この記事をまとめると
■2023年4月に判明したダイハツの不正問題



トヨタによる系列会社への厳しいプレッシャーがかかっていたといわれているが原因はそんな単純なものではない



■過去の取材と今回の調査書から7つの主な原因を解説



ルールの理解不足が嘘の記載につながっていた

前回の記事で述べた4月の不正発覚は、内部からの告発で明らかになった。その不正を受けて内部で調査した結果、国内で販売するロッキーとライズのハイブリッド車のポール衝突試験で不正があったことを公表。



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この試験は、燃料パイプが通る左側に関しては試験官が立ち会って認証実験を実施し、右側については社内で事前に行う試験データを使えるというルールだったが、ハイブリッド車はエンジン車と同じ構造なので、ハイブリッド車の右側の試験を省いてしまった。

つまり、右側の試験を実施していないので、左側のデータを右側のデータとして虚偽報告したのである。



業界のご意見番「清水和夫」が「ダイハツ問題」を斬る! 不正の根幹はトヨタからのプレッシャーではない【短期連載その2】
不正が行われた衝突実験の図



一連の不正が発覚したので、トヨタの中嶋副社長以下、安全技術の専門家がダイハツ社内の調査に乗り出すが、ダイハツ側も第三者委員会を立ち上げ、徹底的に膿を出す作業が始まった。そこから約半年。時間がかかったが、膨大な数の不正を公表した。



第三者委員会の発表では、不正行為は174件(不正加工など28件、虚偽記載143件、元データ不正操作3件)と信じられない規模だった。もっとも古い不正は1989年だが、2011年までの22年間で6件の件数なので、1989年から不正が続いていたという報道は正しくない。



不正が急増したのは2014年からの約8年間。不正のなかでも頻繁に行われたのが虚偽記載。本来はルール違反でもないのにルールの理解不足から嘘の数値を記載したケースが多かった。



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数値をいじっているイメージ



また、多くのメディアは「トヨタのプレッシャーがきつかったから」と報じているが、そんな単純な原因ではないだろうと筆者は考えている。不正の多くは2014年以降に生じているが、詳しくは162ページに及ぶ調査報告書(ダイハツのWEBサイト)を参照するといいだろう。



自立した企業にさせたかったトヨタと認められたかったダイハツ

■トヨタは2000年代に急成長した

2000年代のトヨタは破竹の勢いで成長していた。

奥田体制ではグローバル化を推し進め、「グローバルマスタープラン」を打ち立て渡辺社長体制まで続いた。世界中に工場を作り、販売台数を伸ばしていたが、2008年に起きた金融危機でトヨタは赤字に転落し、事業を見直すことになった。あくまで想像の域をでないが、当時のトヨタは系列に対して厳しいプレッシャーを与えていたのかもしれない。



2010年に豊田章男氏がトヨタの社長に就くと、前体制で続いていたマスタープランは見直され、クルマ好きの豊田社長らしく、ユーザーに愛されるクルマを作ると名言していた。豊田社長はダイハツに対して、トヨタに頼らない自立した企業になるようにと考え、ダイハツの代表取締役会長から2011年に技監になった元トヨタの生産技術担当副社長の白水宏典氏によって「ダイハツが軽メーカーとして成長する」ためにトヨタ流儀をブロックしていた。



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ダイハツとの記者会見を行う豊田章男氏



その証拠に2010年にトヨタは、独自でインド市場向けのBセグメントのエティオスをデリーショーで発表したが、なぜトヨタはダイハツを使わなかったのかと疑問に思い、直接白水会長に話を聞いたことがあった。



当時のダイハツはマレーシアやインドネシアの市場を維持するのが精一杯で、とてもトヨタをサポートできる余裕はなかったと述べていたし、また白水会長はトヨタ流を押し付けてはダイハツが潰れると懸念していた。



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トヨタ・エティオスファルコの発表会



トヨタは昔からほかのOEMよりも系列を大切にする企業として知られており、原価低減で利益が増すとサプライヤーにも還元していた。ダイハツが日程や原価で厳しいタスクにさらされたなら「NO」といえばよかったものの、現場が「NO」と言えない風土だったとしたら、そこは経営幹部の責任かもしれない。



そんな経緯があるので、私はトヨタがプレッシャーを与えていたとは考えていない。むしろダイハツ独自の企業として自立する方針だったのだ。しかし、当時からの現場の声を聞くと、「一流のトヨタに認められたい」という思いが強かったというのも間違ってはないだろう。

これをプレッシャーといえばそうなのかもしれない。



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ダイハツの自動車工場



私のダイハツに対する長い取材経験と第三者委員会の報告書から不正の本質を推測してみると、次のようにまとめることができる。



1)現場の担当者や幹部も勉強不足でルールをしっかりと理解できていなかった



2)子会社としての反骨心と親会社への気遣いの狭間にいるダイハツは、ユーザーと向き合う姿勢が軽薄となっていった(「一流のトヨタに認められたい」という気持ちが強すぎた)



3)ルールを勝手に解釈することが慢性化していた



4)「NO」と言えない職場の空気、失敗を許さない体質も原因か



5)幹部が現場(滋賀試験場)に足を運ぶ機会が減っていた



6)プレッシャーがあったとすればスズキとの激しいシェア争いと燃費競争



7)企業内部でブラック化が進んでいたことにダイハツのトップは気付かなかった



厳しい開発競争はダイハツだけではないので、ほかのメーカーも対岸の火事だと思ってはいけない。



最後に安全性を気にするユーザーへのメッセージとして、エアバックのセンサーの偽造は安全性に関わる問題なので、該当車はリコールになる思われるが、それ以外の不正該当車は再点検中なので、安全性には大きな問題とならないだろう。正確には政府からの発表を待つことになる。

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