この記事をまとめると
■クルマは映画のストーリーを演出するアイテムとしてよく使われる



■クルマが主役の映画でなくても映画とともに脳裏に刻まれるクルマがある



■筆者が観たなかで日本車がイイ味を出している映画とクルマ7つを紹介



昭和初期と末期の日本を描いた作品とその時代を象徴するクルマ

クルマが登場する映画と言えば……? っていうか、ここ最近のアクション映画には必ず派手なカーチェイスが登場しますな。例えば筋肉粒々のハゲオヤジとその仲間達がアメリカン・マッスルカーやジャパニーズ・チューンドカーなどで街なかをカッ飛ばす映画(最近は世界中をカッ飛んでいるみたいですが)とか、あるいはもうひとりのハゲオヤジがスーパーカーで荷物や人をA地点からB地点まで運ぶ映画とか……。



今回ご紹介したいのはそういうカッ飛び放題&ぶっ壊し放題の映画ではなく、きちんとしたストーリーがあって、複雑&意味深かつ儚い人間模様の中にクルマが登場する作品を紹介したいんです。

かと言って、フォード マスタングが登場する『男と女』とか、ダスティン・ホフマンが赤いアルファロメオに乗る『卒業』とか、スティーブ・マックイーンがポルシェ911Sで登場する『栄光のル・マン』とかじゃありませんよ。そういうエンスーなクルマと映画は、エンスーなクルマ専門誌に任せておけばいいんです。一般的なクルマ好きの味方であるWEB CARTOPが紹介したいのは、日本車が印象的なシーンで登場する作品と、もちろんその日本車の素性についてです。



まずは昭和30年初頭の日本の下町を舞台に、そこに暮らす人々の日々と悲哀を描いた群像ドラマ『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年公開)。吉岡秀隆や須賀健太、堤 真一、薬師丸ひろ子、堀北真希らが、戦後の日本経済復興で懸命に働く庶民を演じた名作です。



その生活を支えたのが“はたらくクルマ”のシンボルであるダイハツ・ミゼットです。通称「オート三輪ミゼット」はコンパクトなボディにも関わらず荷物が載せられる使い勝手の良さと、三輪ならではの軽快さで下町の細い路地を颯爽と走っていたのです。



アカデミー賞「助演車両賞」を進呈! クルマが主役じゃないのに...の画像はこちら >>



このミゼットは劇中の「鈴木オート」の社用車としてオープニングからエンディングまで登場しますが、じつは映画の時代設定(ストーリー)とクルマの登場年が微妙に合わなかったとか? でも、まぁ、映画製作サイドとしては「観客が観て“懐かしい!”と思ってくれれば良いさ」と割り切って(?)、ミゼットを採用したとか。う~む、その判断はズバリ! ロードショーを観た多くのおじさん&おばさん(いや、お爺さん&お婆さんかな?)は、元気に走るミゼットを通して、自分の青春時代が蘇り、その場で号泣したとかしなかったとか。



まぁ、日本の実情を描いた日本映画に日本車が登場するのは当然かもしれませんが、今度はバブル時代の日本を描いた作品を紹介しましょう。



日本中が浮かれていた1980年代後半に原田知世や三上博史、原田貴和子、高橋ひとみなどが当時の華やかで楽しいライフスタイルと恋(少し冒険も?)を描いた『私をスキーに連れてって』(1987年公開)です。いやはや、志賀高原のスキー場を舞台にしたラブロマンスが、当時の日本中の若者の煩悩を刺激。

日本中に一大スキーブームを巻き起こしたのです! そして、登場人物よりもストーリーに重要な役割を見せるのが、当時デビューしたばっかりのセリカGT-FOURです。



アカデミー賞「助演車両賞」を進呈! クルマが主役じゃないのに「日本車」がイイ味出してる「映画とクルマ」7選
トヨタ・セリカGT-FOURのフロントスタイリング



“流面形”という造語がまさにぴったりの流麗かつスタイリッシュなフォルムと、世界ラリー選手権向けのホモロゲバージョンならではの高性能さ(2リッター直列4気筒DOHCインタークーラーターボで160馬力)で爆発的な人気を博しましたっけ。



このセリカGT-FOURを原田貴和子(白ボディ)と高橋ひとみ(赤ボディ)が志賀高原まで走らせるどころか、ストーリー後半では「あるトラブル」が勃発して志賀から万座高原のスキー場まで激走しちゃうんですよねェ。



アカデミー賞「助演車両賞」を進呈! クルマが主役じゃないのに「日本車」がイイ味出してる「映画とクルマ」7選
トヨタ・セリカGT-FOURの走行シーン



いやぁ、このおふたりが演じるアクティブな女性は、どちらも“女だてら”に凄いドラテクでしたな。彼女らは走り出す前に必ずドアを開け、「あるしぐさ」をするんですよ。そのしぐさを真似た若者が何人いたことか(笑)。その「しぐさ」と「あるトラブル」については、あえて書かないでおきましょう。興味が湧いた人は、DVDかネット配信でチェックしてみてください。



外国映画のなかで日本車がシーンに意味を持たせている!

さて、今度は外国映画でも頑張っている日本車と、その作品を紹介しましょう。



まずは超有名なスパイが活躍し、同じく超有名な日本車が登場する映画……そう、『007は二度死ぬ』(1967年公開)です。ジェームズ・ボンド シリーズの5作目は日本を舞台としていることもあって、日本の情報機関のボスに丹波哲郎が、初の日本人ボンドガール(?)として若林映子と浜 美枝が出演。そして、ボンドカーにはいわずと知れた、日本が世界に誇る名車トヨタ2000GT、しかもオープンカーが登場!



アカデミー賞「助演車両賞」を進呈! クルマが主役じゃないのに「日本車」がイイ味出してる「映画とクルマ」7選
トヨタ2000GTのフロントスタイリング



トヨタ2000GTは、1967~1970年にトヨタ自動車工業が製造・販売したスポーツカーです。

驚きなのは1960年半ばにして直列6気筒DOHCエンジン、5段フルシンクロメッシュトランスミッション、4輪ディスクブレーキ、ラック&ピニオン式ステアリング、ついでにリトラクタブルヘッドライトを搭載していたこと! そんな名車を映画製作サイドの無理めな要望に応え、たった2カ月間でオープンカーに仕上げたとか。



そんな具合にトヨタは頑張ったのに、ストーリー上ではジェームズ・ボンド役のショーン・コネリーではなく、若林映子が演じるアキが運転することになりました。しかも、実際の撮影では運転免許を持っていない若林映子に代わって、別の役者がドライブしたんだとか。DVDを買って、2カ月で完成したとは思えないほど美しい仕上げのオープンカーのトヨタ2000GTと、それをドライブするのが若林映子じゃないことをチェックしてはいかがでしょうか。



次は佳作中の佳作、おそらく知ってる人は皆無なんじゃないかと思う超マイナーなスポーツ青春ドラマ『ワンオンワン』(1978年公開)を紹介。高校で花形バスケットボールプレーヤーだった主人公が有名大学にスカウトされるんですけどね、まぁ、そこでスポーツ選手にありがちな「挫折→復活」がピュアな恋ととも描かれています。ストーリーのネタバレはここではしないでおきましょうか。



で、主人公が有名大学にスカウトされた際、奨学金のほかに、なんとフェアレディZも貰っちゃうんですよ。1970年代のアメリカといえば、高性能でスタイリッシュな2ドアクーペが大流行! メルセデス・ベンツ280Slが7000ドル、ポルシェ911Tが6000ドル、フォード マスタングとシボレー カマロのV8モデルが5000ドルだった当時、日産は2.4リットル直列6気筒エンジンを搭載したロングノーズ&ショートデッキのフェアレディZを、たった3500ドルで販売。“ベスト・バリュー・フォー・マネー”の象徴として、全米の若者がZカー(愛称)を買ったのでした。



アカデミー賞「助演車両賞」を進呈! クルマが主役じゃないのに「日本車」がイイ味出してる「映画とクルマ」7選
日産フェアレディZのフロントスタイリング



そういう時代背景を1台のクルマで絶妙に表現したということで、佳作の『ワンオンワン』とフェアレディZを紹介したって次第です。つい最近は、沖縄でバスケットボールのワールドカップが開催されたこともあって、今後バスケットボールが活性化しそうですから。

興味が湧いた人は、こちらもDVDかネット配信で観てください。



次はロバート・デ・ニーロとメリル・ストリーブという名優が登場しているのに、意外と知られていない『恋におちて』(1985年公開)です。お互いに妻、夫を持つ身でありながら、タイトルどおり恋におちていくという紛れもない不倫の物語なんですけどね、舞台となるニューヨークの街並み(地下鉄も書店もカフェも)がとにかくお洒落のひと言!



で、メリル・ストリーブ演じるお洒落なニューヨークの人妻が乗るのが、ホンダ・シビックなんです。それもシビックとしては3代目となるワンダーシビックで、色はシルバーだったかな。



アカデミー賞「助演車両賞」を進呈! クルマが主役じゃないのに「日本車」がイイ味出してる「映画とクルマ」7選
ホンダ・シビックのフロントスタイリング



雨のなか、不倫相手のロバート・デニーロに会いに行くために、シビックを飛ばすわけ。ところが途中で踏切があって電車が近づいているのに、メリル・ストリーブは無理して通過しようとさらにアクセルを踏み込むんです。



確かアメリカには1.5リッター4バルブSOHCのモデルしかなかったはずですが、高回転まで引っ張ったエンジン音が印象的でしたね。でも、踏切直前で間に合わないと判断した彼女は急ブレーキを踏んで、パニックストップするんです。エンジンが止まった車内でステアリングに突っ伏してしまう彼女の心境を、セルをまわしてもなかなかかからないエンジンが代弁しているようで……。いやぁ、ぜひ観てくださいませ。



もうひとつ、ホンダ車が“いい味”出してる作品があります。それは鬼才クエンティン・タランティーノ監督の『パルプフィクション』(1994年公開)です。

ギャングのボス、ボスの妻、ギャングの殺し屋、落ち目のボクサーなどが織りなすクライムドラマなんですが、それぞれの個性や人生が絶妙に描かれているのが凄い!



入り込んだストーリーのなかに、ギャングの殺し屋がトラブったときに電話一本で駆けつける「ザ・ウルフ」という人物がいるんですが、彼が乗っているのがシルバーのホンダNSX(アメリカだからアキュラか)です。



アカデミー賞「助演車両賞」を進呈! クルマが主役じゃないのに「日本車」がイイ味出してる「映画とクルマ」7選
ホンダNSXの走行シーン



現場に駆けつけサクサクっとトラブルを解消して、現場から立ち去る際、NSXのエンジンをレッドゾーンぎりぎりまで引っ張っているのが印象的。フォ~~~~~ン、フォッ、フォ~~~~ン……ってな具合に、ホンダVTECのエンジンサウンドとエキゾーストノートがクルマ好きには堪りません。また、クールで切れ物という人物をシルバーのNSX(決して赤いフェラーリじゃない)で端的に表現していることも、映画ファンには堪らないことでしょう。



最後にロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが共演した超名作、『ヒート』(1996年公開)を紹介しましょう。「えっ? こんな有名なハードボイルド・クライムムービーに日本車が登場するの!?」と思う人が多いかと思いますが、じつはアル・パチーノ演じるタフな刑事が、なんと日産のレパードJ.フェリーに乗っているんです。



アカデミー賞「助演車両賞」を進呈! クルマが主役じゃないのに「日本車」がイイ味出してる「映画とクルマ」7選
日産レパードJ.フェリーのフロントスタイリング



レパードJ.フェリーは米国向けのインフィニティJ30を流用して作った3代目レパードです。楕円のヘッドライト&グリル、エッジを持たない前後パンバー、尻下がりのリヤエンドなど、アメリカの日産デザインインターナショナル(NDI)がデザインしたスタイリングが非常に特徴的でした。



当時のシーマのパワートレインを流用した270馬力の4.2リッターV8エンジン(200馬力の3リッターV6もあり)や高級感溢れるインテリア(音響スタジオのような静粛性に、当時試乗した筆者はびっくり!)などは、モータージャーナリストやクルマ専門誌には好評価だったんですが、当時のユーザーからは大不評でした。



アカデミー賞「助演車両賞」を進呈! クルマが主役じゃないのに「日本車」がイイ味出してる「映画とクルマ」7選
日産レパードJ.フェリーのエンジン



でも、アメリカでは結構ウケたようで、だからこそ映画にも登場したのでしょう。興味深いのは良いモノ=刑事=アル・パチーノが日本車(レパードJ.フェリー)に乗っていて、悪モノ=ギャング=ロバート・デ・ニーロがアメリカ車に乗っていること。これって、日本車のクオリティが爆上がりしつつあった、当時のクルママーケットを反映していたのかもしれませんね。

その後のクライムストーリーのなかでは、ギャングはたいていレクサスに乗り出すんですけどね。



おっと、ロバート・デ・ニーロが乗っているアメリカ車の車名を書きませんでしたが、「何に乗ってるの?」と気になる人は、DVDかネット配信で確認してくださいませ。

編集部おすすめ