ホイールキャップ付きのアルミホイールは空力性能に寄与!

CFD(流体力学計算)解析など、コンピュータによるシミュレーション技術の進歩により、クルマのボディの空力特性の改善をはかるための工夫は、極めて細かい部分に及ぶようになった。ボディ全体のシルエットやスポイラーなどのエアロパーツによる空力改善効果は今も大きく、各社ともさまざまな工夫を凝らしているが、現状では抜本的に空力を改善することは難しくなっている。



衝突安全性や歩行者保護性、居住空間の確保、さらには運転席からの視界など、さまざまな要件との兼ね合いもあって、最近のクルマは空力性能を向上させるのが難しいからだ。

クルマの性能自体が均一化したこともあって、各社は自社のアイデンティティを強めるデザインを求めるようになったことも、空力性能の追求をより難しくしている。空力性能の目安のひとつとしてよく使われるCd値を例に挙げると、30年以上前に登場した初代NSXでCd値0.3。最新モデルのCd値は最高レベルで0.24ほどであり、しかもごく一部のクルマに限られる。今でもCd値は0.3を切ると優秀と言われるなど、Cd値を良くすることは本当に難しいことなのだ。クルマの空力性能はCd値がすべてではないとはいえ、頭打ち感がなくもない。



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そんななか、最近になって目立つようになってきたのが、ボディまわりの小さな整流パーツ。前後のバンパー、またはランプ類に、なんとなくフィン状の形をした微妙な突起物がつけられることが増えてきたが、これらも立派な空力性能向上のための工夫だったりする。それ単体での効果は微々たるものでも、チリも積もれば、というわけである。ほかの空力改善の工夫との相乗効果も高い。



アルミホイールの形状やデザインにも、空力性能を意識して設計されるケースが見られるようになった。代表的なのは、現行型トヨタ・プリウスと、スバル・レヴォーグの前期型の下位グレードに装着されたホイールキャップ付きのアルミホイールで、回転方向の空気抵抗を減らす工夫を施したスポークデザインが特徴的だ。



「アルミ」なのになぜ「ホイールキャップ」を付ける? プリウス&レヴォーグの不思議



燃費と意匠性を両立する手段として採用された

エコカーのプリウスでは当然の選択と思えるが、スバルがスポーツ性の高さをウリにするレヴォーグに、燃費の改善を意識したフルエアロキャップを採用したのは意外だった。

前期型の1.6GT/1.6GT EyeSightに装着された215/50R17サイズのアルミホイールは、空気抵抗低減に有効な形状のフルエアロキャップと組み合わせることにより、燃費と意匠性の向上をはかった。じつは、地味ながらレヴォーグの1.6GT系の隠れた入魂ポイントのひとつだったのだ。



残念ながら、レヴォーグの1.6GT系のフルエアロキャップ付きアルミホイールは、前期型のみの採用で終わっている。キャップを外した状態でもしっかりデザインされたアルミホイールが現れることもあり、キャップを外すユーザーが少なくなかったなど、評判はあまり芳しくなかったという。せっかくの試みも虚しく、後期型から採用されなくなった。しかし、ホイールのデザインにも空力特性の改善効果を求める流れは、おそらく今後も続くことだろう。



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ちなみにスバルでは、戦前の航空機メーカー時代から空力開発に取り組んでいたこともあり、空力開発には独自のスタンスが見られる。群馬県太田市の本工場敷地内にある風洞実験施設では最新鋭化が進み、ムービングベルト方式と呼ばれる走行状態の車両各部の空力性能データの解析能力が向上。



市販車はもちろん、ニュルブルクリンク24時間レースやスーパーGT参戦車両にも活かされ、良好な結果をもたらしているが、開発のハイテク化が進む一方で、「空気の見える職人」の養成にも取り組んでいる。



航空機開発時代に実物大の木型の模型を作り、手作業で機体の空力開発を行っていたという伝統を、現代のクルマの開発に生かすという取り組みだ。若手のエンジニアが空力の本質を学び、開発スキルの向上にもつながっているという。空力試験結果のフィードバックプロセスの改善も得られているというので、今後のスバル車の空力性能に注目したい。

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