮にとって、そんな先輩たちの大きな背中は何物にも代えがたい教科書だ。鈴木は言う。

「多くの先輩方と関わらせていただくなかで、自分も成長できていることを実感しています。石川さんのキャッチボールやブルペンを見ると、本当にすごいです。当たり前のことですけど、ボールの質だったり、変化球のキレだったり、自分とは比べものにならないというか......。25年目になられても、まだまだうまくなるぞという貪欲さも見習いたいです」

 小宮も、石川のボールを実際に受けた時の驚きを口にする。

「先輩たちを見ていると、『この力感でその球を投げるんだ』って。やっぱり自分らは、思いきり腕を振って速い球を投げるので。石川さんとは一回、キャッチボールをやらせていただいたんですが、投げる瞬間に急に手が出てきて、腕をフワッと振っているのに、ボールを捕った時に伝わる重さがイメージと違って、『うおっ』となりました。プロの世界で25年やられていると、こういうボールが投げられるのかと思いました」

 ふたりの新人左腕も、ここまで順調に成長を続けている。

 鈴木は身長177センチ、体重70キロの細身の体から、「ストレートのキレと伸びを見てほしいです」と、きれいなフォームで未来を感じさせるボールを投げ込む。ここまで4試合、4イニングに登板。自己最速となる150キロも記録した。

 入団会見の時には「ユニフォームに着られています」と話し、その姿は新中学1年生のように初々しかった。

それが今では、少しずつ様になってきた。

プロ野球選手と名乗るほどの成績が残せてないので、まだユニフォームに負けている感があります。石川さんや木澤(尚文)さんなど、先輩方みたいに着こなせれば、結果もついてくるのかなと思っています」

 一方の小宮は、入団時の身長180センチ、体重70キロから大きく変貌した。

「体重は16キロ増えて、筋量も10キロくらい上がりました。久しぶりに会った人から『誰?』と言われるくらいです。毎日、僕を見ていた親ですら『誰?』って(笑)。それが出力アップにもつながったと思います。最速は149キロで、高校時代から10キロ近く上がりました。今は自分の体にも慣れてきたので、ここからは増やしすぎず、減らしすぎずで頑張りたい」

 ここまで3試合、3イニングに登板し、うれしい初勝利も手にした。

 ふたりはチームでたったふたりの同級生であり、よきライバルでもある。

「支配下と育成の違いはありますけど、二軍は二軍なので、同じ場所にいると思っています。いいライバルというか、小宮も近いうちに支配下になってくると思うので、自分もどんどんうまくなっていきたい。

同じ左腕ではあるんですけど、将来はチームの二枚看板と呼ばれるような活躍ができたらいいなと思っています」(鈴木)

「蓮吾をライバルとして見ていますが、同級生ですし、双子の弟みたいな感じです(笑)。将来は『このふたりのローテなら勝てる』と言ってもらえるようになれたらと。そのためには、来年の夏までに支配下登録になれたらいいと思っています。もちろん、理想どおりにいかないことも多いですが、そこは追い求めたいです」(小宮)

【一軍に上がってチームの力に】

 8月4日、チームは遠征に出て、戸田球場ではホセ・オスナやレアンドロ・セデーニョら残留組が、それぞれの課題と向き合いながら汗を流していた。

 練習を終えた石川は、山田哲人のフリー打撃をしばらく眺めていた。ともに長くチームを支えてきたふたりだが、今季は開幕から戸田で調整する時間が長くなっている。

「哲人も、すごく苦しくて悔しい時間を過ごしていると思います。いろんな状況を含めて、なかなか一軍に上がれない。そのなかで一日一日、前を向いてやっている哲人を見ると、僕自身、まだまだやらなきゃと思います。シーズンも残り少ないですけど、哲人も一軍に上がって、僕も一軍に上がって、チームの力になりたい。その思いは哲人も一緒だと思っています」

 8月25日、神宮球場。石川は一軍合流を果たし、「戸田より暑い」と、試合前練習で汗を流した。

早ければ、明日の巨人戦での登板が見込まれている。

「一軍のマウンドをしっかり噛みしめながら、最終的にはチームの勝ちにつなげられるようなピッチングがしたいですね」

 プロ25年目の石川と、プロ1年目の鈴木、小宮。歩んできた時間も、置かれている立場も違う。それでも、灼熱の戸田で流す汗の先に見ているものは同じだ。

つづく>>

島村誠也●文 text by Seiya Shimamura

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