この記事をまとめると
■オフロード走行では最強との呼び声も高いのがスズキ・ジムニーだ■軽自動車でありながら副変速機などのオフローダーに不可欠な本格的装備も備える
■ジムニーはホープ自動車が製造した「ON360」がベースになっている
パワーがあればいいってものではないオフロード走行
ジムニーをオフロードで最強という人は多い。車格でいえば数あるSUVのなかでもっとも小さいのに、なぜそういわれるのだろうか。
この業界で最初に身を置いたのが、当時はRVと呼ばれていたSUVやミニバンの専門誌で、40年前から新車のジムニーに接してきたひとりとしてまずいえるのは、そもそもオフロードはパワーが大きければ速く走れるわけではないからだ。
それよりも大事なのは、まずは軽さ。人間の足がズボッと潜ってしまうような雪原を、小動物がひょこひょこ歩きまわれるのは、4本足ということもあるが、圧倒的に軽量だからだ。
でも、軽ければなんでもいいというわけでもない。ギャップをクリアするためには、十分な最低地上高とそれを実現する大径タイヤ、サスペンションストロークを長く取れるリジッドアクスルのサスペンションが欲しい。
このうち大径タイヤは、力をじんわり伝えることができるという点でも有利。でも、そのためには相応の力が必要だし、一般的なトランスミッションではギヤ比が速すぎる。そこで必要になるのがローレンジを備えた副変速機だ。できればハイレンジとのギヤ比が2以上であってほしい。

最近は電子制御でスリップを防ぐデバイスを搭載する車種が増えてきたけれど、内容を見ると1輪にブレーキをかけるなど、力を抑えることで駆動力を高める仕掛けであり、トルクを増幅する副変速機のほうが、とりわけパワーやトルクが限られている車種の場合はありがたい。
あとは軽自動車という規格も大きかったと思っている。ここまで書いてきたような、本物志向の内容は高価になりがち。それならボディも大きくして見栄えをよくし、儲かる商品に仕立てようという発想になりがちだからだ。

もともとはスズキの開発車両ではなかったジムニー誕生秘話
ただ、自分のジムニー体験では、車体が軽いうえに低回転から十分なトルクを生み出しレスポンスにも優れた2ストロークのほうが、より印象に残っている。
2ストジムニー最終型だった2代目SJ30のスペックを見ると、550ccの2ストローク3気筒エンジンは最高出力28馬力/4500rpm、最大トルク5.4kgm/2500rpmを発生し、車両重量は690kgだった。

一方、途中で追加された4ストローク3気筒ターボのJA71は、最高出力42馬力/6000rpm、最大トルク5.9kgm/4000rpmで、車両重量は810kg。2ストは同等のトルクを、はるかに低い回転で発生し、ボディは約100kgも軽いのだ。
でも燃費は4ストのほうがいいし、白煙は出さないし、トランスミッションが4速から5速になったこともあって、高速巡航は圧倒的に楽になった。ジムニーといえども、そちら方面の性能を無視するわけにはいかなくなったということだろう。

そんなジムニーの基本設計は、じつはスズキが手がけたものではない。東京にあったホープ自動車という小さな軽自動車メーカーが設計したものだ。
軽3輪トラックで成功したホープ自動車だが、その後ダイハツやマツダが同じカテゴリーに参入すると立ち打ちできず、4輪トラックに進出したものの1965年に生産を停止してしまった。
しかし、クルマづくりの情熱は消えず、豪雪地帯や不整路を走れる4輪駆動車の開発に取りかかる。エンジンや足まわりの部品は三菱から供給を受け、三菱ジープのタイヤを組み合わせたそのクルマは、ホープスターON 360と名付けられ、1968年に発売されたが、当時のカローラよりも高い価格ゆえに十数台しか売れなかった。

そんなON360に目をつけたのが、当時東京に駐在していたスズキの鈴木 修氏だった。

その鈴木 修氏が2024年12月にこの世を去ったことは、多くのクルマ好きが知っているだろう。逝去のニュースでは、アルトやワゴンRが代表作として紹介されたが、個人的にはジムニーもそこに加えたい。最小にして最強というオンリーワンのSUVを育て上げた功績に、この場を借りてありがとうと申し上げたい。