この記事をまとめると
■アウディTTの「TT」という車名はマン島のバイクレース「ツーリスト・トロフィ」に由来する■もともとは「ツーリスト・トロフィ」に出場していたNSUで「TT」の名称は使われていた
■現代でもNSU TTはヨーロッパのワンメイクレースやヒルクライムでその勇姿を拝むことができる
アウディTTの車名の由来はバイクレースにあった
アウディのTTは初代から最終モデルに至るまで、個性的なスタイリングやクワトロシステムを駆使した走りで、終始高い人気を博していたモデル。まったく、生産終了のニュースは残念でたまりません。が、このTTにはご先祖様となる「初代TT」が存在したこと、ご存じだったでしょうか。
TTの名前がマン島のバイクレース「ツーリスト・トロフィ」に由来することも、またご承知のとおり。とはいえ、アウディのスポーツカーなのに、どうしてバイクレース? と思うのもごもっとも。じつは、NSUは、1950年代にはバイクも盛んに生産していただけでなく、このTTレースに何度となく出場&優勝を重ねていたのです。

で、この栄光のヒストリーをクルマに投影したのが1965年にデビューしたNSU プリンツTT(Printz=prince:王子)というわけ。

もちろん、名前だけ高性能バイクからいただいたわけではなく、バイクで培われた空冷アルミブロックエンジンを採用していることが大きな理由といえるでしょう。この空冷エンジンは1085ccの排気量を持ちながら、クランクに5ベアリング(これまたバイクからのリバーステクノロジー)を投入するなど高回転チューンがなされ、55馬力を発生したとされます。
そして、2年後には1200ccへとスープアップが施されたほか、ソレックスダウンドラフトキャブの採用によって65馬力までパワーアップ。0-60mph:12.9秒と当時としてはスポーティなパフォーマンスで、ライバルのアバルトやゴルディーニのルノーと火花散る戦いを繰り広げたのでした。
NSUにもあった高性能版の「TTS」
さらに、現代版でも登場したエボリューションモデル、TTSもNSUブランドで作られていました。こちらは、排気量が1000ccクラスのレースマシンで、996ccながらソレックスのサイドドラフトを用いることで70馬力までチューニングされ、最高速は100mph=160km/hを達成したとされています。

小ぶりな4気筒エンジンはリヤコンパートメントに横置きされ、NSUプリンツが実用車だったことを思い出させてくれます。
また、スクエアで小さなボディながら、タイヤは車体の四隅にレイアウトされる理想的なジオメトリーで、駆動のかかるリヤタイヤは、いまでいう「鬼キャン」セッティングが主流となっていました。現代でも、このNSU TTはヨーロッパ(とくにドイツ)でワンメイクレースが行われており、ヒルクライム(Berg Pokal)にはネガティブキャンバーがかけられたTTの雄姿が見られるかと。

あるいは、サーキットを舞台としたNSU TTトロフィレースで有名な「イエーガーマイスター」は、タミヤからRCカー用ボディも発売されていたので、ご存じの方も少なくないはず。ちなみに、TTトロフィはスロットレースでも人気のマシンなので、ガルフカラーをはじめとした往時のレーサーボディがラインアップしていますので、スロットカー好きはぜチェックを!
さて、NSUプリンツTTは1972年まで生産が続き、上述のとおりレースバージョンから一般的な市販車までさまざまなタイプが生み出されました。その25年後に発表されたアウディTTは、名前こそNSUの活躍に由来するものでしたが、スタイリングはこれまたアウトウニオンのDKWが作ったMONZAという流線形ボディを持ったスポーツカーをオマージュしたとされています。いま見ると「どこらへんが?」って気がしないでもありませんが、2シーターのスリムでコンパクトなプロポーションは、たしかに受け継がれているかと(笑)。

とにかく、4社とか5社が連合してできたアウディは、遺産や伝説には事欠かないブランドといえるでしょう。となると、TTがいなくなったとしても、また新たなレガシーでもってニューモデルが登場すること間違いありません。どんなオマージュが登場するのか、クルマ好きなら目が離せないのではないでしょうか。