道路交通法では義務付けられていない
世の中の「学校」で、自動車学校ほど有用な技術や法規の知識を教えてくれるところはなかなかないと思うが、そんな自動車学校=教習所で教わったことのなかで、卒業するとすっかり忘れ去られる教えがある。それは「踏切手前ではいったん停止し、左右の安全を確認するとともに、“窓を開け電車の音を確認”する」というルール。
道路交通法には、「車両等は、踏切を通過しようとするときは、踏切の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。
にもかかわらず、教習所の仮免検定、卒業検定では、「窓を開けて、音を確認する」ことを怠ると、「安全不確認」として、10点の減点となる(技能試験は100点中70点以上で合格)。無事免許を取って、街を走り出すと、踏切のたびに窓を開ける人など皆無であり、道交法違反でもないので、警察官に咎められることもないのに、なぜ教習所では踏切横断の際クルマの窓を開けると教えるのか。
一般社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会に取材してみた。
義務に関わらず安全を最大限確保することを教えている
「なぜ踏切横断の際クルマの窓を開けると教えているかと申しますと、教習所で教える内容は、安全確認に重きを置いているからです。
たしかに、教習所を卒業したあと、踏切で窓を開けるかどうかは、本人次第となりますが、『窓を開けたほうが安全』ということを知らずに街に出るのは可哀想ではありませんか。だからこそ、教習所の検定では、それを覚えているかどうかを審査しているのです」。
「違反になるかどうか、義務かどうかと、安全上大事かどうかは別の話です。たとえば、教習所では交差点での安全確認を確実にやるよう教えていますが、皆さんが街中を走っているときに、交差点で左右の確認をしていなかったとして、違反切符を切られることはありません。
したがって、路上の多くのドライバーが実践していないからといって、教習カリキュラムから、『窓を開け電車の音を確認する』というのを削除することは、いまのところ考えられません」。
というのが、担当者による答えだった。取材前は、50~60年前、まだ遮断機も警報器もない踏切が多かった時代の名残であり、形骸化したカリキュラムという印象だったが、意外にしっかりした考えに基づいていることが明らかになった。
窓を開けても、列車が近づいてくる音が聞こえるのは、かなり直近になってから……という気もしないでもないが、免許取得時に安全確認に対する意識を高めておくのは確かに意義があることだろう。
ただ、「窓を開けないと、今日のハンコがもらえない」から仕方なく「窓を開けている」人が多いのも事実で、大事なことは窓を開けるアクションを通じて、「安全確認はここまでやれば大丈夫、という定量的なものではない」ことを伝えること。
正直、踏切手前で窓を開ける必要性は感じられない部分もあるが、安全運転に終わりがないことだけは、初心者からベテランまで肝に銘じておきたいところだ。