この記事をまとめると
■1961年にフォードが発表した「ジャイロン」は未来を象徴するコンセプトカーだった



■ジャイロ効果を利用して前後1輪ずつで自立して走行するとされた



■燃料電池を搭載しオートパイロットとナビゲーションと赤外線暗視装置の装備も想定されていた



時空を超えた未来のクルマがコンセプト

ジャイロン、といってもネコ型ロボット漫画のわき役ではなく、1961年にフォードが発表したコンセプトカーのこと。ですが、その奇想天外っぷりはネコ型ロボットのポケットから出てきてもおかしくない代物。なんたって、前後とも1輪ずつしかなく、自動運転やら燃料電池といった「未来」を象徴するエンジニアリングがてんこ盛り。



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そもそも、スタイリングからしてウェッジシェイプとジェットエンジンというちびっ子が描く未来のクルマそのまんま。まるで「時空を超えてやってきた」といっても不思議ではなさそうです。



ジャイロンがデトロイトモーターショーで発表された1961年といえば、アメリカはアポロ計画を発表し、スペースエイジの流行りと時を同じくしていたころ。となると、映画「フォードVSフェラーリ」でも描かれたとおり、ノリのいいヘンリー・フォード2世が流行に飛びつかないわけがありません。



とはいえ、スタイルが斬新、未来的なだけでは前年に発表した透明のキャノピーを採用したスペースライナーの二番煎じになりかねません。あるいは同年の意欲的なプロポーザルモデルとなったユニトロンなるRVだって、当時としてはかなり未来的だったわけで、大衆は「ちょっとやそっとじゃ驚かない」こと2世が認識していたことは確かでしょう。



2輪車なのに自立する! 赤外線暗視装置に自動運転に燃料電池! 1961年にフォードが爆誕させたコンセプトカー「ジャイロン」が衝撃的すぎる
キャノピードアをオープンさせたフォード・ジャイロン



そこで、1958年に「2000年になったら乗るクルマ」すなわちフォードX-2000をデザインしたアレックス・トレムリス(スバルのユーティリティトラック、ブラットをデザインしたことでも有名)と、のちに工業デザイナー、未来を描くアーティストとして活躍するシド・ミード(映画「ブレードランナー」のプロダクトデザインなど、SF界では知らぬ者のいない巨匠)という、フォード社内の藤子不二雄的なコンビをブッキング。



とはいうものの、まさかタイヤが2輪しかなく、ジャイロを使ったクルマができあがるとはさすがの2世も予想できなかったはず。



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フォード・ジャイロンの正面フロントスタイリング



前1輪、後1輪というレイアウトはオートバイを想起させるものの、ジャイロンは自立走行、すなわち操縦者がバランスを取ることなく走れるクルマでした。ジャイロとは、物体が自転運動をすると(自転が高速なほど)姿勢を乱されにくくなる現象を用いたもので、めっきり見なくなった地球コマや、手首を鍛えるジャイロボールなんかが身近なサンプル。



デザイナーの空想から生まれた夢のジャイロカー

このアイディアはトレムリスが温めていたものらしく、彼はフォードを退職したあとで実際に走れるジャイロカーをいくつも作っています。



が、コンセプトモデルには「直径60センチの円盤」が搭載されることはなく、また実走モデルも作られたと噂されているものの火事で焼失ということに。

近年、どこかの博物館から走行モデルらしきサンプルが発見されたニュースもありましたが、後年に作られたレプリカと主張する関係者もいるようです。



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モーターショーで発表・展示されたフォードジャイロン



で、ジャイロで走るだけでも大衆は驚いたはずですが、フォード2世は「もっと、こう、なんとかならんか」と欲を張ったのでしょう。ここで、デザインを担ったミードと、社内のマーケティング担当者あたりが「だったら徹底的にブチ上げようぜ」とジャイロンにあることないこと「未来のテクノロジー」を詰め込んだのでした。



発表当時のカタログに記載されているものを挙げれば、まずはガソリンに代わる燃料電池の搭載にはじまって、ボタンひとつで目的地に到達できるオートパイロット&ナビゲーションシステム、はたまた暗闇だろうと濃霧だろうと視界を確保してくれる赤外線暗視装置などなど。「え? 1960年代に?」と思うのもごもっとも。カタログには小さな文字で「現在のコンセプトカーには搭載していません」との注意書きというか、言い訳もされています(笑)。



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フォード・ジャイロンのカタログ



さらには、ふたつ並んだシートはどちら側でも運転できたり、車内に置かれたヘッドセットとマイクによって外部と通話ができる設定など、まさに未来を先取りしたテクノロジーが満載です。



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フォード・ジャイロンのインパネ



あくまでコンセプトというか、空想の産物とはいえ、60年以上も前にここまでやってのけたのはさすがフォードの藤子不二雄だと、驚かずにはいられません。



なお、「夢のジャイロカー」は大人たちにはもちろん、子どもたちにも大人気を博したようで、のちに発売されたおもちゃのジャイロンはバカ売れだったとか。さしづめ、バック・トゥ・ザ・フューチャーのデロリアン的な存在だったのでしょうか。



ちなみに、トレムリスが作った走行可能なジャイロカーですが、いくらかジャイロンよりはコンパクトなサイズ。



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ジャイロノートX-1の走行シーン



ちょうどジャイロンの妹、ジャイ子と呼びたくなるような可愛らしさです(フジコ先生ゴメンナサイw)。

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