この記事をまとめると
■大ヒットの門出となったホンダWR-Vであるが最近は販売も落ち着いているように見える



■ライバルであるトヨタ・ライズはダウンサイザーをうまく取り込んで販売につなげている



■WR-Vは軽自動車からの乗り換えが多く、ハイブリッドと4WDもないため客層が限定される



ヒットモデルのWR-Vは本当に人気?

スズキ・フロンクスの販売が好調に推移している。自販連(日本自動車販売協会連合会)統計によると、国内発売後初めての1カ月フルカウントとなる2024年11月単月の販売台数は、月販目標1000台に対して1713台となった。受注ベースでは、すでに1万台以上のバックオーダーも抱えているという報道もある。

インドからの完成車輸入となり、インド国内でもヒットしていることもあるようなので、増産もままならないことも多くのバックオーダーを抱える背景にあるようだ。



インド生産モデルのコンパクトクロスオーバーSUVの先輩としてはホンダWR-Vを挙げることができる。2024年3月末に正式に国内発売となっているのだが、それ以前の予約受注分も含めると、まさに大ヒットのなかの門出となった。とくに最廉価グレードのXにオーダーが集中し、長期の納車待ちになった。



好調な滑り出しだったホンダWR-Vが失速気味! トヨタ・ライ...の画像はこちら >>



しかし、2024年の秋にもなると状況に変化が見えてきた。筆者が定点観測している登録済み(軽自動車は届け出)未使用中古車を多く展示する中古車展示場にWR-Vの未使用中古車が並ぶようになったのである。当初はダブつき気味ともいわれていた最上級グレードのZ+が在庫されていたのだが、年末にもなると売れ筋である最廉価グレードのXまで並んでいた。



そこで、自販連統計をベースに、WR-Vやおそらくフロンクスあたりも目標としたであろう、このクラスのトップセラーモデルともいえるトヨタ・ライズとの2024年4月から11月までの単月締め販売台数を比較する折れ線グラフを作った。



好調な滑り出しだったホンダWR-Vが失速気味! トヨタ・ライズやスズキ・フロンクスにあってWR-Vにないものとは
トヨタ・ライズとホンダWR-Vの販売台数の推移の折れ線グラフ



ダイハツからのOEM(相手先ブランド供給)車となるライズは、ダイハツの認証問題により出荷停止となっていたが、2024年2月16日にまずガソリン車の出荷停止が解除され、同年4月19日にHEV(ハイブリッド車)の出荷停止が解除されている。



トップセラーモデルとはいえ、ダイハツの認証問題による出荷停止が解除されたばかりということもあり、5月から7月まではWR-Vのほうが販売台数は多かったが、出荷体制の本格的な復調が見えてきた8月以降はライズがWR-Vを大きく上まわっている。



このような販売台数の分析をしているときに「WR-Vの中古車相場が急落している」との情報が入ってきた。2024年4月時点では250万円強ほどであったのだが、ある情報筋によると、話を聞いた時点でのWR-Vの中古車平均販売価格(12月中旬)は239.3万円となっていた。



好調な滑り出しだったホンダWR-Vが失速気味! トヨタ・ライズやスズキ・フロンクスにあってWR-Vにないものとは
ホンダWR-Vが2台並んでいる様子



もの凄い勢いでWR-Vの中古車流通台数が増えていることが大きく影響しているのは間違いない。新車購入して納車された年に売却するということは、一般消費者レベルではあまり考えられない話。流通している中古車の平均走行距離が812.9kmということからも、流通している中古車の大半は未使用状態でナンバープレートだけをつけて販売台数を稼ぐ「自社登録車両」であり、そのまま登録済み未使用中古車として流通しているものと判断できる。



WR-Vの限定したラインアップが苦戦を招く?

2019年に登場したライズは途中、ダイハツの認証問題などもあったものの、登場以来ヒット街道を爆走している。それなのにWR-Vは、発売年ですでに失速傾向が目立っているように見える。ここ最近はフロンクスの登場でシェアを喰われているという見方も否定できない部分であるが、ライズがダウンサイザーをうまく取り込んでいるのに対し、WR-Vは軽自動車ユーザー(とくに同門のN-BOX)からの乗り換えが目立つという違いも大きいように見える。



好調な滑り出しだったホンダWR-Vが失速気味! トヨタ・ライズやスズキ・フロンクスにあってWR-Vにないものとは
ホンダN-BOX(3代目)のフロントまわり



また、ライズと同じようにヒット車となっているのがトヨタ・ルーミー。ライバルとしてスズキ・ソリオを挙げることができるが、販売台数では太刀打ちできないほどルーミーがよく売れている。「スズキ=軽自動車」というイメージが世のなかには強く、スズキブランドの登録車には「ガラスの天井」のようなものがあるともいわれている。しかし、いまのフロンクスの売れ行きはこのガラスの天井を打ち破る勢いを感じるという声も大きい。これは「小さい高級車」というイメージがダウンサイザーを取り込んでいることも影響しているといえよう。



社会人として現役時代には会社の役職など社会的ステイタスを意識して乗るクルマを選ぶ人も多い(つまり見栄を張る)。

しかし、いざリタイヤすると、そのようなステイタスから解放され、とくにコンパクトで趣味性の高いモデルにダウンサイズして乗り換える(これがダウンサイザー)人がライズを選ぶケースも多く、これがヒット車としての原動力となっているものともいえる。



ところがWR-Vは、たとえば売れ筋の最廉価グレードでは、N-BOXのカスタム系モデルと支払総額が近く、「軽自動車を買おうと思っていたのだが……」といった客層が多いとも聞く。しかもN-BOXオーナーやN-BOXを購入検討車種にしていた人がWR-Vを選んでいるとも聞いている。つまり、そもそもの客層が、ライズやフロンクスほどの広がりを見せていないようなのである。



好調な滑り出しだったホンダWR-Vが失速気味! トヨタ・ライズやスズキ・フロンクスにあってWR-Vにないものとは
ホンダWR-Vの走行写真



WR-VはFFのみでハイブリッドの設定もない。一方のライズはガソリンとハイブリッド、そしてFFと4WDを用意している。フロンクスはマイルドハイブリッドエンジンのみとし、FFと4WDを用意している。ハイブリッドや4WDのないWR-Vでは、そのような仕様をほしがっている人にはヴェゼルのハイブリッドや4WDを勧めざるを得ないという。つまり、ライズやフロンクスと異なり、ヴェゼルへ流れるお客も相当数いるものと考えられる。



好調な滑り出しだったホンダWR-Vが失速気味! トヨタ・ライズやスズキ・フロンクスにあってWR-Vにないものとは
ホンダ・ヴェゼル(2代目)のフロントまわり



ダウンサイザーのなかには、装備や性能に対する価格設定が妥当などと、単純に安いクルマという視線以外で新車購入を検討する人も多いので、WR-Vよりはフロンクスとなったり、ブランドステイタスを考えれば「ホンダよりトヨタ」という動きになる人も出てくるのである。



モデルラインアップを絞り込みすぎてしまったことで、WR-Vが2024年内で失速傾向を見せてしまっているのではないかと考えている。

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