この記事をまとめると
■旧車と呼ばれるようなクルマはエンジンの暖気が必要とされていた■使用するオイルの規格にあわせてエンジンが設計されているのでオイル選びも重要だ
■最近のクルマでは暖気は原則不要となっている
エンジンオイルの進化が暖機運転の有無に大きくかかわっていた
最近のクルマは暖機不要といわれていますが、これはケースバイケースです。
なぜなら、暖機運転の要・不要はエンジンやエンジンオイルによって変わるからです。ただし、暖機運転なしでいきなり走り出すのはエンジンにとって必ずしも好ましくないのも事実。
まずは、エンジンオイルについて、少し掘り下げてみたいと思います。
エンジンオイルのグレードは、アメリカ石油協会=APIのオイルの品質規格の重要な指標になっています。これは通称、ドーナツマークと呼ばれています。このドーナツマークには、中心部にオイル粘度、ドーナツの上の部分にAPIのグレードが記されています。API規格ではガソリンエンジン用オイルをSで表し、SA、SB、SC……とあって、SPまであります。
このオイルグレードは新しければ性能がいいというわけではなく、各年代に求められたエンジンオイルと理解するのがいいでしょう。たとえばSAは1930年代以前のエンジン用。そこからずっと時代を進めて、1980年にSFが登場します。酸化防止や摩耗防止性能を高めており、1970~80年代のエンジン向け。
1989年にSGグレードが登場。高温堆積物防止性能が盛り込まれています。SGは1980~90年代向け。
最新はSN(2010年登場)やSP(2020年登場)で、SNは2010年登場。燃費性能と触媒保護強化が盛り込まれています。SPは直噴ターボ対応(低回転時のノッキング対応)といった具合。
SLくらいから燃費性能向上が求められるようになり、徐々に低粘度化が進められていきます。

現代のクルマであれば暖機運転はそこまで必要ではない
エンジンは、エンジンオイルの性能ありきで設計されていますから、たとえば1990年代には、その当時あったオイルの粘度に合わせたクリアランスでエンジンが設計されています。なので、最新のオイルを入れると粘度不足や油膜切れを起こして、エンジンにダメージを与えたり、最悪焼き付くこともあり得ない話ではありません。

年代が新しくなるにつれて、エンジンオイルには低燃費性能が求められるようになり、とくにこの10年は、低粘度のオイルが使われるようになります。当然自動車メーカーも低粘度オイルに合わせたエンジン設計となっているわけです。
粘度についてはドーナツマークの真んなかの部分に記されています。10W-30とか、最近では0W-30なんてオイルも珍しくなくなっています。
Wはウインターを意味しており、Wのついた左側数字は低温粘度を示しています。低温での性能は何度までエンジン始動時にオイルが適切に流れる能力を示します。

具体的には0Wは-35度以下、5Wは-30℃以下、10Wは-25度以下、15Wは-20度以下、20Wは-15度以下となっています。近年ではエンジンオイルの抵抗を少なくすることでも燃費性能を高めているのですが、その結果、低温時の始動性もよくなっているというわけです。
ちなみに、右側の数字は100度のときのオイルの動粘度を示しています。数字が大きいほうが動粘度が高く、高負荷時の被膜が切れにくいことを示しています。
……この説明だけだと、右の数字が低い最新のオイルは高温時の油膜保持性がよくないということになります。傾向としては間違いではありませんが、最新のエンジンオイルでは、低粘度でも優れた被膜性能を備えているオイルもあります。

高温高負荷時の被膜性能を表す指標としてはHTHS粘度という、油温150度での高温高せん断粘度があります。これを参考にすると、粘度表示が低くても高せん断性を備えたオイルを選ぶことができます。
話が逸れましたが、このようにオイルの性能や、クルマの年式によって、エンジンをかけてすぐに走り出しても問題ないクルマ、エンジンが温まるまで暖気運転をしたほうがいいクルマがあるのがわかると思います。

旧いクルマについては、極端に低粘度のオイルを入れると、各部のクリアランスが大きすぎてエンジンを損耗してしまうリスクが高くなります。なので、年式にあった規格のオイルを入れるのがいいと思います。暖機に関しては、個人的には、あまりエンジンオイルだけにとらわれず、可能であれば低負荷走行で走りながら暖機運転をするのがより好ましいでしょう。
とくにマニュアルミッション車の場合は、ミッションオイルの暖機も必要となるので、走りながらの暖機が必要になります。

そんな具合に、自分のクルマのメカニズムや使っているオイルに注意を向けてクルマと接してみるのも,面白いのではないかと思います。