この記事をまとめると
■トヨタ2000GTには兄弟車とも呼べるクルマ、「1600GT」というモデルが存在していた■コロナをベースに専用エンジンを搭載しているほか、専用装備も多く装着されていた
■クラブマンレースでライバルに勝つことを目標に開発されていた
トヨタ2000GTには兄弟車があった!?
「トヨタ2000GT」といえば、旧車好きだけでなくともその存在を知っている名車です。いまでは日本のみではなくて、世界的に見てもコレクターアイテムとして求める人が多くいるほどの存在となっています。
しかし、そんなトヨタ 2000GTに弟分がいたことを知っている人はどれくらいいるでしょうか?
おそらく旧車が好きという人に限っても、そう多くはいないのではないかと思います。
■「2000GT」の弟分は「1600GT」と「Sports800」のどっち?
当時のトヨタには、フラッグシップの「2000GT」のほかに、「1600GT」と「Sports800(通称:ヨタハチ)」の2車種がありました。
写真で見ると、丸みを帯びた流線型のなめらかなボディデザインと、透明なカバーで覆われた2眼の特徴的な顔つきなどの類似点があるので、「Sports800」のほうを「2000GT」の弟分として扱うメディアがあったこともあり、そう認識している旧車好きの人も少なからずいるという印象です。しかし、名前を見てもらえると分かるように、本来の弟分は「1600GT」のほうなんです。

そもそも「Sports800」は、「2000GT」より以前に発売されています。2000GTの弟分として発売するのであれば、同時かその後に発売するのがセオリーです。
そして成り立ちからしてけっこう違うんです。本気で「世界に誇るスーパースポーツ車を!」という目標で製作された「2000GT」は、世界的に評価されて高い地位を獲得しているポルシェやジャガーなどに打ち勝つクルマを作るため、巡航速度200キロ以上という高い性能レベルをクリアするためのシャシーと装備を備えた設計で開発され、エンジンの開発を、当時2輪レースで培った技術力の高さを持っていたヤマハに依頼するなど、採算を二の次にして最高の性能を備えた車種として製作されました。

一方で「Sports800」のほうは、大衆車として人気を博していた「パブリカ」のシャシーとエンジンを使ってスポーツカーを作ろう、というコンセプトで製作されたクルマです。「2000GT」に似た部分のある特徴的なデザインは、非力なエンジンで高い動力性能に仕立てるために空力性能を高めた結果であり、結果的に似てしまっただけのようです。
一方の「1600GT」はというと、車体は先に発売されていた「コロナ・ハードトップ(3代目のT50型)」をそのまま使い、ヤマハが開発したDOHCエンジンを搭載した、コロナのスペシャルグレード的な成り立ちのクルマです。

そう聞くと「ヨタハチと同じじゃん」と考える人もいると思いますが、開発の狙いがレースで勝つためという大前提のもとで行われており、なによりも動力性能のカナメであるエンジンが、2000GTのエンジンと同じ手法で製作されたものということが、弟分を名乗るのに十分な要素ではないかと感じます。
■「1600GT」とはどんなクルマ?
前述のようにベースとなったのは、その特徴的な形状から“バリカン”と呼ばれた3代目「コロナ」です。
当時のトヨタは市販車の売り上げにも多大な影響があった「クラブマンレース(市販車ベースでおこなわれるレース)」でライバルメーカーに遅れを取っていて、イッパツ逆転の武器としてこの「1600GT」の計画を立ち上げました。

その頃に勢いのあった「いすゞ・ベレット」や「日産ブルーバード」への対抗馬として、同じクラスの「コロナ」がベース車として選ばれました。
レースで勝つために肝心のエンジンですが、コロナに搭載されていたのはどれも“OHV”という旧い設計のエンジンばかりで戦力が足りません。そこで白羽の矢が立ったのが、2000GTの開発で協力関係にあった「ヤマハ」です。まさに2000GTと同じ手法で、コロナに搭載されていた1.6リッターの「4R」エンジンを、当時の高性能の象徴だった“DOHC”方式にモディファイして「1600GT」に搭載しました。

発売に先行して、プロトタイプ(試験車両)の「RTX」でレースに参戦して良い結果を残したので、名実ともに世界に誇れる性能を持った車種として、「2000GT」の遺伝子を受け継いだという意味が込められた「1600GT」という名前で発売されたのです。
搭載エンジンはヤマハの手で“DOHC”化され、当時クラス最高の110馬力を発生した「9R型」。レースではさらにチューニングがおこなわれ、150馬力にまでパワーが引き上げられました。これは同じクラスに留まらず、ボディの軽さも手伝って2000ccクラスの車輌も上まわるレース結果を残すことになりました。

標準グレードの「GT4」が4速MTを搭載し、「2000GT」から受け継いだ5速MTを搭載した「GT5」も用意されていました。その5速MTは、当時の1600ccクラスには贅沢すぎる“フルシンクロ機構”搭載の高性能タイプでした。

ほかにも、ステアリングホイールやフロントシート、フェンダーミラー、各部のバッジ類などの部品が2000GTと同じイメージのものを装着していて、高性能な遺伝子の継承をアピールしています。
あとは高性能なエンジンを搭載したことで上がった動力性能に合わせて、サスペンションとブレーキが強化されていますので、乗り比べるとその違いは体感できると思います。
エクステリアにも専用パーツを多数装備
■外観はほとんどコロナと同じに見えるけど……?
外観上でのコロナとの見分け方ですが、いちばんのポイントは、前側ホイールアーチとドアのカットラインとの間に装着されたエアアウトレットでしょう。高性能化によって増大した熱を排出するためのもので、プロトの「RTX」で装備された機構です。
Cピラーに装着された逆三角形のバッジとグリルは「1600GT」専用ですが、すれ違う場面で見分けるポイントとしては少し物足りないかもしれません。

さらに並べないとわからないポイントですが、ホイールアーチが「コロナ」より大きくなっています。よく見比べると、ホイールアーチと上のメッキモールとの隙間が狭いことが分かります。これは、車高を下げ、大径で幅広のタイヤを履かせるレースでの使用を踏まえた変更だと思われます。
エンジンルームを見れば、ベース車の「4R」とはまったく存在感の違う「9R」エンジンが搭載されているので一目瞭然です。エアクリーナーは「4R」が丸形で左寄りに付いているのに対して、「9R」は長円形で右前寄りに付いています。
■乗った感じはどうでしょう?
さすがに希少な「1600GT」のハンドルを握らせてもらう機会はなく、運転したときのインプレッションはお伝えできませんが、イベントで見たときの印象と、ベースとなった「コロナ1500デラックス」に乗ったときの感想から、少し想像でこんな感じではないか? というのを最後に書き添えてみたいと思います。
ベースの「コロナ」は、まずそのサイズがコンパクトに感じます。とくに車幅が狭いと感じました。でも車高があるためか、乗ってみるとあんまり狭い感じはしません。

走ってみたときの乗り心地はいまのクルマと比べるとかなり違います。
このあたりについては「1600GT」は強化されているということなので、もう少ししっかりした印象になるでしょう。ブレーキも前輪ディスク式なので利くはずです。
「コロナ1500」の「2R」エンジンはかなりマイルドな印象です。いちばん違いを感じるとしたら、やはりエンジンでしょう。DOHCと大口径のソレックスキャブレターから発せられるエンジン音は勇ましい響きで、その気にさせてくれます。

馬力の表記は、「コロナ」の最強「4R」が90馬力に対して「9R」が110馬力と20馬力の差ですが、きっと体感では数字以上の差を感じると思います。まず、レスポンスが優れているので加速感が鋭く感じ、パワー自体も大きいので実際の加速も良いでしょう。とくに4000回転以上は勇ましいエンジン音も相まって鋭く感じると思います。

この「1600GT」の「9R」エンジンを祖として、のちに「2T-G」、「4A-G」とトヨタのDOHC名エンジンが生まれていくことになります。一度は元祖である「9R」のフィーリングを味わってみたいですね。