この記事をまとめると
■SUBARU360やスズキ・フロンテクーペなど軽自動車に採用例が多かった2ストロークエンジン



■2ストロークエンジンは排ガス規制によって1980年代には四輪車から消滅した



■小排気量のバイクでは2000年代まで存在していたが、現在は量産車では完全に消滅



軽自動車と相性が良かった2ストエンジン

昭和30~40年代には、日本のモータリゼーション史に残る数々の名車が誕生している。富士重工業の礎を築き、現在の「SUBARU」ブランドの元となったスバル360、ジウジアーロのデザインをベースとしたスポーツモデルのスズキ・フロンテクーペ、同じくスズキでは初代ジムニーも同時期に誕生している。



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いずれも360cc時代の軽自動車規格に則って生まれたモデルだが、この3台(のみならず、当時の軽自動車の多く)に共通しているのは、2ストロークエンジンを搭載していることだ。



SUBARU360と初代ジムニー(LJ10型)は空冷2気筒の2ストロークエンジンを、フロンテクーペは水冷3気筒のハイパフォーマンスな2ストロークエンジンを積んでいた。



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スズキ・フロンテクーペのエンジンルーム



バルブやカムといった複雑な機構を持たない2ストロークエンジンは、ピストンの往復運動1回で吸気・圧縮・燃焼・排気を完了するメカニズムが名前の由来。往路と復路のストロークが各1回なので、合わせて2ストロークというわけだ。2サイクルと呼ばれることもある。



現在の量産車において主流となっている4ストロークエンジンは、吸気・圧縮・燃焼・排気のそれぞれにおいてピストンをストロークさせるため、単気筒エンジンで考えると、クランクシャフト2回転につき1回の燃焼しかできない。一方、2ストロークエンジンはクランクシャフト1回転につき1度の燃焼をするため、同じ回転数であれば、理論上は倍の出力を得ることができる。



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スズキ・ジムニー(JB64)のエンジンルーム



さらに、前述したようにバルブやカムシャフトといった部品が不要な構造であるため、コンパクトかつローコストに作ることができる。冒頭で記したような360cc規格の軽自動車と2ストロークエンジンの相性は非常によかったといえる。



余談だが、N360で軽自動車市場を席捲したホンダは4ストロークエンジンを採用していた。2ストロークエンジンは排ガスにオイルが混ざってしまう構造のため、エミッション性能に不利なメカニズムである。このことをホンダが嫌ったからといわれている。



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ホンダN360のエンジン



そんなホンダであっても、原付スクーターでは2ストロークエンジンを採用していたし、250ccクラスのレーサーレプリカも2ストロークエンジンを積んでいた。

小排気量カテゴリーにおいて、パフォーマンスを求めると4ストロークエンジンでは太刀打ちできないというのも歴史的な事実だ。



排ガス規制で消えた2ストと同様に4ストも消える?

しかしながら、コンパクトかつローコストで、パワーも期待できる2ストロークエンジンは現在の新車ラインアップからは消滅している。



四輪でいえば、1980年代半ばまで販売されていたスズキ・ジムニー(SJ30型)に搭載されていた539ccの水冷3気筒エンジンが、量産2ストロークエンジンとしては最後といえる。



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スズキ・ジムニー(SJ30型)



バイクの世界でも原付スクーターにおいては2000年代まで2ストロークエンジンを見かけたが、公道走行可のモデルとしては、少なくとも国内販売モデルからは姿を消した。



小排気量ではメリットがあるはずの2ストロークエンジンが消えてしまった理由は何であろうか。



ひとつにはドライバビリティに不利な特性があるからだ。同じ排気量であればハイパワーを出すことができるが、バイクの2ストロークエンジンに乗った経験があればわかるように、パワーが唐突に盛り上がる傾向がある。



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ホンダNSR250のフロントスタイリング



ドッカン的と表現できるパワー特性が2ストロークエンジンの特徴だ。趣味性の強いスポーツバイクや、そもそもアクセル全開で使うことの多い原付スクーターであれば気にならないかもしれないが、四輪においては運転しづらい特性と感じられるのは欠点といえる。



ハイパワーであることの逆相関といえるかもしれないが、2ストロークエンジンは同等排気量の4ストロークエンジンと比べると燃費性能にも劣る傾向がある。この点においても、2ストロークエンジンを選ぶというインセンティブをユーザーから奪ってしまう。



そして、2ストロークエンジン消滅の最大の理由といえるのが、環境対策=排ガス規制だろう。



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排気ガスのイメージ



じつは軽自動車においても、1970年代から4ストロークエンジンへシフトする動きが活発化していた。その背景にはオイルショック(石油危機)による燃費性能ニーズの高まりもあるが、1973年から日本でも排ガス規制が始まったことが挙げられる。



当時を生きていた人であれば、昭和48年規制、昭和50年規制、昭和51年規制、昭和53年規制と年を追うごとに厳しくなっていく排ガス規制のニュースを見聞きした記憶があるだろう。



当然ながら、排ガス規制をクリアしなければ市販できないわけだから、排ガス浄化において不利な2ストロークエンジンにこだわっていては自動車ビジネスが成立しない。おのずと自動車のパワーソースは4ストロークエンジン一色となったのだ。



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ホンダN360のエンジンルーム



余談だが、こうした時代をリアルタイムに知っている筆者からすると、昨今の電動化シフトによって内燃機関そのものが消えてしまいそうなトレンドについても、「歴史は繰り返す」という印象であり、CO2排出量削減への要求がますます高まるであろう情勢からすると、内燃機関を残すための研究開発というのは実を結ばないのでは? と思わざるを得ない。



事実、2ストロークエンジンもあっさりと諦めたわけではない。内容までは紹介しないが、スズキが軽自動車に採用した「TCシステム」やホンダのオフロード系バイクに使われた「AR燃焼」などなど、2ストロークエンジンのメリットを活かそうとした画期的なメカニズムが量産車にも搭載されていた。



それでも2ストロークエンジンは量産車からは消えてしまった。はたして、乗用車において内燃機関は未来永劫生き残れるのだろうか。

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