この記事をまとめると
■自動車評論家の桃田健史さんにこれまで乗ったクルマでもっとも「怪物」だと感じたクルマを聞いた



■市販車としてメルセデス・ベンツのチューナーである「ブラバス」が製作したGクラスが怪物だった



■競技車両ではスプリントカーとモンスタートラックが常軌を逸していた



ブラバスが作ったGクラスの暴れ馬

クルマで怪物という表現を使うとなると……やはりパワーが強烈、またはボディサイズがデッカイといった話になると思う。そうした視点で過去の体験を振り返ってみて、3つのクルマが思い浮かんだ。量産車が1台、そして競技車が2台である。



まずは量産車だが、ブラバスがGクラスをチューニングしたもの。ブラバスといえば、1990年代後半から2000年代にかけてメルセデスベンツチューニング界で一斉を風靡したドイツのブランドだ。



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当時、筆者は日本のメルセデス・ベンツ専門誌の仕事などで自宅のあるアメリカからドイツへ頻繁に取材に出かけていた。ドイツ最大級のチューニングカーイベントが行われるエッセン市にほど近いブラバス本社にも定期的に訪れ、新型モデルを近隣の市街地やアウトバーンで試走することが少なくなかった。



そうしたなかで、当時はSクラスチューニングが主流で、SLやEクラスも人気があり、その後にGクラスへの人気が高まっていった印象がある。当初、Gクラスは内外装のデコレーションが主流で、パワートレインはマフラー交換による排気系チューンとエアインテークの一部を改良する程度だった。



それがあるとき、Sクラス用のV12ツインターボをチューニングして搭載し、公称最大トルクは1000Nmを超えるモデルを仕立てた。その後、こうしたGクラスのエンジンスワップは珍しくなくなったが、最初のモデルは暴れ馬といった乗り味だった。大きな重量物がドカーンと加速し、追加設定したブレンボブレーキでガツンととまる。



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ブラバスG900 V12のエンジン



値札は当時のユーロレートで7000万円程度だったと記憶している。買い手は、アラブの石油事業関係者とのことだった。プレミアムチューニングカーがまだまだ創世記だったあの頃、あのGクラスはまさに怪物だった。



競技車両のなかでもとりわけ印象に残っている2台

次に競技車では、アメリカのUSACスプリントカーだ。USACは古くからアメリカのオーバルレースを主催しており、インディ500へのステップアップボードとして、ミジェットカー、シルバークラウン、そしてスプリントカーというカテゴリーが1970年代から2000年代頃まで定着していた。



最上位のスプリントカーは、外観はまるで農業用トラクター。フロントに最高出力700馬力オーバーのアメリカンV8を搭載するFR車。ステアリングもトラクターやトラックのように前方向に傾いている設計だ。アクセルは上から下に踏み降ろすタイプ。ブレーキは静止するというより、リヤスライドのためのきっかけづくりのため、といった感じだ。



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USACスプリントカーの走行シーン



1990年代にインディアナ州やオハイオ州などで何度かテストライドをしたが、独特な走り方に慣れるのが大変だった。右リヤタイヤが左リヤタイヤに比べて極端に大きさが違う、極端な「スタッガー」の設定で、直線でも常にドリフトしているイメージ。フロントヘビーな重量バランスでアクセル全開でショートダートオーバルを、路面の変化に応じてアウト・アウト・アウトのラインや、イン・イン・インのラインを使い分ける。



燃料がメタノールなので、夜間走行だとマフラーからの青白いバックファイアーが目立つというシロモノだ。



もうひとつの競技車が、モンスタートラックだ。

競技というよりはエンタメのテイストが強いが、実際に乗ってみるとその大きさとジャンプして着地した際の景色の変化がじつに刺激的だ。



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モンスタートラックのジャンプシーン



個人所有で皆さん丁寧にメンテナンスしているが、いざイベントに登場すると大ジャンプで横転してサスが大きく壊れることも珍しくない。いかにもアメリカンな怪物である。

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