この記事をまとめると
■メルセデス・ベンツEQS SUVに試乗した■EQS SUVでは「BEV=未来のクルマ」という印象がこれでもかと演出されていた
■未来感を演出する輸入BEVにICEの延長のような国産BEVが太刀打ちできるか不安を感じた
巨体の割に小まわりもきくメルセデス・ベンツEQS SUV
メルセデス・ベンツEQS SUVが日本国内デビューしたのは2023年5月29日。このEQS SUVに先日試乗する機会があった。
全長5m、そして全幅2mオーバー。
ただ、運転を始めると、意外なほど小まわりがきくことに驚いた。すると、後輪が3代目ホンダ・プレリュードのテレビCMを思い起こさせるぐらいに逆位相することで小まわり性能を確保していた。

詳細な走りよりも今回は、BEVならではの巧みな演出について触れていきたいと思う。
運転席に座ってまず驚いたのは、筆者の自宅台所にある液晶テレビなみの画面サイズのセンターディスプレイである。さらに、助手席ダッシュボード部分にもディスプレイが装着されている。計器盤はもちろんデジタルとなっているので、ベタな表現で申し訳ないところだが、「BEV=未来のクルマ」という印象がこれでもかと演出されているように感じた。

センターディスプレイには、「PM2.5警告」みたいな表示もあり、フィルターを通して浄化した車内の空気と車外におけるPM2.5の濃度が表示されているのにも注目してしまった。PM2.5の濃度表示があるところや、ボディサイズの大きさをみると、メインマーケットは北米や中国なのは明らかである。
見た目は未来感が強いが基本操作は変わっていない
実際に運転してみると、ヒューマンインターフェースの良さにも驚かされた。
ステアリングを握り、右側にはシフト操作を行う電子レバーがあるが、これはメルセデスベンツのICE(内燃機関)車と共通となっている。

また、筆者の私見にもなるのだが、どうしてもBEVだとエアコンの効きが悪いといった印象を持ってしまうのだが、試乗した日は最高気温35度以上という酷暑だったが、「涼しい」と思えるほど冷房がすぐ効いていた。北米や中国市場を考えれば空調へのこのような配慮も当たり前なのかもしれない。
さらに、音楽を聴いていると、フロントの空調ルーバー上などが淡い紫などで光るだけでなく、音楽に合わせて濃淡などが変わっていた。ドイツメーカーのエンジニアは博士ばかりとも聞くが、博士たちがこのようなアイディアを自ら出したとは思えないので、そこはマーケットからしっかり聞き取りを行っているのだなぁとも感じた。

何が言いたいかというと、BEVなどのNEV(新エネルギー車)への過渡期であるいまならではともいえるが、NEVはいままでのICE車とは異なる乗り物なのだという演出がしっかりできることも、メーカーの腕の見せどころといえると考えている。
EQS SUVは1500万円を超える高級車なので、これから出てくるであろう日系NEVと同じ土俵で比べるとことはできないかもしれないが、メルセデス・ベンツはじめ、海外NEVのように未来感を演出するだけでなく、扱いやすさやICE車と同じような操作性を残すなど、バランスよく採り入れることが、日系メーカー車できるのだろうかと不安になってしまった。

新興勢力ともいえる中国メーカーのNEVでは、先進性ばかり突き進んで、欧米のNEVほどバランスが取れていないとの話も聞くが、そこはフットワークの軽さでどんどんブラッシュアップさせていくはずである。勢いのある中国メーカーなどとの差別化は、やはり長年ICE車で培ってきたノウハウを活用できるかどうかにあるが、ICE車臭さを強く残さないということも大事と考える。
EQS SUVの試乗後、S580に試乗したのだが、インテリアをみると明らかにEQ系とは違うと感じる、リアルワールド感の強いものとなっていた。このような作り分けがいまの日本メーカーでできるのか? ことは単純に動力を電気にすればいいというものではない(海外ブランドのBEVはICE車とは明らかに違う乗り物であることを強調している)。このあたりが現実的すぎる、つまりICE車の延長というイメージの強い日系メーカーのBEVをみると筆者は不安を覚えてしまうのである。