この記事をまとめると
■自動車メーカーのエンブレムのなかから面白い逸話が残されているものを紹介■まことしやかに語られる逸話がじつはウソだったというケースも
■時代と共に大きく変わったメーカーもある
正式な由来が不明なメーカーもある
フェラーリのバッカレラ伯爵から、ポルシェのシュツットガルド紋章につながるエピソードはつとに有名ですが、クルマのエンブレム誕生の裏にはだいたい胸アツだったり、クルマ好きがときめくようなストーリーがありがち。もっとも、なかには正確な由来が不明だったり、間違って伝わっているものもあるようです。ちょっと面白そうなものをピックアップしてみました。
マクラーレン
現在のF1やハイパーカーに使われているエンブレムは、1980年代のF1チームが使い始めたのが起源。文字をロゴと化し、右上に赤いウロコだかカマボコだかわかりづらい図案が組み合わされています。
この赤い図案については3つの説があり、ひとつめはマクラーレンご自慢の風洞実験トンネルで車体から発生する空気の渦(Voltex)を象ったというもの。ふたつめは、このロゴを使い始めたときのメインスポンサー、フィリップ・モリスの「マルボロ」をアレンジしたデザイン。そして3つめが創業者、ブルース・マクラーレンがの故郷の飛べない鳥、キィウィをイメージしたという説。
ちなみに、1960年代に発売されたマクラーレンの市販車には当時らしく七宝焼きのエンブレムが貼られているのですが、こちらはイメージでなく、リアルなキィウィが描かれています。

正式なステートメントもないので、どれが正解かはわかりませんが、いくらロン・デニスが腕っこきのビジネスマンだとて、マルボロ説だけは怪しい気がします(笑)。
BMW
青と白の格子というか、四分割したマークはプロペラの回転とバイエルン州のカラーをアレンジしたもの。これが通説でしたが、これは誤りだとBMWが正式にアナウンスしています。

彼らによれば、正しくはBMWの前身たるRapp Motoren Werke(1913年に航空機エンジンメーカーとして創業)が用いていた円形にチェスのナイトを象ったロゴがご先祖様とのこと。このナイト(馬ですね)の部分をバイエルン州カラーにしたという流れでして、プロペラというのは後付けどころかでたらめだった、というのが真相だそうです。

BMWといえば、2022年にM社の創立50周年を記念した特別エンブレムを設定しました。クルマはもちろん、バイクも含めてMモデルに導入されましたが、これは将来の値上がり必至でしょう。バイエルンのエンジン屋さんはなかなかの商売上手、といったらあざといでしょうか(笑)。

アストンマーティン
スカラベ(フンコロガシや黄金虫)の羽根を象ったエンブレムは、1930年代初頭から採用されています。創立当初はAとMというイニシャルを円形にアレンジしたシンプルなものですが、デザインしたのは創立者のライオネル・マーチンの妻、ケイトだったとされています。

その後、ASTONを右翼にしてARTINを左翼、中央にMが配されるシャープなデザインが導入され、1930年代初頭まで使用。そして、ついにスカラベの羽根デザインになるのですが、その理由は「イギリスでエジプト学が流行っていたから」というミーハー路線(笑)。

作ったのはレーサーであり、自動車雑誌の編集部員でもあったサミー・デイビスとのこと。実際、サミーがレースで乗ったアストンマーティンLM1にはこのエンブレムが付けられ、その後、デビッド・ブラウン時代には彼の名が加わり、ラゴンダ売却の1974年まで同デザインを採用し続けました。
フンコロガシが転がす糞を太陽に見立てたエジプト人のセンスも驚きですが、これが流行るイギリスの国民性もまた興味深いもの。アストンマーティンは流転のブランドかと思いますが、根底はやっぱり英国気質あふれるものといえそうです。

黒文字への変更は自分で自分を哀悼した!?
ロールスロイスとロータス
2社いっぺんに取り上げたのは、両社ともにある時期をもってエンブレムの色を黒に変更している、という共通点があるからです。
まず、ロールスロイスはチャールズ・ロールスとヘンリー・ロイス、ふたりのイニシャルであるRがふたつ重なるロゴが有名です。当初、七宝焼きのエンブレムで使われた文字色は赤でしたが、1933年に黒へと変更されました。

この理由は、長らく「1933年はヘンリー・ロイスが逝去した年ゆえ、哀悼の念を表した」と考えられてきましたが、これ、どうやら都市伝説だった模様(笑)。実際には、黒い文字色であればボディカラーを選ぶことなく似合うはず、というマーケティング戦略が理由であり、当のヘンリー・ロイスも亡くなる1カ月前に稟議書にサインをしているという始末。まさか、自分への哀悼に許可を出すわけありませんよね。
一方のロータスは、いわゆる蓮の葉(ロータス)の色が当初のクリーム色とグリーンから、黒字にシルバーの文字へと変更された期間がありました。これまた、コーリン・チャップマンがチーム・ロータスF1のエースドライバー、ジム・クラークの事故死に対する哀悼の念を表したもの。ロールスと違ってこちらはガチでして、わずか1カ月の生産分しか変更されなかったため、希少価値も抜群! それゆえ、後付けエンブレムが出まわり、黒に付け替えるオーナーも数えきれなかったとか。

マセラティ
ボローニャにある海神ネプチューンが持つ三叉の槍がモチーフになっていることはご承知のとおり。この槍が楕円のなかにレイアウトされる以前、1920年代は長方形のプレートに槍が描かれていました。ところが、レーシングカーが進化するにつれて長方形のエンブレムは使い勝手が悪くなったのだそうです。つまり、フロントグリルが湾曲するとか、ノーズのデザインに長方形が似合わなくなったということ。グランプリマシンの場合は四角い部分を省いて、グリルに槍の金型だけを貼り付けて事なきを得ていたようですが、さて市販車はどうするか、マセラティ・ファミリーは頭をひねりました。

そこで、トライデントのデザインを考案したファミリーの五男坊、マリオが「シャシーチューブの楕円形でどうよ!」と再び閃いたのだそうです。当時の一般的な鋼管フレームは丸パイプを用いていたのですが、マセラティはこれを楕円形状とすることで剛性や軽量化を実現し、数々の栄光を手にしたのです。
以降、この楕円モチーフは途切れることなく使われていること、ご存じのとおりです。
