この記事をまとめると
■内燃機関のひとつにガスタービンエンジンがある



■自動車メーカーもガスタービンエンジン車の可能性を探った時期がある



■モータースポーツではガスタービンエンジンの高い潜在能力に脅威を感じて規制された



自動車用内燃機関として忘れ去られた存在のガスタービンエンジン

現在、自動車の原動機として使われるのはエンジンだ。もう少し正確にいうと、化石燃料を使うガソリンエンジンとディーゼルエンジンで、エンジン内部で燃やした燃料の圧力(燃焼圧)を回転力に変え、タイヤを回す力(駆動力)として活用する機関だ。そして、エンジン内部で燃やした燃料が直接動力となることから内燃機関と呼ばれている。



ちなみに、内燃機関に対して外燃機関という言葉がある。もっともわかりやすい例は蒸気機関車で、石炭の燃焼エネルギーで水を熱し、それによって得られる蒸気圧をシリンダーに導きピストンの往復運動に変え、それを動力として活用する例で、石炭の燃焼エネルギーが直接動力として使われるわけではない。なお、蒸気をシリンダーではなく羽根車(タービン)に吹きつけ回転力に変える蒸気機関を、蒸気タービンと呼んでいる。



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さて、内燃機関だが、燃料を燃やした燃焼エネルギーでピストンを往復させ、それを回転力に変換するレシプロエンジン(スライダークランク方式)以外、ほかの方式はないのだろうか。たとえば、ロータリーエンジンはどう考えればよいのだろうか?



ロータリーエンジンは、燃料の燃焼エネルギーが直接ピストン(ロータリーピストン=ローター)を回転させてエンジンシャフト(エキセントリックシャフト)を駆動。この回転力を駆動輪に伝えてクルマを進める方式だ。



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ロータリーエンジンの内部構造



レシプロエンジンはピストンの往復運動→クランクシャフトの回転運動と力の方向性が変換されることに対し、ロータリーエンジンはピストンの回転力がそのままエンジン軸をまわす構造のため、力の伝達に関して損失が小さく、効率に優れるといわれている。



では、このほかに乗り物の動力源として利用できる内燃機関はないのだろうか。じつは歴史的に効果的な方式として使われてきたメカニズムがある。ガスタービンだ。燃料の燃焼で得られた高温高圧のガスでタービンをまわし、その回転力を動力して使うシステムだ。その特徴は、機関の重量や体積に対して高出力を得られることから、重くなることを極端に嫌う航空機やヘリコプターの原動機して使われてきた。



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ホンダHF120ガスタービンエンジン



もう少し詳しく見ていくと、タービンの回転力をそのまま軸出力として取り出す方式と、軸出力は圧縮機の動力のみに使用し、その次の過程で行われる燃焼作用、燃焼ガスを後方に噴出して推力とする(ジェットエンジン=ターボファン)方式に分けられる。



ちなみにガスタービンエンジンは、レシプロエンジンがひとつのシリンダー内で吸気、圧縮、燃焼、排気の各行程が繰り返されることに対し、圧縮、燃焼、膨張、排気がそれぞれ専用の区画で切れ間なく連続的に行われることが根本的な違いとなっている。



かつてはさまざまな自動車メーカーが開発に乗り出していた

さて、このガスタービン、その重量、サイズに対して高出力が得られるという特徴から、軽量性、高速性が最重要課題となる航空機やヘリコプター(陸自AH-64D、AH-1Sなど)、軽量化によって高い機動性が得られることから洋上戦闘艦(海自こんごう型、あたご型など)の機関として用いられてきた歴史がある。



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陸上自衛隊のヘリコプター



では、陸上交通の動力機関としてガスタービンはどうなのだろうか? やはり、軽量コンパクトにして高出力という特徴が注目され、1963年に米クライスラー社が乗用車「ターバイン(タービン)」で実用化を想定した試作が行われた。



ガスタービン機関の可能性を探る目的で作られた車両で、約132馬力/59kg-mの出力/トルクを発生。性能面では及第点だったが、排出ガス中に多量の窒素酸化物が含まれることから実用化は断念された。



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1963年のクライスラー社のガスタービン仕様車



ガスタービンを主動力機関とする例は、クライスラー・ターバインで見られた程度で、その後登場したトヨタ・センチュリー(1975年)、トヨタ・スポーツ800(1977年)、ボルボECC(1992年)などはショーモデルの域にとどまり、ガスタービン機関を発電機として用い、動力は電気モーターが受けもつハイブリッドシステムとして作られたことに大きな違いがあった。



なお、センチュリーの機関重量は公表されていたが120kgと軽量。オリジナルのV8エンジンに対し、その重量は3分の2から半分近かったことになる。



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トヨタ・センチュリーのガスタービン仕様車の展示様子



市販車のパワーユニットとしては実験段階で終わったガスタービンだが、レーシングカーの世界では少し事情が異なっていた。1967年のインディ500にSTPパクストン・ターボカーが登場。プラット&ホイットニー・カナダの製作したST6型(PT6型の派生)を搭載。



PT6型は、当時の小型航空機用として実用化されたエンジンだ。ST6型の機関重量は122kgで約586馬力を発生。インディ500の予選で6番手を獲得、決勝は残り8マイルの時点までトップを快走。ガスタービン恐るべし、の印象を関係者に与えていた。



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1967年のインディ500に参戦したSTPパクストン・ターボカー



このSTPパクストン・ターボカーに倣って1968年のインディ500に登場したガスタービンカーがロータス56だった。エンジンはST6からさらに一段進化したSTN型を搭載。4WDシステムと組み合わせる革新的なメカニズムで構成されたが、前年のSTPパクストン・ターボカーの性能を脅威と感じた主催者のUSACは、ガスタービンカーに吸気制限を課していた。このため、前年のようにレシプロエンジン搭載車を大きく引き離す場面は見られなかったが、それでもトップクラスのスピードを維持。逆にガスタービンカーの性能におそれをなしたUSACは、以降のインディカーの車両規定にガスタービンと4WDを禁止する条項を加えることになった。



その後ロータスは、1971年のF1にインディロータス56をF1用にアジャストしたロータス56Bを投入。しかし、ガスタービンエンジンの泣き所である燃費性能の悪さから大容量燃料タンクが必要となり、それが大幅な重量増につながることで戦闘力の低下を招いていた。



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ロータス56Bのフロントまわり



ちなみに現在、米陸軍のMBT(メイン・バトル・タンク)であるM1A1/M1A2エイブラムス戦車は、ハネウェル社製のAGT1500型ガスタービンを搭載。

1500馬力級の機関出力を誇るが、初めて実戦投入された1991年の湾岸戦争で、燃費性能の悪さから戦略面で苦労があったという。



また、インディカーでの登場と歩調を合わせるようにして、グループ6/4規定による1968年のスポーツカーレース(マニファクチャラーズ選手権)にガスタービンエンジンを積むホーメットTXが登場。



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ガスタービンエンジンを積むホーメットTXの走行写真



エンジンはコンチネンタル・アビエーション・アンド・エンジニアリング社が供給したTS325-1型ガスタービン。機関重量77kg、355馬力/90kg-mの出力/トルクとレシプロエンジンに対して断トツの性能だったが、ユニットの信頼性に欠け、トラブルの頻発によってル・マンの戦績はいまひとつだった。



現状、自動車のパワーユニットに対する要求性能はカーボンニュートラルだが、e-fuelの実用化が現実味を帯びてきた現在、軽量コンパクト性、高出力性を備えるガスタービン機関が、いま一度見直されてもよいように思えてくる。

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