一大ミニバンブームのころはヒンジ式のリヤドアが多かった

かつての一大ミニバンブームのころは、ミニバンといってもスライドドアだけでなく、トヨタ・ウィッシュやホンダ・ストリームのようなヒンジ式リヤドアを採用するクルマがヒット。日本のミニバンブームを牽引したホンダ・オデッセイも、初代から4代目まではヒンジ式リヤドアだったのだ。



とはいえ、今ではミニバンと言えば両側スライドドアが常識。

2019年11月の乗用車販売台数ランキングで上位を占めるミニバンはトヨタ・シエンタ、アルファード、ヴォクシーやホンダ・フリード、日産セレナなどで、いずれも両側スライドドア車なのである。



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現時点でヒンジ式リヤドアを採用する3列シート車は、国産車ではトヨタ・プリウスα、ホンダ・ジェイドぐらいのもので、極めて少数派になっている。それは当然だ。ミニバンは広大な室内空間だけでなく、乗降性も命の多人数乗車。横開きのスライドドアなら両側にクルマが止まっていても、ドアを外側に開くことなく乗車でき、ワンステップフロアなら子供もシニアもペットも乗降楽々。しかも、全高がたっぷりあるから、背中を大きく曲げなくても乗降できる。さらに電動スライドドア+ハンズフリーオートスライドドア機能付きなら、足先を動かすだけでスライドドアが開閉するのだから、両手に荷物を持っているとき、雨の日に傘をさしているときなど、じつに便利なのである。



では、プリウスαのような低全高型のミニバンには、どうしてスライドドアが採用されないのだろうか?



便利で人気のスライドドア! ジェイドやプリウスαなど低全高ミニバンに採用されない理由とは



スライドドアの構造上全高が1700mm以上ないと採用が困難

その答えのひとつは、ウィッシュやストリームが全盛だった時代にさかのぼる。そう、当時のミニバンブームの中、3列シートは欲しいけれど、重心が高く、カーブでグラグラしそうな(実際にはしないのだが)、両側スライドミニバン、もっと言えば、ファミリー臭の強いスライドドアそのものに抵抗があるユーザーが多く存在したのである。そのため自動車メーカーは走りに有利な低重心、低全高のミニバンをそろえたわけだ。しかもそれが2000年初頭に大ヒット。しばらくは低全高、ヒンジ式リヤドアのミニバンが猛威を振るっていた。



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そして、プリウスαやウィッシュ、ストリームのような低全高ミニバンには、スライドドアが付けたくても付けられない理由がある。それはスライドドアの構造上の問題で、トヨタ・ルーミー&タンク、スズキ・ソリオのような2列シートでリヤ両側スライドドアを採用するコンパクトカーを見てもわかるように、全高が1700mm程度以上ないと、設置が困難。



もし、低全高のミニバンに、無理やり両側スライドドアを付けたとしても、スライドドアのメリットである、家の玄関をくぐるような乗降性の良さを、ルーフの低さ、および形状によって実現しにくいのである。また、低全高は車体の軽量化に寄与するとともに、低重心の走りをもたらしてくれるのだが、スライドドア設置によるドア回りの補強などにより、車重増は避けられない。もちろん、ヒンジ式リヤドアよりコスト高になるため、価格が勝負のコンパクトな低全高ミニバンのジャンルでは、採用のしようがないということになる。



オデッセイが5代目で初めて高めの全高+両側スライドドアを採用したのは、まさに時代の要請。3~4代目の低全高モデルは走りに特化したミニバンだったのだが(2代目のV6アブソルートも)、すでにミニバン人気は両側スライドドアを備えたボックス型に移行。依然、走りを重視したオデッセイは、さすがにボックス型にはできないものの、可能な限りの低全高(1685~1695mm)とリヤ両側スライドドアを両立させたのである。



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ちなみに、プリウスαやジェイドのような、ヒンジ式リヤドアのミニバンで、3列目席に乗車するのは、とくに両側ギリギリにクルマが止まっていて、リヤドアを全開にできないようなシーンでは、かなりアクロバティックな姿勢を強要される。よって、低全高ミニバンは、3列目席を格納して荷室を拡大し、ワゴンライクに使うのが正解。3列目席はあくまで緊急席という位置づけにならざるを得ない。今は、ジェイドにRS=2列シートが加わり、そちらのほうが売れているぐらいで、低全高、ヒンジ式リヤドアの国産ミニバンは、消滅の一途をたどる運命になりそうだ。



ミニバンは、全高が高く、室内空間が広く、両側スライドドアが付いていてこそ、その価値、意味がある、ということである。

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