この記事をまとめると
■オーバークールを防ぐために3代目プリウスオーナーは意図的にグリルを塞ぐことがある



■最近ではオーバークール対策のために電動式シャッターが装備されたクルマも存在する



■DIYで施行する際は空気抵抗を考えた構造で作らないと思わぬトラブルの原因になる



グリルを塞ぐ目的は?

地球温暖化・気候変動の影響でしょうか、2024年は暑い時期が長く、少しの秋を経て、一気に冬になった印象があります。あわててコートや冬靴を出してきたという人も多いのではないでしょうか。



そんな冬支度はクルマにも必要だったりします。



たとえば、「プリウス 冬支度」というキーワードで検索すると、少なくないユーザーが『グリル塞ぎ』をしたという投稿を見つけることができます。とくに3代目プリウス(30系)で知られるマニアックな冬支度で、文字どおりにラジエターに空気を送るグリルを塞ぐというものです。



ハイブリッドカー界隈で密かに流行る「グリル塞ぎ」って何の意味...の画像はこちら >>



「ラジエーターが冷えなくなるのは問題だ!」と思うかもしれませんが、じつは冷えすぎるのも問題で、これを専門用語では「オーバークール」と表現したりします。エンジンがしっかりと性能を発揮するには暖機が必要という話を目にしたことはあると思いますが、冷えすぎた状態というのは暖機できないまま走り続けるようなものです。



プリウスのようにEV走行モードをもつハイブリッドカーではエンジンが停止している時間がありますから、冬場の冷たい空気がラジエターをとおり、エンジンルームに進入することで、いつまでたっても暖機しないという状況になりがちなのです。



ハイブリッドカー界隈で密かに流行る「グリル塞ぎ」って何の意味がある? メーカーも純正採用する機能だけどセルフでやるのは「禁じ手」?
トヨタ・プリウス(4代目)のエンジンルーム



一般論でいえば、暖機が済むまでは燃料噴射が増量されますし、また暖房はエンジンの排熱(ラジエターを循環する暖まったクーラント)を利用して行います。



簡単にまとめるとエンジンを暖めるために燃料を消費するというシチュエーションが増えるのが冬季です。つまり、オーバークールは燃費に悪影響ということになります。



そこでラジエターへの空気のとおり道を塞ぐことで、オーバークールを防ぎ、エンジンを適切に暖機させるというのが『グリル塞ぎ』の狙いといえます。



燃費を稼ぐためにグリルを塞ぐというアプローチ自体は非常に正しいものといえます。なにしろ、トヨタ自身が4代目プリウス(50系)において、『暖機状態に合わせてシャッターを自動開閉する「グリルシャッター」の採用』をしているくらいですから。



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トヨタ・プリウス(4代目)のグリルシャッター



暖機するまではシャッターを閉じて冷えすぎを防ぎ、水温が上がってきたらシャッターを開けることで冷却するという、必要に応じて冷却性能を制御するという仕組みで、グリルシャッターは機能を果たすのです。



なお、グリルシャッターはプリウスだけの装備ではなく、他メーカーでも採用例があります。エンジンの温度を適切に維持するというのは燃費に効果的ですので、目立たないパーツながら、じわじわと拡大しています。



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スバルのアクティブグリルシャッター



オーバークール対策はレースでも使われる

グリル塞ぎ的なテクニック、カスタマイズはいまに始まったものではありません。



かつて微妙な水温管理が難しかった時代のバイクなどではラジエターの一部にガムテープを貼って、オーバークールを防ぐという手法もありましたし、それはレーシングカーでも見かけるものでした。



市販車においても、あのAE86カローラレビンには「エアロダイナミックグリル」という手動により開閉できるグリルが備わっていました。グリルを塞いで、本来の性能を引き出すというアプローチは、かなり昔からあったのです。



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トヨタ・カローラレビン(AE86)のフロントまわり



ところで、冒頭で紹介した30系プリウスのグリル塞ぎでは、マニアがDIYで取り付けているようですが、そこにはふたつの注意点があります。



AE86の手動可変グリルには『エアロ』という言葉が使われていますが、グリル塞ぎに空気抵抗の軽減といった空力的効果を期待すべきではないということです。



グリル開口だけに絞って空気の流れを見れば、塞いだほうが抵抗は少なくなるように思えますが、風洞実験などをしたケースを除けば、グリル塞ぎによって乱流が発生するのは確実です。その乱流がどのような悪さをするのかはわかりませんし、基本的に計算外の乱流が生まれて空気抵抗が改善するというのは考えづらいといえます。



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グリル塞ぎってなに?



それ以上に『グリル塞ぎ』で気を付けたいのは強度です。



停止した状態では十分な取り付け強度があって、グリルを塞ぐ部材自体も頑丈なものに見えても、クルマが100km/hで走ったときにかかる圧力(空気抵抗)はハンパではありません。

走行時に窓から手を出すと想像以上の空気抵抗を感じるでしょう。速度の二乗で空気抵抗は増えていきますから、高速走行で外れない・破壊されないくらいの強度でグリルを塞ぐ必要があります。



また、自動車メーカーが開発したグリルシャッターであれば、エンジンの温度に合わせて開閉しますから、オーバークールはもちろん、オーバーヒートも防げますが、単純なグリル塞ぎではオーバーヒートのリスクを負うことになります。



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スバルのアクティブグリルシャッターの空気の流れ



「グリル塞ぎ」というのは、そうしたリスクを承知のうえで、自己責任で実施することになるマニアックな改造といえます。筆者としてはオススメしませんし、どうしても冬季のオーバークールが気になって仕方がないというのであれば、グリルシャッターを装備したモデル(国産ではトヨタやスバルに多い)に乗り換えることをお勧めします。

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