この記事をまとめると
■ステランティスグループは英国ヴォクゾールの工場閉鎖を検討している■工場閉鎖は経営的問題ではなくイギリスでのEV販売比率の段階的引き上げが影響している
■安易なEV販売比率の引き上げは中国メーカーの現地工場進出などを招く可能性もある
ヴォグゾールの工場が閉鎖すればそれは経営難が原因ではない
報道によると、プジョーやシトロエン、フィアットといったブランドを有するステランティスグループが、イギリスにあるヴォグゾールのルートン工場の閉鎖を検討しているとして、地元を中心にイギリス国内で動揺が走っているとのことであった。
「ヴォグゾール?」、聞きなれない人も多いかもしれないブランドだが、1903年に自動車製造をはじめた、そもそもは純粋なイギリスの自動車メーカーであった。ところが1925年にGM(ゼネラルモーターズ)に買収される。
2017年にGMがオペルをPSAへ売却することとなり、ヴォグゾールもPSA傘下となった。その後ステランティスグループが発足し、いまはステランティス傘下となっている。そして現状は、プジョーやシトロエンとメカニカルコンポーネントを共用したオペルブランド車のバッジエンジニアリングモデルがほとんどとなっている。

工場閉鎖というと最近ではVW(フォルクスワーゲン)が話題となっているが、ヴォグゾールの場合は経営的な問題での閉鎖というわけではなさそうだ。イギリスのルートン工場では商用車のみが生産されているということだが、これはイギリス国内でのEV(電気自動車)販売比率の段階的引き上げが影響していると報じられていた。
イギリスでは2025年に28%、2028年に52%、そして2030年に80%(HEV[ハイブリッド車]20%を合わせて100%)、さらに2035年に完全100%をめざしている。小型商用車に限れば販売比率がやや低く設定されているようだが、2035年の100%BEV(バッテリー電気自動車)化を見据え、ICE(内燃機関)商用車を生産するルートン工場の閉鎖を検討しているようなのである。

工場閉鎖が現実的なものとなれば、そこで働く従業員の再雇用が問題となってきているとも伝えられている。
政府が雇用を減らして外国企業の進出を助長する危険性
イギリスでは100%BEV販売達成時期がやや流動的となっているが、これはBEV自体の技術的問題(価格設定も含めて)というよりは、雇用問題を考慮したものなのかなと報道に接して感じた。この報道でもBEVに政府が積極的な姿勢を示すのも、BEVという新たな分野にイギリス経済の活路を見出しているとしながら、一方でBEVへの生産体制の整っていないイギリスのいまの自動車産業ではいたずらに雇用不安を招くだけではないかと結んでいた。

「2035年・100%」だけがひとり歩きすれば、腰の軽い中国メーカーの現地工場進出などを招く可能性もある。「それなら雇用不安はなくなるのでは?」とも思えるのだが、ICE車に比べればはるかに部品点数の少ないBEVを最新設備の工場で生産するとなれば、抱える従業員数もいまよりは限られるし、スムースにBEV生産へ移行できるのかという問題もある。
つまり、いたずらに中国メーカー製BEVに市場を席巻されるだけで終わってしまう可能性もあるのだ。

日本も対岸の火事ではない。とにかく政治的な問題はあるものの、中国はまさにお隣さん、イギリスと中国ほどの距離はない。イギリスに比べれば日本メーカーはまだまだオリジナル性を保っているのでそこまで心配する必要はないとも思えるが、2024年11月、政府有識者委員会は国連へ提出する新たな温室効果ガス削減目標として、2035年度に2013年比で60%削減を提案している。
すでに2030年度に2013年比で46%削減するとしており、優秀なHEVをラインアップし、ICE車でも十分環境負荷の低いモデルを多くラインアップする日本車であっても、今後は自動車が日本国内でも温室効果ガス削減のやり玉に挙がるリスクは高まっている。