この記事をまとめると
■自動車ブランドにはBMWのように「顔の統一」が図られているメーカーがある■スバルにはかつて「スプレッドウイングスグリル」というデザインが存在した
■2000年代初頭、多くの車種に採用されたがユーザーから受け入れられることはなかった
スバルの「スプレッドウイングスグリル」とは
BMWなど、各メーカーが独自性を競う「顔の統一」にはさまなざま意見がありますが、なかでもひときわ大きな賛否を呼んだのがスバルの「スプレッドウイングスグリル」です。もはや同社の黒歴史ともされる「顔」ですが、その造形は本当に失敗だったのでしょうか? 今回はこのグリルを採用したスバル車5台を振り返ってみたいと思います。
コンセプトカーで示したスバルデザインの将来
2000年代の初め、デザイン性の大幅な向上を目指したスバルは、初代レガシィを手掛けた杉本清氏を執行役員へ昇格、さらに元アルファロメオのデザイナーであるアンドレアス・ザパティナスを先行デザインのチーフとして迎え入れました。そこで、航空機生産のDNAを示すスプレッドウイングスグリルを提示、これを取り入れたコンセプトカー2台を発表しました。
1台は、2003年のジュネーヴモーターショーで発表した「B11S」です。「グランユーティリティツーリスモ」としてスバルデザインの将来を示した同車は、ハイデッキのダイナミックなプロポーションを持つ堂々とした4ドアクーペコンセプト。
肝心のグリルは、ボディ同様エッジを効かせた翼の部分はともかく、中心の大きな円形はいささか主張が強過ぎたよう。ボンネットと一体化した造形は理解できますが、ここはもう少し形状の微調整が必要だったかもしれません。
もう1台は、同年の東京モーターショーに出品された「B9スクランブラー」。ザパティナス氏によるボディは、オンとオフを両立するオープン2シーターコンセプトで、ハイブリッドエンジンや車高調整機能を用いた意欲作です。

で、サイド面を大きく張り出した安定感のあるボディには、左右に広げたスプレッドウイングスグリルがほとんど違和感なく収まっていました。恐らく曲面重視の大らかな面や、柔らかいL字型ランプとの相性もよかったのかもしれません。つまり、このクルマには同グリルの扱い方のヒントがあったのです。
不幸な船出となったスプレットウイングスグリル
続いては市販車から「R2」と「R1」です。前者は2台のコンセプトカーと同じ2003年に「新しいミニカーのカタチ」をコンセプトとして登場。しかし、ワゴンタイプ全盛の軽市場でスタイルと走りを追求したワンモーションボディがウケる筈もなく、さらに件のグリルが賛否を巻き起こしてしまいます。

そもそもの形状が独特な上に、R2の場合はアッパーグリルだけでなく、ロアグリル両端にも大きな開口部を設けたので「顔中穴だらけ」に見えてしまったのです。
その点、2年後に発表されたR1はアッパーグリル中心にまとめたこと、フロントランプを相性のいいシャープな形状にしたこと、さらにボンネット部分も含めた形状にしたことで、違和感は圧倒的に少なかったと思えます。ただ、全長わずか3285mmのふたり乗りという特殊性が不人気を呼び寄せてしまったのが残念です。

意欲的なデザインではあったがユーザーとのすれ違いで不発に
説得力に欠けた後付け感という不幸
続いては、2代目のインプレッサです。2000年に登場した同車は初代から一転した丸形ランプが賛否を呼び、わずか2年後には「涙目」と呼ばれる変形ランプに変更。さらに、3年後の2005年にはいきなりのスプレッドウインググリルの採用となりました。

じつに目まぐるしい変化ですが、グリルはフロント形状に合わせ込んだ形状で、意外に違和感はありません。恐らく「鷹目」と呼ばれたランプ形状も一体で変更したのが功を奏したのでしょう。ただし、「なぜいまインプレッサに?」という唐突感に加え、そもそもの没個性ボディが相まって「失敗」の烙印が押されたようです。

千載一遇のチャンスを逃がしたデザイン改革
最後は「B9トライベッカ」。北米市場をメインとした大型SUV需要に対応するべく2005年に登場、一部の並行輸入を除いて日本には導入されなかったクロスオーバーSUVです。

あらためて同車を見ると、安定感のあるプロポーションにシンプルで大らかな面構成が魅力的で、リヤビューには最新のSUV車を先取りした先進感も見られました。懸案のグリルも、シンプルな造形となってボディにしっかり溶け込んでいます。

つまり、このトライベッカには当時のスバルが目指していた大幅なデザイン性向上の具体案が見えるのです。残念なのは、そのなかで提案されたスプレッドウイングスグリルがうまく機能せず、そこにばかり話題が集中してしまったこと。このすれ違いがなければ、いまのスバルデザインはまた違った展開になっていたのかもしれません。