この記事をまとめると
■インバウンド需要のための「ライドシェアサービス」解禁についてが話題となっている



■ライドシェアサービス解禁が望まれる背景にはタクシー運転手の人手不足がある



■ライドシェアを行うにしても議論を十分に重ねた上で導入の可否を決めるべきだ



望まれる日本でのライドシェアの解禁

少し前に、菅義偉前首相がライドシェアサービス解禁に向けた、法改正を含めた議論をすると述べたことが話題となった。



ライドシェアとは、わかりやすくいえば「フードデリバリーサービス」における、食品を人間に置き換えたサービスのようなもの。一般ドライバーが自分の愛車で、スマホアプリで配車要請のあった場所へ迎えに行き、希望する目的地まで運ぶというサービス。

クレジットカード決済が大原則であり、行き先はスマホに入力するので、基本的にドライバーとの会話や金銭のやりとりはない。



深刻なタクシー運転手不足で「高齢者の通院の足」にも影響! 解...の画像はこちら >>



アメリカなどの先進国のほか、新興国の多くでもライドシェアサービスが導入されているのだが、日本ではライドシェアサービスは「白タク行為」とみなされ禁止されている。白タクとは、白地に緑字となる一般登録車のナンバープレートの車両が違法にタクシー業務を行うことを差している。



昭和のころにはターミナル駅で終電が到着するタイミングぐらいになると、「●●方面はいないか」と、自家用車登録のクルマの前で声をかける人がいて、その方面へ行きたいという希望者が集まると乗せていくという光景が当たり前であった。反社会的組織が運行していることも多かったようで、さらに事故などトラブルがあったときの補償の問題などもあって禁止行為とされている(そもそもが法律に抵触した行為である)。



いま、都市部、山間部など場所を選ばずにタクシーの供給不足が常態化している。東京隣接県であっても、無線配車要請したら「クルマがいない」と配車拒否されることも珍しくない。東京都内でのタクシーの実車走行率(お客を乗せて走っている割合)は6割ほどとされており、空車のタクシーを街なかで捕まえるのも難しくなってきている。



深刻なタクシー運転手不足で「高齢者の通院の足」にも影響! 解決策の「ライドシェア解禁」に立ち塞がるハードル
夜の都内を走行している複数台のタクシー



報道では、菅前首相は観光地でのインバウンド(訪日外国人旅行者)の移動手段という目線でライドシェア解禁を唱えているようだが、現状では通院のお年寄りをはじめ、ありとあらゆる場所、そしてシチュエーションでタクシー不足が深刻となっている。



その最大の理由が、乗務員不足によって十分にタクシーを稼働できない現状がある。新型コロナウイルス感染拡大がひどかったころ、タクシー需要の低迷から満足に乗務できなくなると、ドライバーを引退して離職する乗務員が大量に発生した。新型コロナ感染拡大もひと息つき、インバウンドをはじめタクシー需要が回帰するなかでも、乗務員が戻ってくることはなく、現状の供給不足が続いている。



深刻なタクシー運転手不足で「高齢者の通院の足」にも影響! 解決策の「ライドシェア解禁」に立ち塞がるハードル
ベテランのタクシー乗務員



年齢が高くても比較的容易に正社員採用してくれるのがタクシー乗務員であり、年金や健康保険の面も考えて、タクシー業界には高齢の人ほど集まりやすくなっている。しかし、3K仕事(キツイ、給料安い、危険)と呼ばれ、タクシー乗務員がいつからか敬遠される仕事となっていった。現状の社会は景気が良いという実感はないものの、どの業種も働き手不足となっているので、なかなかタクシー乗務員になりたいという人もいないのが現実である。



3Kとされるタクシー運転手の成り手がそもそも少なすぎる

その一方で、サラリーマンが副業を持つというのもトレンドとなっている。正業としてのタクシー乗務員に興味がなくとも、空いた時間を利用した副業となるライドシェアではドライバーも集まりやすいかもしれない。



日本でライドシェアが解禁になるとしても、タクシーの派生サービス的存在となるのではないかと考える。カーシェアリングの車両は「わナンバー」となっており、分類上はあくまでも「レンタカーサービスのひとつ」として分類され、一般的なレンタカーサービスに準じた運営となっており、実際レンタカー会社が運営していることが多い。



深刻なタクシー運転手不足で「高齢者の通院の足」にも影響! 解決策の「ライドシェア解禁」に立ち塞がるハードル
都内にあるカーシェアリングサービス



この流れで考えると、ライドシェアのドライバーとはいえ二種免許が必要で、使用車両は旅客運送車両として緑地に白文字のナンバープレート扱いにしないといけないということにもなりそうだ。しかし、このあたりはすでにタクシー業界ではスマホアプリによる配車で、乗降地が確定しているなどケースによっては一種免許でも運行できるようにすべきとの論議もある。政府もライドシェア解禁には前向きとの話もあるので、『ライドシェア=なんちゃってタクシー』色はそれほど濃くはならないのではないかとも考えている。



また、海外のライドシェアでも大きくわけてふたつのパターンがある。ひとつは自家用車であくまで個人でライドシェアサービスに参加するパターンと、もうひとつはオーナーがライドシェアサービス用の車両を用意してドライバーに貸し出し、ドライバーが受け取る報酬の一部をオーナーに払うという、「第二タクシー」のような組織でサービスを行うケースがある。

日本は後者のタイプに近い形でライドシェアが解禁になるのではないかとも考えている。タクシー会社より働く時間の自由度を大きくし、空いた時間に行うというスタンスを重視していくことになるのではないだろうか。



ライドシェアのほうが料金は安いとの話もあるが、ニューヨークあたりではすでに一般のタクシーと同等になっているようなので、あくまで不足気味のタクシーを補完する意味でライドシェアが日本国内でも導入されると考えたほうがいいだろう。



深刻なタクシー運転手不足で「高齢者の通院の足」にも影響! 解決策の「ライドシェア解禁」に立ち塞がるハードル
アメリカ・ニューヨーク市内を走行する複数台のイエローキャブ



ただし、気を付けたいことはある。アメリカでテレビを見ていると弁護士事務所のテレビコマーシャルを多く見かける。少し前は交通事故の示談交渉をアピールしていたが、最近はライドシェアサービス利用時のトラブル解決をアピールするものが多い。つまり、それだけライドシェアサービス利用時のトラブルは多いようだ。



懸念材料はあるものの、現実のタクシー不足は早急に解決するのは困難ともいえる。収入保証を手厚くしても、いまでは隔日勤務で連続20時間(休憩あり)ともいわれる勤務時間の長さや、勤務の長さからくる事故発生リスクの高さなどに抵抗を示されることが大きいようだ。こうなってくると、「空いている時間で稼ぐ」といったスタイルのライドシェア解禁が問題解決の早道のようにも見える。



ただし、くれぐれも早計な判断で解禁することなく、時間をそれほどかける必要はないが、内容の濃い議論を進めて日本にあったスタイルと言うものを確立して解禁してもらいたい。

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