この記事をまとめると
■旧車やネオクラシックカー乗りの悩みの種は純正パーツの製廃だ■再生産するのは技術的な問題以外にも課題が多い
■復刻や再生産は利益度外視の「心意気で行っている取り組み」として捉えるべきだ
純正パーツはなぜ復刻しない?
旧車およびネオクラシックカーオーナーにとって、避けて通れない悩みといえば純正パーツの確保。注文すれば「出る(買える)」ならまだ恵まれているほう。はるか昔に製造廃止となり、日々、ネットオークションをパトロールしているオーナーも少なくありません。
「なんでこのパーツが再生産されないんだ!」「なんで俺(私)のクルマのパーツは再生産されないのか!」。
オーナーからの恨み節が聞こえてくるようですが、それ相応の理由があり、事情があります。人気車種といえどもパーツの復刻が難しい理由についてまとめてみました。
●当時の資料や図面が残っていない
PDFデータのような日本語の文章をデジタルファイルで残せるようになってまだ四半世紀ほど。当然ながらそれ以前は紙です。1台のクルマに数万点のパーツが使われていることを考えると、メーカーあるいはサプライヤーが保管する書類の数は膨大です。いくらきっちりファイリングして倉庫に保管してもその数は膨れ上がる一方。そこで、施設の移転のタイミングや、一定の期間が過ぎたら破棄されていても仕方がないのです。

そうなると、ゼロベースで図面用のデータを"起こす"こととなります。その結果、メーカーやサプライヤーのデッドストック品、あるいはエンドユーザーの私物を借りて3Dスキャンするなど、新たにデータを作成することになるのです。
●金型を作るにも膨大な費用が掛かる(その費用を回収できない可能性も)
一例として、旧車およびネオクラシックカー乗りの大半が製造廃止または欠品で苦しんでいる、ボディパネルや前後バンパー。それぞれのパーツに設計図はもちろん、原形となる金型があり、鉄板やFRPなどをプレスすることではじめて「純正パーツ」となります。この金型の設計ならびに製造にも膨大な費用と手間が掛かります。

それだけの手間とコストを掛けたとして、果たしてどれほどの原価を回収できるのか……。現行の売れ筋モデルであれば予備パーツを作ってストックしておく必要があるでしょう。しかし、こちらは何十年も前に生産されたクルマ。現存している個体が数千台、あるいはそれ以下といったケースも珍しくありません。
しかも、現オーナー全員が購入するとも限らないのです。そうなるとたいていは赤字覚悟で作るか、いちユーザーが手が出ないほど高額な値段にせざるを得ないのです。
パーツの再生産は作る側だけの問題じゃない
●置き場所の確保
クルマに装着されているとあまり気になりませんが、ネットオークションなどでクルマのパーツを購入し、自宅に送られてくると思わず「デカっ」と叫んだことがあるかもしれません。そうなのです。クルマのパーツは思いのほか場所を取るのです。事実、旧車およびネオクラシックカーオーナーを取材していると、自宅の1部屋分を「パーツストック部屋」として潰しているという話をしばしば耳にします。
いつ使うかどうかわからない、でももっていると安心する。いざとなればネットオークションに出品して修理費用に充てられる。

個人宅に比べれば、自動車メーカーのパーツセンターやサプライヤーの工場の敷地面積は比較にならないくらい巨大です。とはいえ、置き場所には限界があります。企業にとっても在庫(資産)ですから、製品のコンディションを維持した状態で保管する必要があります。ましてや、同時並行で現行モデルのパーツも生産しているわけですから、優先度を考えたらおのずと答えが出てしまいます。
●金型や生産済みのパーツも在庫や資産として計上する必要があり
「棚卸し」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。現在、どれくらい在庫を抱えているのかを確認する作業です。そのためにホームセンターなどの店舗が月末や年度末になると早めに店じまいをしたり、ときには臨時休業することもあります。

また、パーツを作るための金型が固定資産としてカウントされる場合、会計上の処理が必要ですし、さらには減価償却をどのくらいの期間で行うのかといったことも必要になってきます。そのために、自動車メーカーとサプライヤー双方が協議したうえで「落としどころ」を見つけ、書面上の契約を交わさなくてはなりません。
生産終了したクルマのパーツや金型などのストックを、いち担当者の心情としては残しておきたい……。けれど、会社の資産の一部として考えた場合、そして商売である以上、利益を生み出す可能性が低いものは泣く泣く処分するしかない場合もあるのです。
●サプライヤーの理解(共感)や協力が必要不可欠
1台のクルマを生産し、ユーザーに届ける場合、自動車メーカーの力だけではどうにもなりません。
再生産するとしても、メーカーやサプライヤーが二の足を踏むモデルやパーツも少なからず存在します。大企業ですら躊躇する行為をいち専門店が行うとしたら、とてつもない設備投資、そして相当な覚悟が必要です。「やりたいのはやまやまだけど、銀行にいくら借り入れすればいいんだ?」というくらいの清水ダイブです。「ハイリスク&ローリターン」になる可能性も十分にあります。

どうにかこうにか再生産にこぎつけたとしてもユーザー、ましてやマニアの評価は残酷です。「オリジナルと質感や素材が違う」「高い」「ほしいパーツが再生産されない」「自分のクルマのパーツはいつ再生産してくれるのか」といったユーザーからの叫びがSNSなどで飛び交います。それはそれでユーザ目線において当然の要求であり、そういったシビアな声がなければ、絶版車の再生産を声高に宣言することはなかったはずです。

それぞれに思うところが多々あるかもしれません。