この記事をまとめると
■旧車乗りの衝撃の体験談を紹介■現代では軽自動車にも付いている装備がないことも当たり前
■想像を絶する苦労を上まわる魅力が旧車にはある
イマドキのクルマしか知らない人にはウソにすら聞こえる!
昔のクルマ、いわゆる国産旧車の人気が上がり続けています。いまもっとも人気が高いのは「ハコスカ」でしょう。スカイライン自体が日本のドメスティックな車種ということもあって、北米やヨーロッパ、あるいはサウジやドバイなど経済強国のマネー介入で、ここ10年くらいで相場が10倍近くにハネ上がっています。
20年前では100万円ちょいで売られていたところ、今ではGTグレードのハードトップモデルで1000万円以上、GT-Rなら3000万円を超える値付けがされているものもあります。価格だけならほぼフェラーリやランボルギーニと肩を並べていますね。ほかの車種も軒並み10年前の5~10倍の価格になっていて、気軽に手が出せるクルマではなくなってしまいました。
そんな価格で売買されるようになってしまった国産旧車ですが、当選ながら中身は40~50年前のままです。人気の中心となっている1970年代の車種は素の状態ではクーラーが付いている個体は少なく、パワステもありません。パワーウインドウは付いていても、トラブルの素だったりします。え? リモコンのドアロック/解除機能?? なにそれ美味しいの? って感じで、今では軽自動車にも装備されている快適装備はほとんどありません。
ここでは、そんな旧車に乗っていて遭遇する「うそだろ?」という、今では想像できない意外な苦労について話してみようと思います。
■「重ステ」という修行のようなハンドル操作
パワーステアリングといえば、いまでは軽トラでさえ標準装備となっていますが、市販車に採用され始めたのは1980年代の初頭からです。それ以前のクルマには、高級車ですら装備されていませんでした。そのアシストなしのステアリングのことは、「パワステ」に対して「重ステ」と呼ばれています。

その「重ステ」は、想像の倍といっていいくらい回すのに力が要ります。走っていればまだマシですが、停止状態のいわゆる「据え切り」は、力自慢の若い男子でも頻繁にやるのは「勘弁してくれ!」というレベルです。
私の経験でもっとも辛かったのは、縦列駐車していて用事を済ませてクルマに戻ったとき、前後に30㎝ずつしか隙間が無いくらいに詰められていたときです。急いで出なくてはならなかったので、意を決して小刻みな切り返しで脱出を図りました。くそ重いハンドルを据え切って少し前進、ハンドルを戻して後退、というのを20回以上は繰り返してようやく抜け出ることができました。外気は10度以下だったのにもかかわらずシャツは汗でぐっしょり。窓は汗の湯気で曇っていました。そのレベルの苦行は幸いにも一度きりでしたが、もう2度とゴメンです。

※写真はイメージ
■真夏にわざわざヒーターを全開にする信じがたい行為
真夏に熱風が出るヒーターを全開、あるいは雪の降る真冬にクーラー全開、なんていう普通とは真逆のことをした経験がある人はほぼいないでしょう。まあ意味がわかりませんよね。でも旧車の世界では、クルマを守るために真夏にヒーターを全開にするという、「気が触れたのか?」という行為を迫られることがあったそうです。
なぜそんなことをしなくてはならないのか、というと、エンジンの熱をヒーターで逃がして、オーバーヒートを少しでも回避するためです。

エンジンのシリンダーやヘッドのまわりには冷却水を通す水路が張り巡らされています。燃焼室で発生した熱をその冷却水で冷やし、熱を持った冷却水をラジエターで冷やしてまたエンジンに戻してやることで、燃焼の発熱による熱を大気に放って冷却しています。
一方で、クルマのヒーターというのは、その熱を持った冷却水を室内に設置したラジエターのような熱交換器に通すことで、温風を作り出しています。つまり、クルマの室内には小さいラジエターが付いているようなもんなのです。
昔のクルマは、エンジンの性能も今よりかなり低い状態でしたが、冷却の効率も同様にあまり良くありませんでした。普通に走行していて水温が上がりすぎることはありませんでしたが、高回転を回しっぱなしの登りのキツイ峠道や、走行風が当たらず冷えにくい渋滞の時などは、水温が110度を超えてしまうこともあったようです。そんなときの応急措置として、室内の第2ラジエターと言えるヒーターを作動させて少しでも水温を下げる、という方法が民間療法としてドライバーの間に伝承されていました。

今では後付けの電動ファンで対処できますが、昔はそうするしかなかったんです。
クーラーが付いていても「使わない」ことが大切だったりもする
■まるで白鳥の水面下の足の動き? 手動ウインドウの操作
1970年代の後半くらいのクルマでは、高級車から徐々に「パワーウインドウ」の装備が普及していきました。出始めの頃などはオプション扱いでした。そのため、それより古い年式の車種や低グレードの個体では、ウインドウの開け閉めを手動でおこなう「手巻き」があたりまえでした。

やったことがある人はわかると思いますが、全閉から全開まで、あの短くて重たいウインドウのハンドルを10回転くらいしないと全開になりません。春から秋にかけての窓を開けっ放しでいい時期なら駐車するときくらいしか開け閉めしませんが、窓を閉めておくのが基本になる冬時期は大変です。
たとえば高速や有料道路の料金所では、チケットを取るために全開まで開けて、寒いのでチケットを取ったらすぐ閉め切らないとなりません。都合20回転するわけです。

これは半分笑い話として語られるケースですが、パワーウインドウが普及し始めたころに、自分のクルマを上級クラスだと見栄を張りたいがため、手巻きなのに、外から見えないヒジから先だけを気合い入れて全力で回して、さもパワーウインドウかのように見せるという振る舞いが流行った時期があった……らしいです。もちろんそのときはハンドルのほうなど見ずにノールック&ポーカーフェイスが必須です。室内から見たら苦笑モンのおこないですが、マニアになるとどれだけ肩を動かさずにできるかが評価のポイントだった、なんていう話も聞きました。
■室内にミニ扇風機を付けてやせ我慢するこだわり
夏場の旧車のミーティングに行ったことがあるという人なら、何割かの旧車の室内に、ハンドボールくらいのサイズの小さな扇風機が備えられているのを見たことがあることでしょう。あれも、旧車乗りではない人から見たら「意味わからない」と思われていることと思います。

何なら旧車ブームが起こった20年くらい前にはすでに後付けの社外クーラーキットが販売されていましたので、その世界に入ったばかりの私は「なんでクーラーを付けずに扇風機なんかで凌いでいるんだろう?」と疑問に思っていました。
しかし自分でも旧車に乗るようになると、それが自然になんとなく共感できるようになっていたのです。要するに、好きになったクルマに余計なものを装着したくないという心理が大きく働く、という要素が理由として大きいと感じました。
またこれは今のクルマでも同じですが、クーラーにパワーを食われてしまうので、ただでさえ心細い低速トルクがさらに薄くなり、発進の半クラが少しシビアになったりします。そして無視できないのが、燃費がガクンと落ちてしまうことです。

なかにはエンジンをチューニングしていてその性能アップが自慢だったりする人にとっては、よけいにクーラーが邪魔な存在に感じる意識が強まります。
15年くらい前ならまだ真夏の暑さも扇風機で乗り越えられますが、夏の暑さは年々厳しくなる一方です。今はやせ我慢していると熱中症まっしぐらなので、夏も乗るなら割り切ってクーラーを装着する、というケースも増えています。

とまあ、旧車に乗っていて体験する苦行のような出来事のうちの代表的な4つを紹介しましたが、旧車乗りが集まって談笑していると、これらの出来事はすっかり笑い話として消化され、たいしたことはなくなっているような雰囲気になっています。むしろそれを補って余りある魅力が旧車にはいっぱい備わっているので、多少の苦労はむしろ愛着がわく材料でしかないというポジティブな気持ちで乗り続けられるのでしょう。みなさんもこっちの扉を思い切って開けてみませんか?