この記事をまとめると
■スポーツカーのHVに先鞭を付けたのはポルシェ911GT3 Rだった■ハイブリッドのスポーツカーでは、モーターがアシストできる速度に制限があるのが問題だった
■スーパーカーやスポーツカーの電動化は、さらに高い技術力とともに進化していくことになる
モーターを積極的に利用する現代のスポーツカー
HV(ハイブリッド)車といえば、1997年登場の初代トヨタ・プリウスが先鞭をつけ、圧倒的な燃費性能を実現させて一気に世界をリードする技術となった。
ひとことでHVといっても、その仕組みや機構、構造などはさまざまで、近年はマイルドHVやストロングHVなどとネーミングで差別化が図られるようになった。なかにはジェネレーターをモーターとして駆動させベルト駆動でエンジン回転をアシストするような簡単な仕組みのものもあり、HVといっても一様ではい。
しかし、プリウスを初め多くのストロングHV車は高出力のモーターを駆動用に用いていて、ゼロ回転から最大トルクが発揮できるという電動モーターの特性をうまく利用し、コンパクトカーや低燃費が売りの実用車でも発進・加速の力強いトルクピックアップの良さに「走る歓び」を感じ取ったユーザーも多いだろう。

実際、多くのエンジニアも同様に考え、スポーツカーにモーターを搭載しHV化に取り組んでいる例もたくさんある。
スポーツカーのHVに先鞭を付けたのはポルシェ911 GT3 Rではないだろうか。2009年からF1マシンに搭載が義務付けられた「KERS(キネティックエネルギーリカバリーシステム)」をスポーツカーである911 GT3 Rのレースプロトタイプに採用したのだ。助手席の位置にF1で有名なコンストラクターであるウィリアムズ社が開発した装置を搭載していた。ブレーキング時に前輪から回生を行い、装置内の円盤(フライホイール)を高速回転させて運動エネルギーを保存。加速時にはそのエネルギーを放出して最大120kWのパワーアシストを行う。

スポーツカーがサーキットを走る場合、もっとも問題となるのがブレーキングだ。通常ディスクブレーキで熱交換し減速させるが、連続走行ではブレーキがフェードして利きにくくなってしまう。そのため、ブレーキシステムを大型化し、かつクーリング性能を高めておかなければならない。ブレーキディスクが蓄えた熱は大気に放出するしかなく、そこに大きな無駄が生じていると多くのエンジニアは考えていたのだ。
KERSの搭載でブレーキシステムへの負荷が減少し、加速にも活かせるのは物理のエネルギー保存の法則に見事に則っているものだった。
モーターアシストの限界をいかに高め効率化を図れるかが課題
しかし、一般道ではそれほど強力な減速Gを伴わない。そこで乗用車的にはバッテリーを搭載し、電気エネルギーに変換することで現在あるようなHVシステムが一般的になったといえる。
バッテリー蓄電による電気的HVシステムを搭載するスポーツカーとしてはホンダNSXがある。前輪アクスルに左右個別の電動モーターを配置し、減速時は回生し、加速時はパワーアシストする仕組みだ。加速時には4WDとなることで高い駆動力を発揮することができるのだが、問題は前輪モーターがアシストできるのは時速180km以下という速度制限があったことだ。

4WDの安定感で時速180kmまで安心して加速させながら、それを超えた瞬間にトリッキーな後輪2輪駆動になってしまうのは、サーキット走行では大きな問題になる。加えて時速180km以上ではHVシステムがただのお荷物になってしまうわけで、これでは完全とはいえない。電動モーターの高回転化、あるいはリダクションギアを介してV-MAX(最高速度)領域まで4WDとして制御する必要がある。
だからといってバッテリー容量をBEV並みに大型化しては重量が増し運動性能も低下してしまう。バッテリー電力を消費したら内燃機関で発電しながら前輪モーターを駆動する必要に迫られ、そうするとエンジンパワーが制限されてしまう。
クラウン・クロスオーバーはトヨタ独自のe-Fourシステムで、理想的なパワーマネージメントを完成させているが、走りに特化する分、燃費的にはHVのメリットが活かせなくなってしまってもいる。

レーシングマシンレベルで見れば、WEC(世界耐久選手権)を走るLMH(ル・マン・ハイパーカー)クラスのマシンやF1、スーパーフォーミュラなども電動化を図って高いパフォーマンスを成立している。
近くメルセデスAMGはF1マシンのパワートレインを搭載するスーパーカー「AMG ONE」を完成させ、デリバリーを開始するといわれている。

スーパーカー、スポーツカーの電動化は、今後さらに高い技術力とともに進化して登場してくると思われるのだ。